BATTLE ROYALE
バトル・ロワイアル

 殺らなきゃ殺られる。そんなシチュエーション。さてどうする?

 たぶん殺るんだろうなと漠然と思う。だって殺られたくないから。後で怨んでやるぞとかって言われても、存在するのかどうか解らない幽霊になんかなって怨む立場になるよりは、存在しないかもしれない幽霊に怨まれる立場になる方がずっとマシ。昔の人も言っている。死んで花見が咲くものか。生きてるうちが花なのよ。

 高見広春の「バトル・ロワイアル」(太田出版)はこんなシチュエーション。独裁国家となっている極東にある円弧状の島国、大東亜共和国の香川県にある城岩町立城岩中学校3年B組の42人は修学旅行に向かう途中にバスの中から全員が連れ去られ、高松市と岡山市の間にある瀬戸内海の沖木島に運ばれた。

 登場するは長髪の教師、坂持金発。「はいはいはい、それじゃ、説明しまーす」と、明るさが逆に鬱陶しい口調の坂持が始めた説明によると、そのクラスは「プログラム」に選ばれたのだという。独裁国家の中で実施されている、中学校3年のクラスが毎年50クラスが選ばれ、それぞれにクラスの全員が最後の1人になるまで戦わせるのが「プログラム」。別に秘密でも何でもなく、誰もがその存在を知ってはいたけど、まさか自分たちがなるとは思っていなかった。

 とは言えそれは確率とか運の問題でしかない。自分が政府の関係者の子息だからといって逃れることは出来ない。3年B組にも県のエライさんの息子がいて、他のクラスメートが脅える中でどうして自分が言ってはみたものの、平等だからと一喝されて黙り込む。だったら逃げ出す事は? それも不可能。なぜなら全員の首には電波で爆発する爆薬がセットされた首輪がはめられて、逃げ出せばスイッチを入れられたから。

 全員が一致して殺し合わなければいいじゃないかって? それも不可能。24時間誰も死ななかったら途端にスイッチが入れられて全員の首が吹っ飛ぶって寸法。おまけに島を碁盤の目のように100に区切ったエリアが1つづつ、一定時間ごとに禁止エリアに指定されて立ち入った人の首輪に電波を送る決まりになっているから、動かずジッとしてやり過ごすなんてことも難しい。だいいち隠れていたって最後の2人になった後は。そして24時間の間に誰も死ななかったら。結果は死。

 つまりはどうあっても殺らなきゃ殺られるってわけ。もう1度だけ聞くよ。さてどうする?

 そこに救世主。普段は寡黙な、全身に傷のある、1年留年して転校して来た川田章吾から、主人公の七原秋也は自分を信じれば助かると言われる。自分は助かる方法を知っている。だから信じろと言う。信じられるか? 安心させておいて寝首を描くかも知れない。そこまで待たずとも手を差し伸べた途端にズドン、とやられる可能性だって十分にある。

 現に島のそこかしこで、生徒が生徒によって次々と殺られている。中でも強いのが桐山和雄。いわば学年の不良を束ねるボスとして君臨していた彼は、「プログラム」が始まった途端に寄って来た自分の手下たちを次々を殺す。心に人を殺ることへの葛藤もなければ快楽もない。殺らなきゃ殺られるという事実だけが桐山を動かし、クラスメート殺しを続けさせる。

 それが当然だとばかりにクラスメート殺し始めた桐山とは違うが、別の3年B組の生徒たちも疑心から心に暗鬼を生じさせて、出会い頭の動きが自分を殺そうとしたものだと決めて先に相手を殺す。人を信じる事の難しさ、なんて言うのも無駄。たとえ信じて共に行動を始めたところで、確実に島を抜け出る方法を見つけられなければ、最後は2人して戦い1人が勝つか、2人とも首を吹き飛ばされるしかないのだ。

 川田はその方法を知っているという。そして秋也と典子の2人を信じて自分を信じろという。だから秋也は信じた。典子も信じてついて行った。クラスメートがクラスメートによって次々と殺され、あるいは殺していく「死のバトル・ロイヤル」の果てにたどり着いた場所。それを見てなお人を信じる心を持っていられたら、というよりむしろ人を信じる大切さを学べたら、多分未来は明るいだろう。

 殺らなきゃ殺られるんなら殺る。けれども殺らなくても良いなら殺るものか。読み終えて決然とそう思う。

 残った1人に贈られるのが優秀な兵士としての道ではなく、総統からの色紙と生涯の生活補償だけ、という「プログラム」が周囲を敵国に囲まれた国にあって実施する意味がどこにあるのか、という疑問がまず浮かぶだろう。それが嫌なら国の言うことを聞けと言われても、反抗する人を容赦なく射殺する国で、中学生の50人が殺し合わなければならない「プログラム」など意味がない。

 あるいは「プログラム」の存在が公にされていることを考えれば、人がお互いを信じられないようなシチュエーションを見せつけ反抗する気力を奪う事に意味があるのかもしれない。がそれは人民に限らず政府の人間にだって同じ事。上から下までが誰も信じられなくなった国家がどうやって成立していけるのか。「バトル・ロワイヤル」が存立し得る土台となる設定だけに、疑問を挟んで挟み足りない事はない。

 とはいえ、その辺りへの解釈と解説もちゃんとあるから納得できるならば納得すれば良い。納得できなくても物語における現実としてそのシチュエーションつまりは「殺らなきゃ殺られる」状況になった時の身の施し方を学べるのだから良しとしよう。

 とにもかくにも42人いるクラスメートたちが、それぞれに誰が誰を好きとかいった中学生らしい感情が意味を持ち、好きだから虐めてしまったなんて中学生らしいエピソードが生死に関わる意味を持ち、そんな事情を持ってクラスメートたち邂逅し、そして必然として殺戮し合うその描写の荒唐無稽なリアルさに圧倒されよ。分厚い物語を山を作り谷をこしらえドキドキワクワクハラハラとさせながら一気呵成に読ませる力量に驚嘆させられよ。


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