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1.日本の路地を旅する 2.路地の子 |
1. | |
「日本の路地を旅する」 ★★ 大宅壮一ノンフィクション賞 |
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2012年06月
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学校を卒業して会社に入ってから、同和問題というものを教えられました。ただ、いくら繰り返し説明されても、ピンと来なかったまま、というのが正直なところ。 今は亡き作家の中上健次、彼もまた和歌山県新宮の被差別部落出身だったそうです。そして、被差別部落のことを「路地」と呼んだ唯一の人。 本書を読んで意外な思いがしたのは、路地に暮らしていた人たちに余り劣等感が感じられないこと。差別という事実があったにしろ。 筆者は、かつて自らが馴染んだ社会として眺めながらも、事実を事実として、同時に、路地の人々が語ること、或いはその姿を、公正かつ客観的に語っていく。 プロローグ:和歌山県新宮/ルーツ(大阪)/最北の路地(青森・秋田)/地霊(東京・滋賀)/時代(山口・岐阜)/温泉めぐり(大分・長野)/島々の忘れられた路地(佐渡・対馬)/孤独(鳥取・群馬)/若者たち(長崎・熊本)/血縁(沖縄)/エピローグ:旅の途中で |
2. | |
「路地の子」 ★★ |
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2020年08月
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大阪の路地で生まれ育った、著者の実父=上原龍造という人物の壮絶な半生を描いたノンフィクション。 とにかく上原龍造という人物、その壮絶な半生に圧倒されるばかり。 たとえフィクションであっても、こんな怒涛のような人生は描かないのではないかと思うくらいにハチャメチャ、およそ度外れた生き方だったと言うべきでしょう。 何がその源だったのかと言えば、やはり“路地”という特殊な世界で生まれ育ち、そこで体験的に身に着けた習性だったのでしょう。 しかし、一面では路地で生まれ育った者らしい刹那的な行動ぶりを繰り広げる一方で、それに甘んじず独立と事業拡大を目指し、また祖母の戒めを守ってシャブやヤクザには染まるまいとしたところは、やはり突出した人物だったのだろうと感じます。 上原龍造以外にも、特徴ある“路地の子”らが描かれますし、牛の屠殺仕事、部落・解放=同和問題、バブル崩壊、狂牛病問題といった社会的問題も描かれていて、昭和という時代におけるひとつの裏社会史、といった印象を受けます。 著者は、上原龍造と最初の妻=恵子との間に生まれた4人姉兄弟の末子ということもあって、実父との関りは割と薄かったようです。 それでも「おわり」にて語られる著者自身の軌跡は、まさに父親のDNAを継いでいると言えるような人生だったという。その言葉が胸にひしひしと伝わってくるようです。 まるで怒涛のような、そして圧倒的な上原龍造の半生を端的に語ることは、私の手には余ります。 興味を引かれた方は、是非、ご自身で読んでみることをお勧めします。 1.昭和39年、松原市・更池/2.食肉業に目覚めた「突破者」の孤独/3.牛を屠り、捌きを習得する日々/4.部落解放運動の気運に逆らって/5.「同和利権」か、「目の前の銭」か−/6.新同和会南大阪支部長に就く/7.同和タブーの崩壊を物ともせず/おわりに |