三宮麻由子
(さんのみや・まゆこ)著作のページ


1966年東京都生。4歳のとき病気で視力を失う。上智大学文学部フランス文学科卒、同大学院博士前期課程修了。外資系通信社に勤務(報道翻訳)の傍らエッセイを書き始める。「鳥が教えてくれた空」にて第2回NHK学園「自分史文学賞」大賞、2001年「そっと耳を澄ませば」にて第49回日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。また、05年視覚障害者の文化に貢献した人物に送られる第2回サフラン賞、06年日本オーディオ協会より第11回音の匠賞、09年点字毎日文化賞を受賞。
 
1.
ロング・ドリーム

2.音をたずねて

3.空が香る

 


   

1.

●「ロング・ドリーム−願いは叶う−」● ★★

 


2005年02月
集英社刊
(1600円+税)

2008年03月
集英社文庫化

 

2008/01/31

 

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4歳の時病気で視力を失い、<sceneless>(全盲) になったという三宮さんのエッセイ集。
三宮さんの著書を読むのは本書が初めてで、賞を受賞した2冊も未読ですが、これまでの書かれたエッセイのエッセンスを集めた集大成ともいえる一冊ではないかと思います。

目の不自由な方の日常がどういうものか、想像しようとしてもとても想像できるものではありません。それでも本書を読んでいると、様々な出来事一つ一つについてどのように違うものか、知ることができます。
原生林の様子も山の持つ気配から知ることが出来ること、見えないと食べ物の味さえ感じることが出来ないこと、紅葉の美しさを見ることは出来なくても葉の匂いから紅葉を感じることは出来ること、等々。
もちろん、出来ないこと、不自由なことは沢山ある筈です。でも三宮さんのエッセイはそんな苦労を語るのではなく、目は見えずとも他の感覚で知る、味わうことが出来るということを伝えています。そんな前向きな姿勢が好ましい。
本書題名は、長年の願いを果たす、という意味で「ロング・ドリーム」とのこと。

そしてまた、目の不自由な方に対してどう手助けができるか、したらいいかということも気づかせてくれる一冊です。
それにしても三宮さん、白神山地、相撲観戦、歌舞伎の観劇、香道と、私より遥かに行動範囲、チャレンジ精神、広いようです。

憧れの日記帳/チュンチュンの小ミステリー/水源の味/食事という仕事/紅葉物語/街を歩めば/相撲観戦入門/耳で観る歌舞伎/魔女の練習/無色の世界に色を/蔵でクラクラ/あとがき

  

2.

●「音をたずねて」● ★★

 


2008年01月
文芸春秋刊
(1900円+税)

 

2008/02/05

 

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「音の原風景」を訪ねることをテーマに、文芸春秋のPR誌「本の話」に2年間にわたって連載されたもの。三宮さんにとって、初のルポとのことです。

目が見える人にとってはまず光景、音はそれに付随するものでしょう。しかし、目の不自由な方の場合、音から得る情報がまず第一。となれば当然に音への関心は高いはず。
本書のテーマは、三宮さんにとってはごく自然なものと感じられますが、それがそのまま一様のルポにならないところが、三宮さんのエッセイの魅力です。
まず「鈴の音色」。音源というテーマの皮切りにこれ以上ふさわしいものはなさそうです。目が見える人にとっても姿より音色、その愛らしさが大切なのですから。
ついで「時報のお姉さん」=中村啓子さんへの取材、さらに「芭蕉ってどんな声?」ともなると、ますます興味津々。

つい<目が不自由=不都合>という観点から考えてしまいがちなのですが、本書を読んでいるとそれは勝手な決め付けだった、と反省させられます。それをはっきり気付かせられたのは“花火の音楽”を語った「夜空の響き」
さらに「音で楽しむ寄席」でも、音の世界に味わい深く、楽しい広がりがあることを知るに至りました。
そこに気付いて初めて本書表題の「音をたずねて」の意味が判った気がします。心と耳を澄ませれば、もっと広い世界が見えてくる、という。

茶目っ気あってユーモア精神もたっぷりな三宮さんの語り口も楽しいのですが、取材に応じる方たちの、三宮さんに対する自然な心遣いが感じられるところも、本書の気持ち好さに繋がっています。
そして三宮さん曰く、「一つの道を深めたいという気持ちによって人が出会うとき、目が見えるとか見えないとかいうことはまったく問題にならないのである」ということも、読後感が気持ち好い理由のひとつです。

鈴の音色はどこから来るの?/時報のお姉さんに会いに/芭蕉さんってどんな声?/犬と歩いて/ピアノの故郷をたずねて/夜空の響き/柘植櫛で爽やか!/音で楽しむ寄席/お箏、再挑戦/お茶の香りを聞いてみる/鼈甲の手触り/秋芳洞で秋を聞く/効果マンの職人芸

   

3.

●「空が香る」● ★★

 


2010年01月
文芸春秋刊
(1400円+税)

 

2010/02/03

 

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四季を味覚・嗅覚・聴覚・触覚の四感(視覚が除外)で味わうことをコンセプトにした、4x4=16篇のエッセイ集。
未来社の広報誌「未来」に掲載された連載「季節体感」の単行本化だそうです。

四季それぞれに感じる事柄を、思い出と合わせて書き綴られていきます。
ありふれた子供の頃の思い出〜学校時代の思い出、米国にホームスティした頃の思い出と、題材は自由にはばたくが如く幅広いのですが、三宮さんの筆運びは自由闊達。生き生きとその場の情景が蘇ってくる気がします。元気な女の子だったらしい三宮さんの、幼い頃の姿も鮮やか。
しかし、三宮さんは4歳の頃に病気で失明し、ご自身言うところの“sceneless”。 それなのに三宮さんがこんなにも多くの思い出を持っているのは、外に向かっての積極的な姿勢、物怖じしない明るい性格の故だろうなぁと、いつも感心することしきり。

本書で三宮さんが語る四季の情景は、とても色濃い。
何故なのだろうと考えると、三宮さんが視覚を持たない故ではないか。
視覚がない分、その他の四感をフルに活動させ、深く四季を味わっているのでしょう。
視覚に頼ってなおざりに四季を通り過ぎている私自身を、恥じ入る気持ちになります。
そう、四季はなにも視覚だけで味わうものではないはず。嗅覚然り、聴覚・触覚もまた然り。もちろん味覚も。

16篇の中でも特に、表題となった「夏の匂い 空が香る」が印象的。
「空にも香りがあるように思っている」「夏の空の香りは、他のどの季節よりも明らかだ」という文章がとても素敵です。
また、三宮さんにとっても、やはり読書は秋だという。その理由は、点字の手触りが良くなるからなのだそうです。嬉しくなりますねー。
一篇一篇、三宮さんを導き手に、四季の情感を新しく味わうことのできるエッセイ本。お薦めです。

【冬】冬を聴く−冬の夜の音/冬を食べる−スウィーツで乾杯/冬に触れる−氷の畔の一期一会/冬の匂い−楽器の香り/
【春】春を聴く−私の春告げ鳥/春に触れる−野草を摘みに/春の匂い−「のたりのたり」と潮の香り/春を食べる−幸せのストロベリー/
【夏】夏を食べる−涙のお寿司物語/夏を聴く−「私の滝」/夏に触れる−裸足に捧げる賛歌/夏の匂い−空が香る/
【秋】秋を聴く−驚きの音さまざま/秋の匂い−大きな香り、小さな香り/秋を食べる−ちぎれ蕎麦打ち/秋に触れる−触れて読む

     


   

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