佐々涼子著作のページ


1968年神奈川県横浜市出身、早稲田大学法学部卒。日本語教師を経てフリーライター。2012年「エンジェルフライト」にて第10回開高健ノンフィクション賞を受賞。2024年09月悪性脳腫瘍のため死去、56歳。

1.
エンジェルフライト

2.紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている

3.エンド・オブ・ライフ

4.ボーダー 

5.夜明けを待つ 

 


   

1.

「エンジェルフライト−国際霊柩送還士− ★★☆  開高健ノンフィクション賞


エンジェルフライト画像

2012年11月
集英社
(1500円+税)

2014年11月
集英社文庫



2013/01/18



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「エンジェルフライト」という題名だけでは想像つきませんが、脇に添えられた「国際霊柩送還士」という日本語を見ればおおよその内容は察しがつきます。
刊行当初、それ程関心は引かれなかったのですが、開高健ノンフィクション賞受賞作と知って手に取りました。
上記日本語から想像がつく通り、海外で死んだ日本人の遺体を受け入れ、あるいは日本で死んだ外国人の遺体を故国へ送り出す、という業務を行っている専門会社“
エアハース・インターナショナル株式会社”の仕事を取材したルポタージュ。
なお、「国際霊柩送還」という言葉は同社が商標登録しているものであって、一般的な用語ではないそうです。

国境を越えて遺体の送還を行うという業務の内容は実態としてどういうものなのか。それはもう、読んでみて初めて判ること。逆に言えば、読んでみないと判らない、ということです。
映画
おくりびとのおかげで今はもう納棺師という仕事があることを知りましたが、社長の木村利惠によると、同社の仕事からすると「ただのファンタジーに過ぎない」となるらしい。
実際、本書で語られたその仕事内容は相当に過酷なものがあります。まず、海外で死んだ場合その死因は事故であることが多い。そして死後相当時間が経っているうえに、航空機内の気圧により遺体は影響を受け、その修復処理は我々の想像を絶するものがあるようです。
海外渡航者が増えるに従い海外で事故死する人の数が増え、霊柩送還を担ってくれる業者が必要であるのは当然のことながら、何故木村社長をはじめ同社社員はこれ程精神的にも肉体的にもキツイ仕事を続けるのか。これがまず第一の問題。
そしてもう一つは、何故これ程の苦労をしてまで、遺体を生前のものに近い姿にして遺族の元に届ける必要があるのか、という疑問。これは故人、遺族、葬祭業者という区別を越えて考えさせられる、第二の問題です。
木村社長をはじめ同社社員が全てを語ってくれている訳ではなく、佐々さんはそれらの疑問を、彼らが業務に邁進する後ろ姿を見ながら考察していきます。それは読者にとっても同じこと。佐々さんの背中越しにやはり彼らの後ろ姿を見ているという臨場感を抱きます。

何故送還士が必要なのか、その実務はどのようなものなのか。何故送還士になったのか、どのような思いを抱いて仕事に従事しているのか。そして、遺体をきれいにして遺族の元に届けるという意味はどこにあるのか。本書の中にはそれらの問い掛けが詰まっています。
得難いノンフィクションの逸品。是非一読をお薦めします。

遺体ビジネス/取材の端緒/死を扱う会社/遺族/新入社員/「国際霊柩送還」とはなにか/創業者/ドライバー/取材者/二代目/母/親父/忘れ去られるべき人/おわりに

    

2.

「紙つなげ! 彼らが本の紙を作っている−再生・日本製紙石巻工場− ★★


紙つなげ!画像

2014年06月
早川書房
(1500円+税)



2014/09/15



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2011.03.11発生した東日本大震災、この大震災を扱ったドキュメントは数多くあると思いますが、私としては本書が、杉山隆男「自衛隊は起つ」に続く2冊目。
「自衛隊」は当然ながら、震災時に自衛隊、自衛隊員たちがどう活動したかを、自衛隊の存在意義を問う意味を含めて詳細に描いた迫真の一冊でしたが、本書は津波により大被害を受けた大工場の存続、復活を軸足においた一冊。
とはいえ冒頭、震災当日の惨状は、企業の枠を超えて描かれており、3年という時間を置いてもまだそのすさまじさには胸打たれます。

そのうえで、途轍もない被害を受けた
日本製紙石巻工場の存続可否、決断、工場復活に向けた試練と奮闘が、様々な幹部社員、現場社員の胸の内がインタビューを受けて語られていく、という内容になっています。
宮城県石巻市の地域経済・雇用情勢も左右する大工場、日本製紙が集中投資をした基幹工場、そして日本の出版用紙の4割を生産する重要な工場、というその位置づけは如何にも大きい。
被害、復興という感動ドキュメントであることは当然ながら、危機に見舞われた時における企業の対応策・対応力、という点でも本書には読み、学むべき処が多くあります。
復活方針の明言、モチベーション維持には合理的な期限設定が不可欠、各チームの責任を繋げていく作業方式、等々。

本工場の再始動があって初めて、出版界へ本の用紙の潤滑な供給が成り立つという部分は、象徴的とはいえ工場再生における一部のことですが、本好きとしては感謝の念を持たずにはいられません。

プロローグ/1.石巻工場壊滅/2.生き延びた者たち/3.リーダーの決断/4.8号を回せ/5.たすきをつなぐ/6.野球部の運命/7.居酒屋店主の証言/8.紙つなげ!/9.おお、石巻/エピローグ

                    

3.
「エンド・オブ・ライフ ★★


エンド・オブ・ライフ

2020年02月
集英社

インターナショナル
(1700円+税)

2024年04月
集英社文庫



2020/04/12



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京都で訪問医療を行っている渡辺西賀茂診療所
同診療所の訪問看護師の一人である
森山文明・48歳が癌を発症。
その森山からの依頼で、筆者は訪問看護の実像や意味、余命宣告を受けた癌患者の家族らを取材したノンフィクション。

私自身高齢となり、実父を看取ってからは、いずれ迎える死について常に考えるようになりました。
がんという病気もあれば、事故もある、また今回のようなコロナウィルス感染という事態も考えられます。
若い時ならいざ知らず、死というのはもう然程遠くにある問題ではありません。
本書に登場する殆どは癌患者ですが、余命宣告という衝撃、余命宣告を受けてからある程度の時間がある、ということを除けば、そう変わるものではない、と思います。

誰しも病院に長く入院するのは嫌な筈ですし、在宅での治療が可能であればそれを望みたい筈。一方では、看護する家族の負担という問題も無視できません。
それらの問題を含んで、在宅医療の是非、意味、終末医療のあるべき姿を考えるにあたって本書は最適のノンフィクションであるように思います。
自分自身の来るべき将来を踏まえ、参考になったというのが、正直なところです。
※入院医療と訪問医療では、患者との関わり様から必然的に、その姿勢に差異が生じるようです。

医療現場の考え方も変わりつつあると思いますが、所詮最後は誰しも<死>を免れないのですから、それぞれの立場を理由に命を長引かせるのではなく、最後まで充実した<生>を全うさせて欲しいものだと、心から思います。

ただし、そこには患者本人の覚悟もまた、必要不可欠なことでしょう。


プロローグ/2013年−今から六年前のこと(たった一日だけの患者)/2018年−現在(元ノンフィクションライター)/2013年−その2(桜の園の愛しい我が家)/2018年(患者になった在宅看護師)/2013年−その3(生きる意味って何ですか?)/2013年−その4(献身、在宅を支える人)/2013年−その5(家に帰ろう)/2019年(奇跡を信じる力)/2013年−その6(夢の国の魔法)/2019年(再び夢の国へ)/2013年−その7(グッドクローザー)/2014年(魂のいるところ)/2019年(命の閉じ方のレッスン、幸福の還流、カーテンコール)

                 

4.
「ボーダー−移民と難民− ★★☆


ボーダー

2022年11月
集英社
インターナショナル
(1800円+税)



2022/12/28



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スリランカ人女性=ウィシュマ・サンダマリさんが名古屋出入国在留管理局の施設収容中に死亡した事件によって、「入管」の極めて非人道的な振る舞いが明らかになり、日本人としてショックを受けた次第です。

しかし、本書冒頭に登場する
児玉弁護士は、新米弁護士だった27年前から難民に対する入管の、ひいては日本政府の過酷かつ非人道的な姿勢と闘い続けて来たとのこと。
本書を読めば読むほど、様々な状況から命を守るために故国を脱出してきた人たちに対しどれほど日本政府が酷い扱いをしてき、今もまたし続けていることに対し、憤怒の思いを禁じ得ません。
これではもう、故国での迫害から逃れて来た人たちに対し、日本政府がさらなる迫害を行っているようなものではないか。

入管の収容施設の状況は、刑務所よりよっ程酷いのではないか。
人権無視どころか、身体的ならびに精神的虐待、嫌がらせ・拷問に近いのではないかと思わざるを得ません。
収容されている方たちと同じ人間として、率直にいって気持ちが悪くなる程です。
こうした扱いを平気ですることができるなんて、下劣、畜生にも劣ると、思わず口にしたくなってしまう。
川和田恵真「マイスモールランドで、難民申請が認められずに苦しむクルド人一家の姿が描かれていますが、現実はそれより遥かに過酷なものなのでしょう。
確かに、難民を擬装する人もいるでしょう。だからといって難民として受け入れるべき人の難民申請を握り潰すことなど、あってはならないと考えます。

そもそも日本政府のやり方は、欺瞞に満ちていると言うべきなのでしょう。
出稼ぎに他ならないものを「技能実習」といい、難民を断固として難民と認めようとせず、国際的な非難を受けても基本的な姿勢を変えようとしない。

今はまだ日本に働きにくる外国人がいますが、経済成長は滞り、円安を変えられず、日本語は日本以外で役立たず、そのうえ外国人に対する差別視を変えないままでいるなら、いずれ日本は外国人から目を背けられてしまうのではないかと懸念します。
現在の日本社会は既に、外国人労働力に頼らずに運営していくことは不可能になっているという現実にもかかわらず。


防衛能力の向上も重要であることに間違いはありませんが、欧米人だけでなく、他の外国人からの信頼・信用を高めていく努力、姿勢の転換が必要なのではないかと思う次第です。
本書は、それを考えるうえで貴重な一冊。是非、お薦めです。

プロローグ
T.泣き虫弁護士、入管と闘う
私たちを助けてくれるの?/断末魔/囚われの異邦人/馬でもロバでも/アフガニスタンから来た青年/国会前の攻防
U.彼らは日本を目指した
サバイバル・ジャパニーズ/看取りの韓国人/フィリピンの卵/ハノイの夜/赤い花咲く頃
V.難民たちのサンクチュアリ
クリスマスイブの仮放免者/リヴィのカレー/人の中へ
エピローグ

              

5.
「夜明けを待つ ★★


夜明けを待つ

2023年11月
集英社
インターナショナル
(1800円+税)



2024/04/29



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ここ10年において佐々さんが書き溜めていたエッセイ、ルポから厳選して収録した一冊との由。
刊行時から読もうとは思っていたのですが、図書館の順番待ちが落ち着いてからと思っていため、今頃の読書となってしまいました。
でも、読んでよかったです。

エッセイ、ルポと共通して感じるのは、人の生死に着目している篇が多いこと。
また日本語教師としての経験からでしょう、親に連れられて来日した子どもたちの教育問題、技能実習生の問題等への一言も読み逃せません。
エンジェルフライトで一躍注目を集める前の、若くして母親と専業主婦となった日々、日本語教師としての経験等、佐々涼子さんというライターを知るうえで貴重な一冊になっていると感じます。

ただ、佐々さんの現状については何も知りませんでした。
そのため
「あとがき」に書かれていた事実は衝撃的でした。正直なところ言葉もありません。
しかし、誰にしてもいずれは訪れること。その日まで前向きに生きようとしている佐々さんに拍手を捧げます。


第1章 エッセイ(32篇)
第2章 ルポタージュ
ダブルリミテッド@サバイバル・ジャパニーズ/A看取りのことば/B移動する子どもたち/C言葉は単なる道具ではない
/会えない旅/禅はひとつ先の未来を予言するか/悟らない/オウム以外の人々/遅効性のくすり/
あとがき

    


     

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