金 賛汀(キム・キャンジョン)著作のページ


KIM Chanjung 1973年京都生、ノンフィクション作家。朝鮮大学校卒業後、雑誌記者を経て独立、主に在日朝鮮人問題、教育問題について執筆を続ける。92年上梓した「パルチザン挽歌―金日成神話の崩壊―」(御茶の水書房)にて北朝鮮政府の正史を覆して話題になる。

 


 

●「韓国併合百年と在日」● ★★☆

 


2010年05月
新潮選書刊
(1200円+税)

 

2010/07/01

 

amazon.co.jp

在日朝鮮人の人たちのこと、高校生の頃には朝鮮学校の生徒たちとやたら喧嘩している同級生がいたり、従妹が韓国人男性と結婚することになったことが原因で親戚間に亀裂が入ったり、映画「パッチギ!に感動したりと、決して無縁だった訳ではありませんが、きちんとした知識をもっていなかったのは事実。
日本による植民地化〜太平洋戦争がその主因であるとはなんとなく知っていましたが、その程度の知識のまま平然としていたことを今にして恥ずかしく思います。

本書は在日二世の著者が、1910年08月の韓国併合から1世紀という節目にあたって、何故「在日」が生まれたのか、どんな経緯があったのか。そして戦後どういう経緯を辿ったのかを、一連の流れとして解説した一冊です。
率直にいって、こんなに複雑な流れがあったのかと、驚きます。
その複雑さとは、幾つもの国家が自分の勝手な都合から、在日朝鮮人の人々を翻弄した、ということに他なりません。
・まず、日本による植民地化により朝鮮国内は困窮の度を増し、その一方で日本国内は急激な成長により労働力が不足し、その必然的な結果として朝鮮人を誘致。それはさらに、戦時動員への膨らんでいく。
・そして戦後、朝鮮人に非道な扱いをしてきた事実を隠すべく、彼らを一刻も早く朝鮮に帰国させようとする。
・占領軍の命令により、残留した朝鮮人に対して一方的に日本国籍が付与される。しかし、戸籍が日本にある訳ではないので、そこで考え出されたのが「外国人登録令」という代物。実質、在日の人々を管理する仕組みとなる。
・そしてまた北朝鮮。労働力不足から在日の人々に目を付け、夢のような宣伝文句で騙し、北朝鮮帰還事業を推進。その一方で、当時の大韓民国政府は在日問題に無関心。

戦前の日本と朝鮮、戦後の日本、米軍、北朝鮮、韓国、中国、ロシアと、極東情勢まで踏まえて的確に「在日」の歴史を語った一冊。真に読み応えがあります。
在日の歴史とは在日の人々だけの歴史ではなく、この日本を舞台にして繰り広げられた歴史に他なりません。それにも拘わらず、何故その歴史がきちんと語られてこなかったのか。
その意味で、本書は広く読んでもらいたい一冊です。
また、著者の金賛汀さんについて素晴らしいと感じるのは、過去を語るだけに留まらず、今後の在日が歩むべき進路を、積極的に語っている点です。 是非、お薦め。

1.殖民地支配の幕開けと在日
 在日朝鮮人の誕生/亡国の悲哀と独立への渇望/戦時体制下の在日社会
2.殖民地支配の終焉と在日社会
 新国家建設の渇望と怒涛の帰還熱/祖国志向の在日社会/冷戦の激化と厳しさ増す生活/南北冷戦の尖兵/定住の進展と在日の新たなる動き/共生社会という道筋

おわりに−韓国併合百年を迎えて

   


  

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