山下柚実著作のページ


1962年東京生、早稲田大学第一文学部卒。雑誌編集者、週刊誌記者を経て、ライターとして独立。95年「ショーン 横たわるエイズ・アクティビスト」にて第一回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。

※ユズ・ジャーナル:http://www.yuzumi.com/

 


 

●「五感喪失」● 




1999年11月
文芸春秋刊
(1619円+税)

 

2000/07/20

著者の山下さんからメールを頂いたことをきっかけに読んだ本です。
山下さんは、現代人において“五感”が喪失、あるいは狂いを生じていることに危機感をもって本書を書いていると思うのですが、正直言ってそれらを「五感喪失」という言葉でまとめることが適切なのかどうか。
「五感喪失」という言葉と、本書で取材された都市社会での様々な事象を、私の中でまとめきれないまま読み進んだため、山下さんの抱いた危機感をそのまま共感することができませんでした。その中には、五感喪失とは違う問題ではないか、という思いもある所為でしょう。
ボディ・ピアスの流行、グルメ時代の中の味オンチ、化粧感覚の整形美容、オジサン臭さへの拒否反応等々。
もっとも、オジサン臭さへの嫌悪感は、私自身にもあります。電車内での、むせるようなポマード的臭い、吐く息の臭さ、身体に染み付いた煙草の臭さ。禁煙場所が増えた結果、その臭いがことさら気に障るようになりました。
根源的な問題として、私にはむしろ、自然であることを軽視し、自然に反しながら「自然」を標榜して作り上げた人工物を有り難がっていることの方が気になります。身近なことでいえば、冬に西瓜を作ったり、夏に蜜柑を作ったりすること。それを価値と見ること自体に、自然なままの感覚(五感)を狂わし続けている現代日本の誤った価値観があるのではないか、と思います。果物への季節感が、私の子供時代からするとまるで狂ってきています。また、蒸暑い夏だというのに無理して上着を着て、建物内をガンガンに冷房しているという不自然さ。
しかし、都市社会を選んだ故の必然性、というものもあると思うのです。是非は別として。

 


 

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