アゲハをうモノたち01

 大傑作の誉れを得るまであともう紙一重のところまで来ていながら、「打撃女医サオリ」が掲載紙の衰滅とともに中空へとノックされ、星となって消え去ってしまった悲劇を乗り越え、矢上裕が今一度の大傑作候補を引っさげ帰ってきた。

 「アゲハを追うモノたち01」(角川書店、588円)は、タイトルこそ出世作にしてテレビアニメーション化もされた「エルフを狩るモノたち」に似通っていて、登場人物も脇に出てきて主人公を追いかける役柄の男性の顔立ちに、「エルフ」の登場人物が」重なる部分もないでもない。

 けれども、物語や設定においてはまったく新しく、そして最高に面白い。4人を殺害した罪で捕まったアゲハという女性が、死刑を宣告されて入った刑務所から、得意の変装技術で脱走し、真犯人を見つけに宇宙を彷徨う。基本となる設定には極めてシリアスなムードが漂う。

 もっとも物語は、元刑務官の龍造寺淳平ならぬ拳崎恭介が、アゲハに騙され彼女を逃がしてしまった責任を問われて仕事を首になり、恨みもあって彼女を追いかける展開の中で、矢上裕お得意のギャグもあればエロスもあったりと、シリアスにばかり沈まない軽快さを持ったまま進んでいく。

 何しろ変装の名人というアゲハの正体を探るには、脱がして背中のアゲハのタトゥーを確認する必要がある。だから恭介も、アゲハを追う賞金稼ぎたちも、アゲハらしい女を見つければ服を脱がせるし、見つけられなくても誰彼構わず脱がしまくる。当然ならがらビジュアル面では目にも麗しいシーンが毎回どころか毎ページのように現れる。

 男性だってもちろん脱がせる範囲の内だから、注意をしておく必要はあるけれど、多くは女性で、それも十分にタトゥーが確認できるくらいになっても、なぜかすべての衣服を脱がしてしまうから、前にはきれいに膨らんだ2つの房が盛りあがり、先端には小さくつんと突き出た部分が現れ、目を驚かせつつ心を潤す。

 漫画だから絵に過ぎないと言えば言える。けれども、漫画だからこそ現実とはまた違った理想が具現化した形として描かれていて、見るからに目を奪われ、心をそそられ、全身を興奮の坩堝へとたたき込まれて弄ばれる。アゲハにしてもそれは同じ。だから、変装しているよりもむしろ正体を現した方が、周囲は驚き慌て、半歩引いてしまってアゲハを取り逃がしてしまうことになるかもしれない。それくらいに素晴らしい。

 もっとも、そんなアゲハを上回るのがミス銀河だ。名前のとおりにミス銀河だから肌なんてツルツルで、顔もやっぱりツルツル。ツルツル過ぎて大昔にテレビで放映されていた、と言われている「ホワイトカッポレ」という菓子のCMに出てくる、妙な着ぐるみを想起させられる。いったいどんな姿あのかを思い出せないなら、マシュマロに手足が生えたようなもの、とでも例えれば了解されようか。

 それのどこがミス銀河なのかは読めば分かる。もうとてつもなくよく分かるから、気になった人は読むしかない。気にならない人も後学のために読んでみれば、そのあまりの描写の素晴らしさと、展開の楽しさに心動かされ、続刊にもしっかりと手を伸ばしてしまうだろう。それくらいの作品だと断じて一切の問題はない。

 周囲のドタバ劇を横目に、アゲハはしっかりと逃げ延び、自分を追い込んだ誰かに向かって復讐を誓う。アゲハが殺したと言われている人たちを本当は誰が殺したのか。そしてどうしてアゲハが犯人に仕立て上げられたのか。アゲハの変装術はどういった経緯で身に付いたものなのか。立ち現れた謎へと挑んだ先に、アゲハにとっても物語にとっても、新たな道が切り開かれることになるのだろう。

 待ち受けるのは巨大な陰謀かそれとも……。謎が明かされ切って物語の幕が下りるまでは、雑誌も連載も続いて欲しいし続くべきだ。それが適わぬ場合があるのなら、せめてミス銀河にたっぷりのアルコールを摂らせた上で、服を脱がせた姿でカッポレでも踊ってもらって、その素晴らしいミス銀河ぶりをたっぷりと拝ませていただきたい。


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