小林照幸著作のページ


1968年長野県生、ノンフィクション作家。明治薬科大学在学中の92年「毒蛇」にて第1回開高健賞奨励賞、「朱鷺の遺言」にて大宅壮一ノンフィクション賞を最年少で受賞。信州大学経済学部卒。


1.床山と横綱 ※改題:大相撲支度部屋

2.政治家やめます

 


   

1.

●「床山と横綱−支度部屋での大相撲五十年−」● ★★

 

1996年9月
新潮社刊

2000年3月
新潮文庫化
−改題−
(476円+税)

 

1996/10/10

文庫本の題名は、大相撲支度部屋−床山の見た横綱たち−
戦前、双葉山の新横綱場所時、出羽海一門に床山として弟子入りし、以後50年を送った床清こと佐々木清養氏の半生を語る本です。
行司、呼び出し、床山という大相撲の裏方の様子、大相撲の歴史もさる事ながら、最も強く感じたことは、それぞれの役割を尽くしている人たちがいるからこそ、大相撲の発展、隆盛があるということです。
明治中期の横綱で出羽海部屋の隆盛を築いた常陸山。力士の栄養・部屋の仲間意識を強めることを考えてチャンコ鍋を考案、さらに部屋の発展のため後援会も組織したとのこと。武蔵川親方は専門学校で簿記を習い、経理の近代化に大きく貢献したそうです。
何故髷を結うのか。髷によって土俵から落ちたとき頭を守る事が出来る。けっして飾りではない。だからこそ、床山たちの精進も有り、大切なものだからこそ美しく見事につくるという美意識にも繋がっているのだそうです。
床清さんは、歴代横綱55人の内17人の頭を結ったと言います。
定年当日、心友と言える第28代木村庄之助から「一櫛入魂」という書が届いたとのこと。床清さんの半生を象徴していて、良い言葉だと思います。
良い本を読んだ、という読後感があります。

  

2.

●「政治家やめます−ある自民党代議士の十年間−」● ★★




2001年6月
毎日新聞社刊
(1700円+税)

 

2001/10/06

向いていないので政治家を辞めます、かつてこんな理由で辞めた政治家がいたのでしょうか。
本書は、そんな政治家=元自民党衆議院議員・久野統一郎(62歳・愛知8区)の、政治家になってから辞めるまでの道のりを描いたノンフィクション。
元々久野氏は、父親・久野忠治(元郵政大臣)の跡を継いで代議士になるつもりなど全くなかった、とのこと。日本道路公団に地道に勤め、一生サラリーマンで終わるつもりだった。それが突然変わったのは、父親・忠治氏に当時の竹下登総理大臣に引き合わされた為。忠治氏に罠に嵌められたようなものですが、もはや跡を継がないなどとは言えない状況となっていた由。
それ以降、ひたすら票をもらい、当選する為に、ひたすら名刺を配り、頭を下げ、握手して回る生活が始まります。
そして3期10年にわたり、竹下−小渕−橋本派の中で相応に役職を次々と務め、実績を積み上げていく。
ところが、「普通の人の、普通の人による、普通の人のための政治」を目指したものの、現実の政治はそう甘くない。その結果として、「疲れました。この十年間、自分の性格に向いていないことをしてきて辛かった」という辞意の言葉になる訳ですが、素直に共感できるものがあります。
普通の人の感覚からすると、政界・国会の中は不可解なことばかり、そして金銭感覚は麻痺し、選挙支援者への義理人情でがんじがらめ。自分のしたいこと、言いたいことは、なかなかしようにもできない状況。そんな政治家の現状を知るには、本書は格好の案内書です。
そんな久野氏でも、いざ選挙となると、勝ちたい、負けまいという闘争心が漲るのですから、面白いと言えば面白いものです。
代議士を辞めた後の久野氏は、本当に自由気侭な雰囲気。重圧感を常に抱えていた代議士生活とは雲泥の差です。性格的に向いていなかったという久野氏の辛さが、改めて窺えます。
著者は久野氏ではないのに、まるで久野氏本人が執筆した本のように、その心のうちが読み手に伝わってきます。それ故に好感あり。そしてまた、ひとりの政治家の胸の内をありのままに語った本として、読み応え・読み甲斐がありました。
政治に一歩近づくことのできる本として、お薦めです。

  


 

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