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●「いのちの授業−がんと闘った大瀬校長の六年間− ★☆

 

 
2005年2月
新潮社刊

(1300円+税)

 

2005/05/27

神奈川新聞に長期連載された「いのち奏でる」の単行本化。
神奈川県茅ヶ崎市で教育改革のパイロット新設校となった市立浜之郷小学校。本書は、その現場で教育改革の旗頭となった名物校長、亡き大瀬敏昭氏の活動ぶりを追った密着ルポです。

教育現場のルポであるというなら特定の個人を描く形になるのはどうかと思うのですが、本書が大瀬校長に比重を大きく置いているのにはそれなりの訳があります。それは、浜之郷小学校開校まもなく大瀬校長が悪性癌の宣告を受け、自らの余命をにらみながら、率先して教育改革に邁進し、校内で自ら“いのちの授業”と名付けた授業を続けていた故です。
また、浜之郷小学校の改革方針そのものが、県の教育委員会指導課長の職位にあった大瀬校長により策定されたものであって、その指導力と相まって大瀬校長の存在抜きにして語れないものであるからです。
ただし、読んでいてもうひとつ得心の行かなかった部分があります。それは、浜之郷小学校の教育改革が本当に子供たちに広く受入れられるものだったのか、という点。やむを得ないことかもしれませんが、とかく教師側の視点から描かれており、子供たちの目からみて本当に適切なものだったのか、という点がどうしても気になるからです。
これらの点については、現場を見ることなくして評価はできないものでしょう。全国から教育関係者の見学が多かったという事実は、本校の成果を事実として裏付けるものかもしれません。最近では各地で教育改革の実践校が設けられているようですが、実のところ私はその内容も小学校の現場も、よく知りません。
したがって、浜之郷小学校の教育改革について論評する資格など私にはありません。上記はあくまで印象だけのことです。

癌が再発した後、食事もとれずカーテルから栄養液を取るという状態でありながら改革実践に邁進し、校長という職にあるまま逝去した姿には、果たして自分だったらそこまでできただろうかと自問せざるを得ません。
そんな情熱があったからこそ、余命3〜6ヵ月と宣告された後仕事に邁進しつつ2年も生き抜くことができたのでしょう。
“命”と生きる目的の関係とを、考えさせられる一冊です。

発病/創学/開校/教師改革/転換/再発/信仰/故郷/家族/命の授業/継承/最後の授業/臨終/別れ/萌芽/エピローグ

    


  

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