吉田紗知
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1979年福島県いわき市生、駒沢女子大学卒。旅行代理店勤務、国立大学事務補佐員、厚生労働省非常勤職員を経て現在に至る。25歳の時祖父の死をきっかけに、一人戦史研究を始め、栃木、徳島、大分、沖縄など各地を訪ね歩いて聞き取り調査を続けている。

 


   

●「8月15日の特攻隊員」● ★★




2007年07月
新潮社刊
(1400円+税)

 

2007/10/06

 

amazon.co.jp

祖父の死去をきっかけに、著者の吉田さんは曽祖父の弟である大木正夫が、敗戦を告げる玉音放送後に大分基地を飛び立って沖縄で戦死した“最後の特攻隊員”の一人だったことを知る。
その血縁である大木正夫の存在を語り継ぎたい、そんな熱い思いからごく普通の女の子である吉田さんは、こつこつと一人で最後の特攻隊員のことを調べ始める。
最初は祖父が働いていた中島飛行機武蔵製作所の跡地を訪ねたところから始まり、最後は11機のうち 2機が突入した沖縄の伊平屋島を訪ねるまでの2年半に亘るノンフィクション。

ごく平凡な女の子が毎週3日間の休みを費やして、当時を知る老人たちを訪ね歩いて語るところを聞き取り、しかも無報酬どころか貯金をつぎ込んでまで戦史調査にのめり込む。
何の為に? 信じられない!と思うことですけれど、それはもう吉田さんの運命的な出会いだったとしか言えないことでしょう。でも、本書は間違いなく大切な体験を語った価値ある一冊です。

吉田さんの個人的な調査は順調だったとはいえません。それは亡くなった方がもはや多く調査が困難だったということではなく、吉田さん自身の中にある問題だったと感じます。
知りたいと思う気持ちを喜んでくれる人もいれば、これ以上辛い記憶を呼び起こしたくないと拒絶する人もいる。最後の特攻隊員たちのような当時の若者を次第に美化しつつあった気持ちを批判され、海軍=自衛隊と勝手に思い込んでいた気持ちに冷水を浴びせられるようなことも吉田さんは体験していく。
その都度吉田さんは、自分の考えの浅さを謙虚に反省し、原点に戻って再び調査を続ける。
戦後60年余を経て、戦史研究は様々な形で書物化されています。そんな中での本書の価値は、決して戦史を語ることではなく、現代の若い女性である吉田さんが自分の足で当時の青年たちの熱い思いをつかみ取り、そこから幾多もの辛く、哀しく、また尊い姿を浮き彫りにしていく体験を語ったところにある、と思います。
最後の特攻隊員として死んでいった彼らに対する吉田さんの、彼らがすぐそこにいるかのような親近感、優しさ、労わりの気持ちが読み終わった後、いつまでも余韻として残ります。
(茶目っ気もある吉田さんの健やかな雰囲気も忘れられない)

※なお、私自身は最後の特攻として若者たちを道連れにした宇垣中将の行動は、あくまで間違ったものと思います。
※表紙にある写真は、最後の特攻に飛び立つ日の写真とのこと。彼らの輝くような笑顔が印象的です。左端僅かに顔をのぞかせているのが、大木正夫上飛曹とのこと。

はじめに/旅のはじまり/「ヨカレン」って何ですか?/硫黄島をめぐる出陣/八月十五日/拒絶反応/自衛隊の「彼」/遺品を追って/「最後」の島/おわりに

 


     

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