僕は何度も生まれ変わる

 社畜のサラリーマンだった男が、29歳で子供を助けようとして車にはねられ、気がつくと異世界に記憶を持ったまま転生していて、そのまま18歳まで成長したものの知識を生かして子供ながらに軍隊に入って頭角を現すことはなく、村人でも領主に使える身分として日々を働いて生きていた。記憶にあった異世界のことを話しては気味悪がられたこともあって、今はすっかり話さないようになっていたけれど、子供の頃はそんな話を喜んで聞いていた娘がいた。

 もっとも、地主の娘だった少女は今はもう雲の上のような存在で、少年は彼女の飼っていた犬を連れていつものように散歩に出かける。そこに現れたのがショッピングピンクの目の色をした奇妙な女。駆け寄った犬を殴って殺し、少年は少女を連れて逃げ出したもののどうやら女は尖兵で、村はどこかの軍隊によって蹂躙され、かろうじて逃げ出した2人も追い詰められ、もう逃げ場はないと諦め崖から飛び降りて命を絶つ。

 そして気づいたら男はまた転生していて、記憶も社畜時代を含めてしっかり持っていて、今度は志願兵として帝国を相手に戦っていたけど、臨んだ戦場でショッキングピンクの目をした女に粉砕されて命を失い、続いて蜥蜴人(サラマン)に転生して森に住んでいたら帝国が攻めてきて、逃げていた少女を助けようとしてショッキングピンクの目をした女に切り伏せられ、そしてとある王国の王子の軍師となって帝国に立ち向かい、若き将軍を追い詰めるもののそこに現れた天剣持ちというショッキングピンクの目をした女に斬られて死んでしまう。

 いつも同じ18歳で、同じような死に様を迎え続ける男。相手も同じようなショッキングピンクの目をした女というこの運命はまだ男を見逃さず、目覚めて今度は幼くして老婆に預けられ、その老婆が死んだ後に傭兵の集団に売られてしまう。ロワという名を持ったその男が18年間を過ごして成長したとこで、十文字青による新シリーズ「僕はなんどでも生まれ変わる」(スニーカー文庫、660円)の物語が本格的に幕を開ける。

 死んだら異世界というのは最近のファンタジーによくあるパターンで、前世の記憶を使ってうまく生き抜いていく設定もよくある展開。それが何度も繰り返され、なおかつ同じようなショッキングピンクの目をした女によって命を奪われた続けた果てに繰り広げられる物語といった重ね合わせと、そこからの国々を挙げて帝国の侵略と戦う怒濤の展開が、数ある“異世界転生俺TUEEE”とは違った味を感じさせる。そもそもロワは強くはない。最初のうちは。

 ロワは傭兵でありながらも体が弱く、手段では知恵をめぐらせる参謀にも近い役割を担っていた。そこに激変。実はロワは魔王と呼ばれる強大な力を持った王様の子供で、消息不明だったものが見つかったということで父親に呼び出され、王子ということで政略結婚のコマにされ、巨人族が治める国の姫の婿にさせられる。いきなり傭兵として戦場でショッキングピンクの目をした女に出会い、惨殺されるような展開へは向かわない。

 これまでの人生では得られなかった女性との関わりも。婿として向かった王家の娘は巨人族であったため身長はゆうに180センチを超えていて、グラマラスで性格も良くロワに誠心誠意尽くそうとする。社畜時代も29歳まで童貞で、以後の転生した世界でも18歳で童貞のまま死に続けてきたロワにやっと春が巡ってきたかと思いきや、ここでも帝国は版図を広げている最中らしく、総攻撃が始まってロワの父親が納めていた国が蹂躙される。

 果たして交渉の余地はあるのかと、身分を隠し嫁いだ国からの使者として向かった敵の本営では、かつて目前まで迫りながらもショッピングピンクの目の女に邪魔され倒せなかった若き将軍が長じた姿で登場し、そして当のショッキングピンクの目を持つ女が皇女であり、東方将軍として眼前に現れる。

 前世で軍師として使えていた王子が国の滅亡後に傭兵として生き延びていたことも含め、ロワを含めた前世が社畜としての生活以外はすべて同じ世界で、流れる時の上で起こっていたことが裏打ちされる。そうだとしたら、ショッキングピンクの目をしていつも主人公を殺しに現れる女も同じなのか? それだと年齢がおかしくなる。子孫か。その割には似すぎている。謎も多いそんな存在が、この巻の終わりでも帝国を率いて現れては、主人公たちが嫁いだ国が近隣の国々を束ね帝国を押し返そうとしていた戦いの中で切り札のように振る舞う。

 そこで初めて18歳で死なない運命めいたものを掴んだかに見えるロワ。いったいどうしてそんな力が? ショッキングピンクの目をした女の殺戮を続けなくては成らない運命を、いつか妨げる存在として用意されていたのか? いろいろな想像も浮かぶ。そしてこれからどうなっていくのか? 退けられたかに見えるショッキングピンクの目をした天剣持ちの少女と、彼女が率いる自分たちこそが人間であると嘯き、侵略を続ける帝国の出方が今は気になる。

 あの魔王ですら倒して一族をすべて斬首し、首を容器に着けてさらす残酷さを見せる帝国がいったいどういう理由で侵略を続けるのか? ただ自分たちが他とは違って高等だからという理由で全世界を敵に回せるものなのか? 強大ではあっても圧倒的ではないと分かった帝国軍を退けロワたちは平穏を取り戻せるのか? 知りたいことは山ほどある。だから十文字青は早く続きを。


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