A君(17)の戦争 1 まもるべきもの

 お約束。ショウは割りかし美少年だったしマーベルは美少女というか美女だった。ジェリルもまあ美女。アレンとトッドは軍人だけに性格は好戦的だったけど、顔立ちだけならやっぱりともにナイスなガイ。ショットにいたっては天才的なエンジニアで策略家で、なおかつほかの誰よりも美形ときたもんだ。こう見ると、呼ばれる人っていうのにはつまり、才能とは別に良い男良い女という条件が絶対的に必要だってことらしい。どこに呼ばれる人がかって? そんなもの異世界に決まっているじゃないか。

 だからだから。豪屋大介の「A君(17)の戦争1」(富士見ファンタジア文庫、620円)に登場する「身長は160センチあるかないか。その割りにはころころした体型。顔立ちは……苦み走ったの反対、きりりりとした、の反対、整った、の正反対。要するにアレ、女の子のきゃあきゃあとは絶対に言われないタイプ」(10ページ)の少年A、じゃなかった小野寺剛士が崖から落ちたバイクとともにじゃなくって、いじめっ子に投げ飛ばされて天抜神社の祠へと突っ込んだ瞬間、異世界へと召喚されたという話を正直認められなかった、というか認めたくなかった。

 あまつさえ。呼ばれた先で小野寺剛士に割り振られた役割は「聖戦士」とやらになって「ダンバイン」とかに乗って戦うことでもなければ、「黄金の戦士」とやらになって世界を破滅から救うことなんかでもなかったというからこれは吃驚。何となんと、異世界で小野寺剛士を待っていたのは「魔王」になって「魔族」を率いて「人族」と戦うという役目だったのだ、それも美女美少女美幼女たちに囲まれて、ああ羨ましい。

 違う。羨ましがっている場合じゃない。魔族といってもこれが案外平和的な人々、っていうか魔物たちで、なるほど吸血鬼やらエルフやらゴブリンやケルベロスやらトロルやら、見かけからして怖かったり見かけば麗しくっても力は100人力だったりするけれど、悪さをする訳でもなく魔王のもとで国を作って周囲の国々と交流しながら静かに楽しく暮らしてた。けれども3年前、フェラール三世率いるランバルト王国による侵略が始まってからというもの、魔王領は周辺の領土を削られ戦いの方でも連戦連敗で、魔都すらも陥れられそうな危機的状況にあったのだった。

 それなのに。ああそれなのに呼ばれて輝く光とともにじゃじゃじゃじゃーんだったのは、前述したようなちんちくりんの小野寺剛士。大会戦のまっただなかに現れては戦闘の激しさに小便もらして縮こまって気絶した小野寺剛士。これでどうしろと。どうやってフェラール三世率いる、ように見えて実は背後に美少女ながら天才的軍略家でおまけに性悪という妹姫のシレイラが控えたランバルト王国に勝てと。問いつめたい、小一時間問いつめたい。

 ところがだ。実は小野寺剛士には隠れた才能があった。というより剛士と似たような境遇で異世界へとやって来た歴代の魔王たちには、皆それぞれに優れた才能があって、だからこそ魔族は虐げられもせず狩られもせずに、国を作って平和な生活を営んで来られた。ピンチになればそのピンチをパンチする(ベタ過ぎる……)才能を持った魔王が、顔の良し悪しに関係なく召喚されるのがこの世界の”法則”。国家存亡の危機に呼ばれたということはつまり、小野寺剛士にはシレイラすら上回る軍事的な才能があった……のか?

 うーん。才能はあるにはあったけど、それが「オーラバトラー」を操ったり、剣とか魔法を駆使したりする類のものではなかった。彼にあったのは、自分の身を守るという意味での突出した防衛面への才能。けれども身を守ることへの突出した才能は、最大の防御ともいえる攻撃への才能とも裏腹な関係にある。ならばなぜ小野寺剛士の防衛本能が発達していたかと言えば、それは彼が「ちんちくりんな体型」の、「毎日苛められるのも当然」と見られがちな、ともすれば「自宅物置で首をつって自殺しているのが家族によって発見され」(12ページ)かねない「少年A」だったからに他ならない。

 つまり。「身を守ることに関してはおそろしく知恵がまわり、そのためならどんな努力も惜しまない」(13ページ)彼、「普段はフリーズしたりハングアップしたりクラッシュしたりして使いものにならないのだが、身を守らねばならない時は別。しゅいんしゅいんカリカリと高速回転して、悪知恵が泉のように……どろこではない、大噴火を起こした火山のような勢いで吹き出し、土石流のごとく流れ出す」(14ページ)という小野寺剛士のその才能こそが、今まさに滅びようとしていた魔王領に求められたものだった。

 という訳で。街を歩けば誰もが振り向く絶世の美少女で何故か小野寺剛士の母校、天抜高校の制服を着ている医師兼カウンセラー兼メイドなんだけど他にもいろいろ秘密のありそうなスフィアとか、ナイスなバディを軍服で包んだ剣士としての腕前も軍師としての才能も特級品の美女吸血鬼のアーシュラとか、天下分け目の大決戦に際して「あえて言おう! ランバルトはカスであると」とどこかで聞いたセリフをいけしゃあしゃあと吐き、自ら死地へと飛び込んでいこうとする時に「悲しいけどこれって」「戦争なのよね」と抜かす、趣味もろバレな魔王の趣味が炸裂した悪魔っ子幼女(けど年齢は68歳)あたりを従えた小野寺剛士と、やおいなフェラール(フェラる?)三世を背後で操るシレイラ王女との、いけず合戦がここに幕を開けたのだった、ってなんだそりゃ。

 で。まずは顔見せ興行的に終わった第1巻。「ガンダム」よろしく大地に立ってアムロよろしく緒戦を戦ったは良いものの、小道具を手に入れますますいけず絶好調なシレイラ王女に対して、虐げられる者への同情心をかきたてられてか、人間的に成長してしまった小野寺剛士がどこまでいけずになり切れるのかが次の勝負となって来そうで、味方ですら駒ほどにも考えていないシレイラ王女の戦法に、どうやって立ち向かうのか、時には仲間も見捨てる非情さを発揮するのか、それとも憤怒は敵にのみ示す顔はともかくナイスなガイのまま行くのか、ちょっと興味を掻き立てられる。さてどう書くか。

 それにしても。これがデビュー作という割には筆の滑りは快調快活、キャラは良く例えも巧みで物語りに至ってはなお結構。異世界なのに現代日本の趣味風俗が平気で使われてたり作者が作者として語ってしまったりするお茶目な描写数々あるけど、そうした軽口がハマる場所でピタリとハマり、感動する場面いろいろ考えさせられる場面では、ちゃんと感動させるような文体で考えさせるような展開を盛り込んであって胸打たれる。このバランスを上手に取りながら、滑らずかといって重たくならずに明るく楽しく面白くって感動だってできちゃう話を、ちゃんと紡いでいって下さいな。


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