田勢康弘(たせ・やすひろ)著作のページ


1944年中国黒龍江省生、早稲田大学第一政治経済学部政治学科卒。69年日本経済新聞社入社、政治部記者、ワシントン支局長等を経て、現在論説副主幹兼編集委員。96年度日本記者クラブ賞受賞。96年01月から1年間、ハーバート大学国際問題研究所フェロー。


1.
政治ジャーナリズムの罪と罰

2.だれが日本を救うのか

3.ジャーナリストの冒険

 


 

1.

●「政治ジャーナリズムの罪と罰」● ★★


1994年3月
新潮社刊

1996年9月
新潮文庫化

  
1994/03/27

日本の政治ジャーナリズムの在り方に対し、批判を繰り広げた一冊。
政治をダメにしている原因は、日本の政治報道の姿勢にあると著者は指摘しています。
まず、「前倒し」型報道への偏向。それは「思い込み」報道に繋がる危険性を常に孕んでいます。そして、検証能力の欠如!
他競合紙に対する過剰な競争心、警戒心もその一因になっていると著者は指摘しています。
新聞や、テレビニュースを見る我々側も、もっと利口にならなくてはいけない、と感じる一冊でした。

 

2.

●「だれが日本を救うのか」● ★★

 

1996年2月
新潮社刊
(「指導者論」)

 
1999年12月
新潮文庫
(476円+税)

 

1999/12/26

新潮社の月刊誌「フォーサイト」 “政治の言葉”シリーズとして連載後「指導者論」の題名にて単行本化、 今回改題されて文庫化された一冊です。
日本の政治、政治家のレベルが低いことは、今更言うまでもないことですが、本書はその実態を明快に解析しています。単に日本の現状を批判するのではなく、縦軸(歴史的)、横軸(国際的)をしっかりもち、幅広い見地から日本の政治実態を捉えている点に魅了されます。
すなわち、イギリス、アメリカの古今の指導者を念頭に置きながら、その一方で明治の中江兆民や、西郷隆盛の言葉を引用します。また、日本と韓国との対立は百済が新羅に滅ぼされた時に始まるのではないかと解説する著書の紹介もあります。
本書において核心となっているのは、もちろん指導者像ですが、それと同時に “言葉”です。言葉の大事さ、重み、それにもかかわらず、日本の政治家においてどれほど言葉が軽く、意味をもっていないかを感じさせられます。そして、その結果として国際的に「日本は理解しにくい国」となっているのです。
まずは、言葉を大事にすることから始めなくてはならないのだと思います。そして、それには報道する側の責任も大きい。
佐藤栄作、レーガン、小沢、河野、村山、橋本等、具体的人物像に迫っている部分も見逃せません。
ただひとつ残念なことは、書かれた時からだいぶ時間が経ってしまっていること。執筆時は、自社さきがけ連立政権、石原慎太郎現都知事が突然議員辞職した頃のようです。その頃に読んでいれば、もっと感じることは大きかっただろうと思います。

  

3.

●「ジャーナリストの冒険」● ★★

  


1998年4月
日本経済新聞社
(「ジャーナリストの作法」)

 2002年3月
新潮OH!文庫
(619円+税)

 

2002/05/24

ジャーナリストとはどんな人間なのか、ジャーナリストとはどうあるべきかについて、具体的に語った一冊。

今や著名ジャーナリストの一人である田勢さんが、自身の駆け出し記者の頃、政治部記者時代ワシントン特派員時代、ハーバード大学のフェロー・プログラムのメンバーに選ばれた時のこと等、記者としての軌跡を順々に語っていきます。まさに総ざらい、と言って良いぐらい。
それだけに、ジャーナリズムに興味をもつ人にとって本書は極めて興味深く、かつ貴重な一冊です。
圧巻は「指導者のこと」。最近の国会、政治家の様子を見ていると、田勢さんの指摘がどれだけ的を射たものだったのかが、よく判ります。
自分は政治記者に不向きだと思っていた、しかし、時代が変わったことにより、そうした部分が今や効果的に作用することになったのだろうと、田勢さんは述べています。田勢さんの我々に対する語りかけは、率直かつ真摯なもの。そして、この国をリードしていくべき政治家たちに対して、深い危惧を抱いています。
新聞という表面的なものに終わらず、その底にある問題を知っておくために、本書は格好の一冊です。お薦め。

「書く」ということ/駆け出し時代のこと/「政治記者」のこと/ふるさとのこと/アメリカのこと/ハーバード大学のこと/ジャーナリストのかたち/指導者のこと/ジャーナリストであるということ

   


 

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