AZUMANGA−DAIHO
あずまんが大王1

 「佐藤辰夫」なんて普通の人は誰も知らないおっさんが、帯で「これは面白い。いや、とても面白い」と誉めて果たして何の効果があるんだろう? という疑問はまあ、そこはかとない含み笑いをもたらすギャグと理解して引っ込めよう。日常のちょっとしたシチュエーションからそこはかとない面白さを見つけ出すのが最大の特質でもあり、また武器でもあるあずまきよひこの、たぶん最初のオリジナル単行本「あずまんが大王1」メディアワークス、680円)に寄せられた、発行元の社長による最大にして最適の献辞だ、有り難く頂戴しておけば良いだろう。

 「天地無用」や「魔法少女プリティサミー」や「大運動会」といったパイオニアLDC製作、AIC制作のアニメ作品のLDやビデオのライナーに、数々のパロディ漫画を書いた作品がすでに「あずまんが」(パイオニアLDC、1905円)にまとまっていて、ギャグを描かせての力量そして女の子を描かせての可愛らしさについて、全くもって「問題ない」と諸手をあげて支持するあずまきよひこだが、原作の誇張なり原作とのズレが笑いにつながるパロディではない、オリジナル作品でさてどこまで力が出ているのかを読む前に抱いたことは、ここで告白しておかねばらならい。

 だがすべてが杞憂に終わった。まさしく「個性的」と言えるキャラクターの設定があり、連載期間を通じて流れる時間軸があるなかでの4コマ漫画は、1号分の雑誌に掲載される何本かを通して1つのストーリーになっていることもあって、例えばいしいひさいちのような、1話1話を抜き出して読んでも起承転結の決まって存分に面白い4コマ漫画とは比較は出来ないが、いったんその世界を受け入れ、キャラクターの特質を理解した上で読めば、それはもう無茶苦茶に面白くオチもある4コマの集合体だということが解る。狂歌的、ではなく連歌的、とでも言うのがあるいは適切だろう。

 キャラクターを幾人か紹介すれば、教師の谷崎ゆかりはズボラで教育にとりたてて情熱がある訳でもなく、他の教師が作った試験を生徒といっしょになって解こうとして果たせず、試験中の生徒の解答をカンニングするは、良い点をとった生徒に「いい気になるんじゃないわよ」と脅しをいれるはともう滅茶苦茶。通勤に使っていた自転車のチェーンが外れ遅刻しそうだと困っていたところに修理を手伝ってあげようと寄ってきた生徒の自転車を、かっぱらって学校へ向かうといった具合に、傍若無人な我侭ぶりを全編あますところなく発揮する。

 そんなゆかり先生のクラスに編入して来たのが、10歳なのに天才だからと飛び級を認められたちよちゃん。「ガキのくせに勉強が出来るからっていじめないで下さいね」と紹介するゆかり先生のゆかり先生らしさが存分に出たギャグを1発かませつつ、とにかく勉強が出来て素直で良い子でクラス委員になって教卓の向こうで背伸びをしながらホームルームの司会をするちよちゃん健気さに、何だ普通じゃないかと思ったところに大ドンデン。テストがあってクラスの中でもことのほか元気なともちゃんが、せめて1教化だけは頑張ると保健体育で満点を取った時、92点だったちよちゃんがマジにくやしそうな顔を見せる場面があって1つのオチが付く。

 お気に入りは姉御っぽい雰囲気があって大人びた外見で不良っぽさが漂い暗そうで無口なスポーツ万能のナイスバディ、なのに本当は動物が大好きで可愛い物が大好きで「飼育部」に入りたくって「ポストペット」と名前を聞いて想像した結果のカワイサに頬を赤らめる性格で、けれどもそれを周囲に言い出せない葛藤が面白い榊さん。撫でようとしたネコに咬まれ、そのネコが機嫌良さそうなところを見計らって再び接触に挑戦してやっぱり咬まれ、ああ性格のギャップを全編通じて見せて楽しませてくれる。

 大阪から転校して来て性格は比較的のんびりとしてボケタイプなのにともちゃんから大阪人的なギャグを期待されて悩み、さらにはともちゃんから「大阪だから大阪」というあだ名を付けられとまどう春日歩もなかなかな味。そして最終兵器的存在とも言える、何で高校教師になったかを聞かれ「女子高生が好きだから」と答え体操着の裾はブルマの中にたくし込むのが正しく水泳部の模擬店の売り子はスクール水着でなけれなならないと激しく主張する古文の木村先生に、憎悪を覚えつつ親近感を感じてしまう。

 ほかにもどこかズレた性格の美少女女教師たちを交えての学園コメディ4コマ大河ストーリー漫画を、1カ月間待ちわびる事なく単行本で一気にまとめて読める幸せを、より大勢の人に感じて頂ければ佐藤辰夫の満を持しての臆面もない帯への登場も、大きな意味があったというものであろう。これで足りないと言うのであれば、いよいよ発売元になる角川書店の角川歴彦社長を引っぱり出して「凄い凄い凄すぎる」とでも叫んでもらうしかない。それもまた一興、2巻では是非。


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