上原善広(よしひろ)著作のページ


1973年生、大阪府出身。国内外の様々な人や出来事をテーマに取材執筆活動。2010年「日本の路地を旅する」にて第41回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。


1.
日本の路地を旅する

2.
路地の子

 


   

1.

「日本の路地を旅する」 ★★     大宅壮一ノンフィクション賞


日本の路地を旅する画像

2009年12月
文芸春秋刊
(1600円+税)

2012年06月
文春文庫化



2010
/01/22



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学校を卒業して会社に入ってから、同和問題というものを教えられました。ただ、いくら繰り返し説明されても、ピンと来なかったまま、というのが正直なところ。
同和問題、即ち「被差別部落」問題。

今は亡き作家の中上健次、彼もまた和歌山県新宮の被差別部落出身だったそうです。そして、被差別部落のことを「路地」と呼んだ唯一の人。
著者の上原さんもまた、大阪府南部にある更池という路地の出身だそうです。
本書はその上原さんが、全国の路地を訪ね歩き、その過去と現在を取材して回った旅の記録となる一冊。

本書を読んで意外な思いがしたのは、路地に暮らしていた人たちに余り劣等感が感じられないこと。差別という事実があったにしろ。
路地の人々が多く携わったのは、動物の屠殺や皮なめしのような仕事だという。特に皮なめしとなると、その臭いは凄いものだとのこと。差別を是認するつもりは全くありませんが、そんなことから差別が生じたという事情も、判る気がするのです。何しろ、四足動物自体を穢れと一般的に考える社会だったのですから。
ただ、路地の人々、一部の地域に土着していたものとばかり思っていたのですが、大名の転封により、一緒に移住させられるということがあったらしい。
言われてみれば、さもありなん。差別があろうが、社会において不可欠な職業であったのですから。
昭和40年代に施行された「同和対策事業特別措置法」によって与えられた各種の優遇措置により潤った面もあれば、同対法の終了により商売がうまくいかなくなったというのも、本来の問題点からすると、皮肉な結果であるように感じます。

筆者は、かつて自らが馴染んだ社会として眺めながらも、事実を事実として、同時に、路地の人々が語ること、或いはその姿を、公正かつ客観的に語っていく。
その姿勢は好ましく感じられますし、路地の実態を知るのにとても為になったと感じます。

プロローグ:和歌山県新宮/ルーツ(大阪)/最北の路地(青森・秋田)/地霊(東京・滋賀)/時代(山口・岐阜)/温泉めぐり(大分・長野)/島々の忘れられた路地(佐渡・対馬)/孤独(鳥取・群馬)/若者たち(長崎・熊本)/血縁(沖縄)/エピローグ:旅の途中で

       

2.

「路地の子 ★★


路地の子

2017年06月
新潮社刊

(1400円+税)

2020年08月
新潮文庫



2017/08/03



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大阪の路地で生まれ育った、著者の実父=上原龍造という人物の壮絶な半生を描いたノンフィクション。

とにかく上原龍造という人物、その壮絶な半生に圧倒されるばかり。
たとえフィクションであっても、こんな怒涛のような人生は描かないのではないかと思うくらいにハチャメチャ、およそ度外れた生き方だったと言うべきでしょう。
何がその源だったのかと言えば、やはり
“路地”という特殊な世界で生まれ育ち、そこで体験的に身に着けた習性だったのでしょう。
しかし、一面では路地で生まれ育った者らしい刹那的な行動ぶりを繰り広げる一方で、それに甘んじず独立と事業拡大を目指し、また祖母の戒めを守ってシャブやヤクザには染まるまいとしたところは、やはり突出した人物だったのだろうと感じます。

上原龍造以外にも、特徴ある“路地の子”らが描かれますし、牛の屠殺仕事、部落・解放=同和問題、バブル崩壊、狂牛病問題といった社会的問題も描かれていて、昭和という時代におけるひとつの裏社会史、といった印象を受けます。

著者は、上原龍造と最初の妻=
恵子との間に生まれた4人姉兄弟の末子ということもあって、実父との関りは割と薄かったようです。
それでも
「おわり」にて語られる著者自身の軌跡は、まさに父親のDNAを継いでいると言えるような人生だったという。その言葉が胸にひしひしと伝わってくるようです。

まるで怒涛のような、そして圧倒的な上原龍造の半生を端的に語ることは、私の手には余ります。
興味を引かれた方は、是非、ご自身で読んでみることをお勧めします。


1.昭和39年、松原市・更池/2.食肉業に目覚めた「突破者」の孤独/3.牛を屠り、捌きを習得する日々/4.部落解放運動の気運に逆らって/5.「同和利権」か、「目の前の銭」か−/6.新同和会南大阪支部長に就く/7.同和タブーの崩壊を物ともせず/おわりに

    


  

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