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        ミュージカル「レ・ミゼラブル」の映画化。 
        というより私にとっては、「レ・ミゼラブル」のミュージカル映画化というところです。 
        この物語を始めて読んだのは小学生の頃、小学生向きに抄訳された「あぁ無情」という題名で世界児童文学全集の中の一冊でした。中学生になって抄訳ではない「レ・ミゼラブル」を文庫本で読んだのですが全8巻。こんなに長い物語だったのかと驚愕しました。ジャン・バルジャンの物語であった「あぁ無情」と大違い、フランス社会の底辺で苦しみあがく人々の姿を描いたスケールの大きい社会小説であったのですから。 
        そんな長大な小説を、どう上映時間 160分の中で描ききるのか、どうミュージカルに仕立てあげているのか、が私にとっての興味どころ。 
        ・原作ストーリィをこう端折っていくのか、という処が面白かったです。 
        ・ミュージカル場面は、ストーリィの流れは論外として、その時々における登場人物の心の底からの思い、叫びを発露させていくという点で本ミュージカルは実に素晴らしい。 
        ・本物語のヒーローがジャン・バルジャンであるのは言うまでもないことですが、ヒロインはフォンテーヌ以外にありえません。それに比べるとコゼットやマリウスはまるで子供のようなものですが、本作ではサマンサ・バークス演じるテナルディエの娘エポニーヌに魅せられました。マリウスに無私の愛を捧げるという点においてジャン・バルジャンとフォンテーヌの系譜にある女性といって良いでしょう。はて、原作でもこうだったかなぁ、まるで記憶はありません。 
        ・また、ジャン・バルジャンとジャベール警部。この2人の対立は本物語の根幹の一つですが、善人と悪人という単純なものではなく、善悪と罪の解釈を異にする2人の人間の対立なのです。その意味でジャベール警部を悪人ということはできない、単に考え方が依怙地だったと言うだけなのです。この2人の対立構図、葛藤の描き方もお見事、まさに観応え十分です。 
        ・フォンテーヌ役のアン・ハサウェイ(彼女の最近の活躍には目を瞠るものがあります)、ジャン・バルジャン役のヒュー・ジャックマンが熱演、ジャベール警部役のラッセル・クロウ、テナルディエ役のサシャ・バロン・コーエンが好演。 
        ・テナルディエ夫人役のヘレナ・ボナム=カーターにとってはお得意の役どころですが、脇役だけにちょっと勿体なかったかなと感じます。 
         
        本物語の感動という点では原作に遥かに及びませんが、ミュージカルだからこその良さを存分に発揮しているミュージカル映画。まずはお薦めです。 
         
        2012.12.22  
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