蓮池 薫著作のページ


1957年新潟県生、現在新潟産業大学専任講師。中央大学法学部三年在学中に拉致され、24年間北朝鮮での生活を余儀なくされる。帰国後中央大学に復学し、2008年に卒業。05年初の翻訳書「孤将」を刊行。 他の訳書に「ハル 哲学する犬」「私たちの幸せな時間」「もうひとり夫が欲しい」等々。09年「半島へ、ふたたび」にて第8回新潮ドキュメント賞を受賞。


1.
半島へ、ふたたび

2.
拉致と決断

 


     

1.

●「半島へ、ふたたび」● ★★       新潮社ドキュメント賞


半島へ、ふたたび画像

2009年06月
新潮社刊

(1400円+税)

2012年01月
新潮文庫化

 

2009/07/17

 

amazon.co.jp

今さら言うまでもなく、北朝鮮による拉致被害者の一人、蓮池薫さんのエッセイ本。
新潮社のHPに2007年06月から09年03月まで連載された「蓮池薫ブログ=My Back Page」に加筆・修正したものとのこと。
第一部の「ぼくがいた大地へ」は、8日間にわたるソウル旅行のこと。
第二部「あの国の言葉を武器に、生きていく」では、蓮池さんが翻訳という仕事で生きていこうと決意した辺りのこと、その結果として韓国の人気作家=孔枝永さん(「私たちの幸せな時間」の著者)との交流を始め、日本人と韓国人との仲立ちをするという立場になって考えたこと等のことが書き綴られています。

韓国へ向かう飛行機の窓から朝鮮半島を見たとき、「瞬間、背筋にヒヤリとしたものが走」り、北朝鮮に拉致され「体に刻みこまれていたおぞましい24年間の歳月」が蘇ったと蓮池さんは冒頭で記していますが、その気持ち判る気がします。
頭で考えたことでも心で感じたものでもなく、本能的な反応だったということに、24年間にわたって蓮池さんご夫婦味わい続けてきた恐ろしさの一端を感じる思いです。

その韓国を見る蓮池さんの目は、北朝鮮の実情を身をもって長年経験したことと、帰国後の日本での生活を経て、北朝鮮と韓国を比較しつつ日本とも対比してみるといった、韓国・北朝鮮・日本を並べて比較するという方向に向いています。
本書ではその点が興味深いところですが、そうした視点は拉致被害者である蓮池さんしか持つことのできないものでしょう。
韓国と北朝鮮、相反するところがある一方で、同じ朝鮮として共通するところも多いという。
その意味で、新鮮さを感じる韓国紀行文になっています。(私自身の韓国旅行とは、見る視点がだいぶ異なっていたようです)

本書で印象的だったことは、未だ北朝鮮に拘束されている筈の拉致被害者の帰国、拉致事件の解決に向けて、蓮池さんが未だ強い気持ちを持ち続けていること。
そう、拉致被害事件が解決に至っていないことを我々は決して忘れてはならないのだということを、改めて感じました。

僕がいた大地へ/あの国の言葉を武器に、生きていく

     

2.

●「拉致と決断」● ★★☆


拉致と決断 画像

2012年10月
新潮社刊

(1300円+税)

2015年04月
新潮文庫化

  

2012/11/24

  

amazon.co.jp

拉致されて24年間にわたる北朝鮮での生活を綴った迫真のドキュメントにしてルポ。
本書は、新潮社の宣伝誌「波」に2010年05月から12年07月の間毎月連載されていた手記の単行本化。定期購読していたことから、毎月貴重な手記として大事に読んでいました。単行本化されたのを機に、もう一度全体を通して読んでみたいと再読した次第。

拉致という不当な犯罪、それでも拉致されてしまえば北朝鮮の中でしか生きていく道はない。主体思想への洗脳という教育も受ければ、首領様を尊敬する振りもしなければ生きていけない。何で自分を拉致した相手に・・・という思いは当然の感情でしょう。
それでもある部分、資本主義社会で贅沢に慣れた日本社会、物がなく食べ物にも事欠く社会主義社会の北朝鮮社会を、客観的に比較して観察しているところが、本書の見逃せない優れた点と思います。
そして北朝鮮社会の中で結婚し子供にも恵まれれば、如何にして子供を守っていくかということが最重要課題となっていく。
一時帰国後、家族が主張するとおりそのまま日本に留まるか、約束通り北朝鮮に戻るか。その葛藤は、北朝鮮と日本の板挟みになった拉致被害者にしか理解できない苦しみだったことでしょう。

拉致被害者の北朝鮮での生活はどんなものだったのか。北朝鮮の一般民衆の暮らしは、またその本音はどんなものであったのか、そして山間の“招待所”で暮らす拉致被害者との比較においてどうだったのか。
招待所で特別待遇を受けていたとはいえ、北朝鮮社会の内部で暮らし、北朝鮮人民に近い視線で、北朝鮮という特異な社会主義国家の内幕を語った本書は、迫真のドキュメントであると同時に貴重なルポと言えます。
本書を読んで強く感じたことは、北朝鮮という国と、その体制、その国民とを分けて考えなくてはならないということです。
拉致生活24年という長さには、改めて気が遠くなる気がします。
拉致被害者の苦しみ、そして北朝鮮という国家のことを知る上でも、お薦めしたい良書です。

絶望そして光/人質/自由の海に溺れない/自動小銃音の恐怖/生きて、落ち合おう/煎った大豆を/飢えの知恵/配給だけでは食えない/望郷/誘惑/革命のコンテンツ/北の狩り/洗脳教育/本音と建前/バッジを外すとき/自由な市場/二十四年ぶりの外食/いた!親父だ!/様々な打算/蟻の一穴?/理性と本能/将軍様の娘/涙の演技/タブーと政治/危険水域/後ろめたさ/終わりと始まり

     


  

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