本岡 類(もとおか・るい)著作のページ

 
1951年生、早稲田大学卒。出版社勤務。81年「歪んだ駒跡」にてオール讀物推理小説新人賞を受賞し作家デビュー。取材をもとにした多くのエンターテインメント作品を執筆。

 


 

●「介護現場は、なぜ辛いのか−特養老人ホームの終わらない日常−」● ★★

 

 
2009年05月
新潮社刊

(1500円+税)

 

2009/06/09

 

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実家の母親に介護の必要が生じた。時を同じくして介護保険法の改正があり、ヘルパーさんたちに余裕がなくなったと感じた。
それに加えていろいろ聞くことになった、介護に関わる良からぬ話、典型的な3K職場であるという評判。
一念発起した著者はヘルパー2級の資格を取り、どうせなら介護の現場を体験しようと、特養老人ホームに週2日勤務、時給 850円の非常勤職員となって働き始めたという、ノンフィクション。

佐江衆一「黄楽を読んで中年夫婦が老人介護することの大変さを知りましたが、あれから14年。寿命の延長に伴いますます大変になっているという認識はあるものの、老人介護問題、自分の身にそうした問題が降りかかってこないうようにと祈りつつ、無関係の間は見て見ぬふりをしてきた、というのが現実ではなかったか。

老人介護の仕事は極めて大変、しかも報酬は少なくボーナス支給もままならずろくに有休もとれないうえに、夜勤まである。
筆者の体験によると、老人介護の仕事で最も大変だったのは、オムツ交換、排泄ケアだとのこと。
しかし、そうした仕事そのものの大変さと別に考えさせられたのは、普通の職場であれば当然に考慮され、行なわれているべきことがなされていなかった、ということ。
すなわち研修やマニュアルなどは一切なく、事前に何も説明を受けていないことで叱られる。さらにちょっとした不注意によるミスを職員全員の前で散々に貶される、等々。
後者などは、上司が部下に対して行なってはいけないことの典型例としてもはや一般常識的な事柄でしょう。
何故こうした状況があるかというと、常勤職員で統率者の立場にある人が、介護以外の場での社会経験を殆ど持っていないからだろうと著者は述べています。
社会制度的にも、他の職種に対して報酬は低く、さらにその後の昇給率も極めて低い。
その結果として、将来の担い手となるべき若い人から
「将来にまるで希望が持てない」という言葉が出てくるのだとか。
介護保険制度等、社会制度の仕組みに問題があるのは勿論のことですが、ごく普通の当たり前のことが行なわれておらず、その結果として無理が重ねられ、介護の仕事に意欲ある人を次々と脱落せしめている。そんな現状に先が展望できるのか、というのが筆者の憂い。

本書を読んですぐどうしようという訳にはいきませんが、介護現場の実態を垣間見るだけでも大いに勉強になったと感じます。
いずれ私も介護問題に直面するかもしれないのですから。

扉が開いて/「混沌」への招待/強ストレス職場の日々/「高齢」という現実/真夏の夜の夢/モラルハザードのはざまで/出られない人たち/せめてもの未来を

     


 

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