1998年12月
新潮社刊
(1700円+税)
2002年9月
新潮OH!文庫化
(改題)
1999/01/27
|
福沢諭吉の弟子として三井銀行に入り、のち鐘淵紡績の支配人となってから鐘紡を一流企業に育て上げ、最後テロに倒れた先覚的経営者の評伝。
とくに注目すべきことは、彼が「温情主義」を唱え、寮制度・日本初の共済組合設置等福利厚生に尽力したことです。「ああ野麦峠」など女工の悲惨さが謳われた紡績業だけに目覚しいものがあります。
政界に出てからも、「良いときは資本主義を唱え儲けを手中にし、苦しくなると一転社会主義者に変身して政府の保護を求める」経営者に対し、経営の自立を唱える武藤氏の直言は、現在にもそのまま当てはまるだけに、清々しく聞こえます。
また、台湾銀行(現日本債券信用銀行)の経営不振を国会で追求している辺り、現在の金融をめぐる騒動を見るようです。
とはいえ、革新的な経営理念の下に鐘紡を育て上げた時代と、本人が望む望まないを別としてワンマン経営者となっていつしか従業員との距離が生じた事実、政界に出てから必ずしもすべてが肯定しきれない事実、著者の目は緻密に時代、行動を検証していて感嘆します。
この名経営者にしても、時代・境遇の変化すべてに適切に応じきれなかったこと、企業経営者は教訓として心に銘じるべきことだと思います。
著者は本書執筆に10年以上も費やしたそうです。それが納得できるほど日本経済の黎明期をつぶさに検証した本です。
|