池内 紀著作のページ


1941年兵庫県姫路市生、ドイツ文学者。「海山のあいだ」にて講談社エッセイ賞、「ゲーテさん こんばんは」にて桑原武夫学芸賞、「ファウスト」の新訳にて毎日出版文化賞、「カフカ小説全集」にて日本翻訳文化賞を受賞。2019年08月逝去。

 


 

●「カフカの書き方」● ★★☆




2004年03月
新潮社刊

(1600円+税)



2004
/05/15



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カフカ・ファンにとっては、真に嬉しい一冊。
手稿版「カフカ全集」を訳した筆者が、カフカの手紙や草稿、日記から、カフカの執筆ぶりを鮮やかに描き出した本です。

「変身」等の特異な作風に理屈抜きに惹きつけられる、というのが、私にとってのフランス・カフカという作家。とは言っても、私が読んできたのは、カフカの友人マックス・ブロートが編纂して構成を整えたブロート版。それ故、カフカが書き残した手稿版がどのようなものであったのか、それについて語った本書には、興味をそそられます。

本書に語られるカフカの執筆ぶりからは、新たなカフカ像が浮かび上がってきます。ブロートが描き出したカフカ像は、作品発表を願うことのなかった天才作家。一方、フェリーツェへの手紙(1)から私が抱いた印象は、苦悶しながらも書かずにはいられなかった無名作家、というものです。しかし、ここには、書くことこそ自分の人生と信じ、ひたむきに書き続けた青年像が感じられます。

まさに、本書に語られる「書き方」は、カフカの“生き方”に通じるものです。
カフカ・ファンには、是非お薦めしたい一冊。

「変身」の誕生/「失踪者」の行方/「審判」の構造/短篇集のできるまで/「城」のありか/二人の「断食芸人」

   


  

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