“浮 雲” ★★★
(1955年日本映画)

監督:成瀬巳喜男
原作:林芙美子
脚本:水木洋子
出演:高峰秀子、
森雅之、中北千枝子、岡田茉莉子、山縣勲、加東大介、千石規子、ロイ・H・ジェームス
上映時間:124分

      

「稲妻」に続く、成瀬巳喜男監督・高峰秀子主演というコンビによる林芙美子原作の映画化第2弾
名匠・成瀬巳喜男監督の代表傑作と言われている作品ですが、それは主演の高峰秀子についても言えることだと思います。彼女の最高傑作と言って間違いないでしょう。

戦時中の赴任先、インドシナで知り合った主人公=ゆき子と営林署勤めの妻ある男=富岡。
終戦後、富岡を追いかけるようにして東京に出てきたゆき子でしたが、富岡は妻と別れる気配はなく、そのうえ営林署を辞めて事業を起こそうとしている最中。そこから、止めどもなく堕ちてゆく自堕落な男と、幾度となく別れても男から一度でも声を掛けられるともう離れるができなくなる女の、悲しい末路までを描いた悲劇ストーリィ。
女性関係にだらしなく、流されるままに生きているような男と何故、というのは簡単ですが、それが判っていて離れることのできない女の悲しい情念、一途な想いを演じる高峰秀子の演技は常に緊迫感を孕み、ただもう見惚れるばかりです。

この作品、最後が凄い。妻を裏切り貧困のうちに死なせた富岡が一から再出発として選んだ勤務地が何と屋久島。そんな遥かな離島へ、世話になっている男の元から逃げ出し、病んだ身体で屋久島まで付いていくゆき子の姿には、自分の運命を見定めた女性の諦めと執念が感じられます。
そしてついにその地で没すゆき子の死に顔の何と美しいことか。ひとつの愛の行き着いた姿がそこにはあります。

時代的には古い作品ですが、男と女の情念を描いた悲劇という点では少しも古びない傑作だと思います。お薦め。
※なお、物置のような小屋、貧しい借り部屋、木造の平屋等々、戦後直ぐの日本はこんな姿だったのかという点も興味惹かれるところです。

2012.03.05

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