金 惠京
(キム ヘギョン)著作のページ


Hae Kyung Kim
 1975年韓国ソウル生、96年明治大学法学部法律学科入学、2000年卒。02年早稲田大学アジア太平洋研究科国際関係学専攻修士課程修了。その後渡米し06年ローファーム Morrison & Foester 本部国際弁護士、07年ジョージ・ワシントン大学総合科学部専任講師、10年ハワイ大学韓国研究センター客員教授、12年明治大学法学部助教、15年から日本大学総合科学研究所准教授。専門は国際関係学、国際法。

1.
涙と花札

2.
柔らかな海峡

金惠京 キム・ヘギョンホームページ
    


   

1.

「涙と花札−韓流と日流のあいだで− ★★☆


涙と花札
 
2012年12月
新潮社刊
(1500円+税)

  

2013/02/01

  

amazon.co.jp

正直に言って、こんなに面白く、これ程学ぶところの多い書とは思ってもみませんでした。
日本に留学経験があり、たまたま現在明治大学の助教授という職にあるから書かれた、文化比較論的な軽いエッセイとばかり思っていました。
ところが、本書は実に奥深く、金惠京さんが積み重ねてきた貴重な体験に基づく手記であり、日本〜韓国の相互理解を深める一助となるに違いない価値ある一冊でした。

著者の
金惠京さんは、韓国生まれの韓国人。元々成績優秀で、受験生皆が目標とする名門大学に合格したにもかかわらず、日本で学びたいという気持ちを強く持ち続け、晴れて留学、明治大学法学部で学んだという人。
今でこそ韓流ブームとかで敷居が低くなった日韓ですが、金さんが日本に留学した当時日韓の距離は遠く、様々な苦労があったという。
そうした情勢下、大きな希望をもって日本に留学し明治大学に学ぶ。しかし、あることで挫折感を覚え心が日本から離れて故国へ向かう。それでも挫折を乗り越え再び来日、そして更に米国へという軌跡を語った書、つまり本書はかなり自伝的な内容です。

そうした経験をもつ金さんが語る言葉には、実に奥深いものがあります。理屈ではなく、自身が実際に経験してきたことを語ってのことですから、何より得難く、貴重なもの。
日本と韓国の双方を視野に入れて学ぶ内、やがて金さんの視点は日韓を越えて広く世界へと繋がっていきます。
本書を読んで感じたことはまず、金さんの願望と頑張りに日本が応えられたことが、とにかく嬉しいこと。
そして、人と人が繋がるためには、まず言葉を掛け合うことが大切、そうすれば対話が生じ、それをきっかけに相互理解が生まれていく。それが本書から感じる金惠京さんの、愛情の籠ったメッセージです。是非お薦め。

※題名の「涙と花札」は、韓国の葬儀では親族が号泣する横で弔問客が花札をすること。日本人から見ると理解できない行為ですが、それには納得できる理由がある。でもそれを知らない限り、理解はできないままである、という象徴的な題名です。

プロローグ/遠い日の記憶/夢と受験のはざまで/憧れの留学生活/大学での忘れえぬ人々/望郷/道を切り拓く/北朝鮮という運命/アメリカを生きる韓国人/終の帰還/エピローグ

      

2.
「柔らかな海峡−日本・韓国 和解への道− ★★


柔らかな海峡

2015年11月
集英社刊

(1500円+税)

 


2015/12/28

 


amazon.co.jp

副題が示すように現在の日韓関係について様々な面から考察する他、昨今の国際情勢(テロ問題、「イスラム国」問題等々)について読み解こうとする一冊。

その中でもやはり読む価値があるのは、日韓関係改善の可能性について言及した前半部分でしょう。

安倍首相・朴槿恵大統領という組み合わせになって以来、日韓はギクシャクしたままで少しも改善の方向が見えず、いつの間にか私自身もやたら関係悪化を強調するマスコミに影響されていたのか、韓国に対しマイナスイメージを抱いてしまっていたことに改めて気づかされます。
その点、本書で金惠京さんは、日本・韓国両国の内情を冷静にとらえたうえで、両国を公平かつ客観的に論じており、とても為になったと感じるところ大。

とくに記憶に刻んだのは次のこと。
何故いつまでも戦時中の行為について批判され続けなければならないのか、というのが日本側の心情としてありますが、それを招く言動を日本側が繰り返している事実がある、という指摘。
確かにいつまで経っても、時折思い出したように「侵略戦争ではなかった」という失言をする政治家が跡を絶ちませんし、日本側においても問題をぶり返している点は否定できません。
その一番代表的な例が、靖国神社への閣僚参拝問題でしょう。どうもこの問題、日本側が突っぱね、諸外国に理解しろと強要するばかりで、何故諸外国が批判しているのか理解しようとする姿勢を欠いている、という典型例のように感じます。

歴史的にみても、現在の地理上から見ても一番近い隣国であり、よく似た面のある両国が反目し合っているという状況は悲しいことと思います。
実際は一部の過激な人たちが過激な言動を繰り返しているだけのことが大げさに報道されているだけで、一般の日韓双方の国民レベルでは親近感を持ちあっているという事実をもっと見つめ直す必要があるのだろうと、本書を読んで導きを得た思いです。
ちょうど慰安婦問題で日韓外相が交渉を行い、一定の合意ができたようです。これにより改善が進むことを願ってやみません。

批判し合うだけでなく、どうしたらお互いに理解を進めていくことが出来るのか。そうした思いからして、読んで意味ある一冊です。


プロローグ/1.対立を超えて/対談:「日韓関係の未来像を語る」姜尚中+金惠京/2.世界はどこを目指す/3.後退に抗する/エピローグ

 


     

to Top Page     to エッセィ等 Index