松岡和子著作のページ


1942年旧満州新京(長春)生、東京女子大学英文科卒、東京大学大学院修士課程修了。翻訳家・演劇評論家。96年からシェイクスピア全作品の新訳に取組中。

1.
快読シェイクスピア

2.シェイクスピア「もの」語り

3.深読みシェイクスピア

  


  

1.

●「快読シェイクスピア」(河合隼雄・共著) ★★


快読シェイクスピア画像

1999年02月
新潮社刊

(1700円+税)

2001年11月
2018年04月
新潮文庫化



1999/03/02



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心理学者と翻訳家が対談で語る、シェイクスピア戯曲6作の面白さ。案内本のひとつと言えます。
案内本の中では、中野好夫(「シェイクスピアの面白さ」新潮選書)・小田島雄志お二人の本が読み易くかつ面白いのですが、本書は登場人物の心理状況を考えるという興味がある分、前2者と比べるとちょっとハードルが高い、という印象を受けます。
その一方で、対談形式だから読み易いという面もあります。
シェイクスピア戯曲というのは、語れば語るほどきりがなく、また語れば語る程面白い、というものです。本書もその例外ではありません。
でも、本来的に言うならば、シェイクスピア作品そのものが面白いのです。そのまま読んでも面白いし、案内本を読んでも面白い。またそうした本を読んだ後に読み返すと更に面白い。多様な面白さがあって、読み飽きることがない、というのが私の考えです。
ただ、一度シェイクスピア作品を読んだというだけでは、面白さをつかみ損なうということが当然あり得ます。その面白さをつかみ損ねないようにするという意味で、本書に類する本は意味があると思っています。
「シェイクスピア=4大悲劇」というのは偏った見方。まず喜劇から楽しんでみては如何でしょうか。

ロミオとジュリエット/間違いの喜劇/夏の夜の夢/十二夜/ハムレット/リチャード三世
 

  【河合隼雄】1928年兵庫県生、京都大学理学部数学科卒。京都大学名誉教授、国際日本文化研究センター所長。日本におけるユング派心理学の第一人者であり、心理療法家。

         

2.

●「シェイクスピア「もの」語り」● 


シェイクスピア「もの」語り画像

2004年02月
新潮選書

(1100円+税)

 

2004/05/11

シェイクスピア戯曲の中で使われている道具立てから各作品を語るという趣向、それ故に本書は「もの」語り

シェイクスピア戯曲については、以前からいろいろな角度によるアプローチが試みられていて、その類のエッセイ本は相当の数にのぼります。本書も、それに連なるエッセイ本と言って良いでしょう。
しかし、道具立てによるアプローチに新鮮な面白味があったかといえば、残念ながらそれ程のことはなかったと、言わざるを得ません。また、各章が短いため、十分語られないままに終わってしまうという物足りなさが常に残ります。
その点ではむしろ、ハムレットの母・ガートルード、主要登場人物ながら唯一名前のないマクベス夫人らを語った、後半の「シェイクスピアの女性たち」の方が新鮮で、面白い。同じ女性である松岡さんが語るだけに、納得感があります。

こうしたエッセイ本は、小田島雄志さんが全訳に挑んでいた頃に多く書いていて、シェイクスピア戯曲を楽しむうえでの良き導き手となったものです。
したがって、今までこうしたエッセイ本を読んだことのない方なら、格好の手引書としてお薦めしたい一冊です。

シェイクスピア「もの」語り/シェイクスピアの女性たち

     

3.

●「深読みシェイクスピア」 ★★


深読みシェイクスピア画像

2011年02月
新潮選書刊

(1200円+税)

2016年05月
新潮文庫化

   

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演劇評論家でもある小森収氏が訊ね、松岡さんが答えるという形で綴られたシェイクスピア翻訳録。
戯曲であるシェイクスピア作品を語るには、こうした会話形式が如何にも相応しい。そのおかげで、書かれた文章であれば理屈っぽくなりそうなところが、楽しいやりとりになっています。

本書の内容は、シェイクスピア戯曲全訳に取組中の松岡さんが、微妙な“訳どころ”を語った一冊。
そこに気づいたのは、演じる俳優たちのセリフ回し、あるいは俳優たちの指摘による、というのが本書のミソです。

「ハムレット」オフィーリアのセリフへの疑問は、松たか子さんの感じたところから解消。
「ヘンリー六世」王エドワードグレイ夫人の関係は、草刈民代さんからの質問に答えて、ハッと気づいたとのこと。
「リア王」:リアのセリフの訳改善は、山崎努さんが目の前で口にしたセリフを聞いて「あ、違う!」と気付いたことから。
「ロミオとジュリエット」:ジュリエットのセリフの訳には、訳した時代と、訳者が男性か女性かによっても変わる、という。
また、2人称を表す
「you」「thou」の違い、この違いをどう解釈するかについては、興味津々。そして最終的に訳は佐藤藍子さん次第。
※この章では、12人の役者の各々の訳が列記され、対比されているのが、殊の外楽しい。
「恋の骨折り損」では、史実と戯曲が対比され、「夏の夜の夢」ではジョン・ケアード演出による日本語上演の際、訳を担当した時の稀に見る体験が語られていますが、成る程なぁ・・・と思うばかり。
「冬物語」:妻への疑念が何故起きたのかが、唐沢寿明さんの演技から解き明かされる。
「マクベス」「we」「alone」の使い分けが、ストーリィの流れで深い意味を持つ。
等々、シェイクスピア・ファンであれば、ワクワクすることばかりで、真に楽しい一冊。

シェイクスピア戯曲は、セリフの中に謎が無限大にあり、その謎解きもまた無限大にあるからこそ、楽しさが尽きないのです。まして本書は、語られたセリフ・演技がヒントになって、謎の解釈が生まれるという展開なのですから。
シェイクスピアの魅力の一片を味わわせてくれる素敵な一冊。

ポローニアスを鏡として−「ハムレット」/処女作はいかに書かれたか−「ヘンリー六世」三部作/シェイクスピアで一番感動的な台詞−「リア王」/男、女、言葉−「ロミオとジュリエット」「オセロー」/他愛もない喜劇の裏で−「恋の骨折り損」/日本語訳を英訳すると−「夏の夜の夢」/嫉妬、そして信じる力−「冬物語」/言葉の劇−「マクベス」

   

シェイクスピアに関するエッセイ・評論等のページ

    


 

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