鉄腕バーディー

BIRDYTHEMIGHTY


 80年代の中頃から後半にかけての「増刊少年サンデー」は、当時の漫画雑誌のなかでも頭1つ抜けた面白さを持っていたと、僕は今でも思っている。

 「増刊少年サンデー」を買うようになったきっかけは、細野不二彦の「さすがの猿飛」を見たからだった。今でこそたくさんの雑誌に連載を持ち、単行本も山と積まれる漫画家となった細野だが、「さすがの猿飛」を連載していた当時は、単行本といえばおそらく「クラッシャージョウ」のコミカライゼーション(って言葉はあるのかな?)くらいしかなく(記憶あいまい)、今ほどの知名度はなかった。

 それから安永航一郎。おそらくは商業誌デビュー作にして、今なお最高傑作の1つと思っている「県立地球防衛軍」(もう1つは「巨乳ハンター」ねっ!)を1読して、僕の脳髄は完全に破壊されてしまった。たまたまその回に、「しいたけヨーグルト」なる珍妙な食物が登場していてたのが運の尽き。九州といえば「しいたけ」という固定観念が、僕の頭の中には今も植え付けられたままとなっている。

 島本和彦の「風の戦士ダン」。後に「炎の転校生」で「週刊少年サンデー」を引っ張ることになる島本も、当時は「増刊少年サンデー」で力を蓄えていた。鈴宮和由、みず谷なおき、中津賢也、克・亜樹、天獅子悦也を最初に知ったのも「増刊少年サンデー」だった。

 そんななかにあって、「鉄腕バーディー」を引っ提げて「増刊」登場したゆうきまさみの印象は、ほかの誰にも増して衝撃的だった。炎のなかから、指をバキボキならしで姿を現した「宇宙連邦捜査官バーディー」の登場シーンは、雑誌が発売されてから10数年を経てもなお、頭のなかに鮮明に残っている。グラマラスでパワフルでコミカルな「バーディー」の一挙手一投足を見たいがために、今ほど自由に使えるお金がなかったにも関わらず、毎号毎号「増刊少年サンデー」を買い続けた。そんな時間も、わずかしか続かなかったが・・・・。

 中断と再開、そして幾つかのサブ・ストーリーを残して僕の前から姿を消した「鉄腕バーディー」が、10数年の時を経て、1冊の単行本としてまとまった。「鉄腕バーディー第1卷」(小学館、1200円)を手に取り、頭のなかに残っていた名場面の数々と照らし合わせながら読んでいる。バーディーの登場シーンも、力強さとスピード感にあふれるバーディーの戦闘シーンも、クリステラ・レビの妖しく不敵な微笑みも、むかし雑誌で読んだ時のまま。レビが従えていた美少女アーカソイド「オンディーヌ」の原田知世風(時かけバージョン)髪型も覚えていたとおり。界面活性剤を浴びて苦しむバチルスの姿を見て、台所にあるママレモンを手に取って、中身の成分を確かめたこともあったっけ。

 「究極超人あーる」のヒット、「機動警察パトレイバー」の大ヒットを経て、メジャーな漫画家の仲間入りをしたゆうきまさみだが、いちばん好きな作品を選ぶとなると、やっぱりどうしても「鉄腕バーディー」を挙げてしまう。宇宙をまたにかける犯罪者を追って、地球にやって来た正義の味方が、現地の協力者とともに犯罪者を追いつめていくストーリー。陳腐と言いたい人は言え。お約束と笑いたいやつは笑え。バーディーのみなぎるパワーと発散する健康なエロティシズムに触れたとたん、あなたもきっと虜になる。

 第1卷と銘打たれている以上は、きっと第2卷も出るのだろう。しかし、第1卷の方に雑誌連載時の本編はすべて収録されてしまっているから、残っているのはバーディーがまだ子供のころのエピソード(笑うバーディーがこれまた可愛い)や、あーるが投げたバットを投げ返す海でのエピソード、光画部の先輩の1人が仮装していた鬼のモトネタが登場する冬の温泉のエピソードなど、読み切りのサブストーリーくらい。これだけではとうてい1卷分は埋まらない。

 あるいはどこかで連載が再開されているのかもしれないし、OVAの発売に合わせて再開されるのかもしれない。いずれにしても単行本化とアニメ化をきっかけにして、幻の作品が蘇るのは嬉しい限りで、あとは自宅にビデオがあって、三石琴乃演じるセーラームーンでも葛木ミサトでもない「鉄腕バーディー」の勇姿を見られれば、ホント何もいうことない・・・んだけどね。


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