柴野京子著作のページ


1962年東京都生、早稲田大学第一文学部哲学科社会学専修卒。東京出版販売(現トーハン)勤務を経て、2007年東京大学大学院学際情報学府修士課程修了、同博士課程に進学。相模女子大学非常勤講師等。

 


   

●「書棚と平台−出版流通というメディア− ★★



 
2009年08月
弘文堂刊
(2800円+税)

  

2009/10/25

 

amazon.co.jp

新聞の書評欄で紹介されていたことから、興味をもった本。
出版業界、書店業界の歴史を“流通”という観点から検証した、かなり専門的な書です。

元々は、著者の柴野さんが20年余りにわたる大手取次会社勤務を経て東京大学大学院に入学、そこで提出した修士論文を元に大幅な改稿を加えたという一冊です。
そのため、かなり専門的に突っ込んだ内容で、その内容をしっかり理解するというのはとても叶いませんでしたが、ざっと読むだけでも結構面白い。

現在あるような出版社〜取次〜書店という流通形態が、最初からこうだったとはもちろん思いもしませんが、それ以前のどんな形態を知っているかというと、いきなり江戸時代の貸本商売にまで飛んでしまうことに気がつきました。私の中で、その間がまるで空白状態。
まず第一章は、雑誌販売と教科書販売から始まり、その取次販売ルートが書籍販売を吸収、戦時下に国策会社=日本出版配給株式会社に統合され、戦後それが分割されて現在の二大取次体制へと至る流れが紹介されます。
第二章では、赤本特価本の歴史的流れを紹介。この部分が、私の知っているようで知らなかった部分。
そもそもは、書店ではなく、露店での雑誌・書籍販売もあったという。成る程なぁと思うところ、大いにあります。
その第二章を経て、第三章で書店の構造変化が語られます。江戸時代〜明治初期は“坐売り”で、本は積み重ねられ店員が取り出す方式。それが洋装本の増加に合わせて立てて並べた開架陳列式へと変化、そして売るための店作りという工夫がなされてきたという流れ。
書店で平台に並んでいるのは、新刊本、書店側が売ろうとしている本、というのは元より承知のことですが、書棚とは別に平台の歴史があったという点が興味惹かれるところ。

決して読みやすい本ではありませんが、本好き、書店好きという人であれば、ざっと読んでみるだけでも充分楽しい一冊です。

序章/メインストリームの系譜/赤本の近代/購書空間の変容/近代テクノロジーとしての取次/出版流通の力学/終章

    


     

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