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主人公の篠田良多は15年前に新人文学賞を受賞したものの、その後鳴かず飛ばず。取材が目的という建前を通して探偵事務所に勤めてはいるものの、ギャンブル好きでその仕事さえまともには遂行していない。
愛想を尽かされて妻と離婚、毎月息子に会うための養育費の支払いさえ滞らせ、言い訳ばかりが常。
ストーリィとしては、特にドラマチックな展開がある訳ではないし、始まりと終わりで大きな変化がある訳でもありません。
ホリが深くて長身というカッコよさが身上の阿部寛、それが薄汚れた風を装うと何とダメ男ぶりを発揮することか。
見かけだけではなく、年金暮らしの老母の生活費をくすねとろうとしたり、興信所仕事の報酬を自分勝手にポケットに入れたりと、見れば見る程とことんダメな男というのが本作の主人公。
ダメさの理由は自分に甘いこと、ギャンブルの負けをそのまま言い訳にしているようなところがあります。
しかし、観終わった後に振り返ってみると、こんな主人公を囲む女たちの優しさが印象的です。
樹木希林演じる老いた母親は、ダメな息子と分っていながらいつまでも母親であり続けていますし、小林聡美演じるしっかり者の姉はダメ弟と思っていても縁を切ったりしてはいません。また、真木よう子演じる、愛想を尽かして別れた元妻も、縁を切ったからと言って元夫を貶めたりせず、むしろ案じている風。
そんな女たちや探偵事務所の後輩たちの優しさに恵まれているからこそ、安心してダメ男でいられている、そんな感じがします。
しかし、いずれ老いた母親が死去する時を迎えた時、主人公はどうなるのでしょうか。
今回のことをきっかけに諦めをつけることを学び、一歩前に踏み出すことができればと、主人公のために祈りたい気持になります。
ダメな中年男が再生できるかもしれない、その前日譚を描いた日常的な家族ドラマと言えるでしょうか。
樹木希林さん、真木よう子さん、主役を喰いあるいは劣らず、巧いですよねぇ。
2016.05.22
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