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Chanel Miller 1992年生。作家、アーティスト。カリフォルニア大学サンタバーバラ校で文学の学士号を取得。2019年「私の名前を知って」にて全米批評家協会賞(自伝部門)を受賞。 ニューヨーク・タイムズ紙「ベストセラー」のほか、ワシントン・ポスト紙、シカゴ・トリビューン紙、タイム誌、NPR誌、ピープル誌などで2019年のベスト・ブックスに選ばれた。また、2016年にグラマー誌「ウィメン・オブ・ザ・イヤー」、19年にタイム誌「ネクス 100」、20年にフォーブス誌「30歳未満の30人」に選ばれている。 |
「私の名前を知って」 ★★★ 訳:押野素子 原題:"Know My Name" |
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2021年02月
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米国の名門スタンフォード大学の有望水泳選手が引き起こした性暴力事件。 被害者となった女性は、ただ性暴力によって傷つけられただけでなく、その後の捜査や裁判といったあらゆるものから傷つけられ続けていく。 自分が悪かったのかという自責の念に際限なくかられ、他人の目を恐れ、家族の自らだけでなく家族までも巻き込んでその生活を乱してしまう。 事件発生から控訴棄却まで3年8ヶ月という長い期間、苦しみ続けた被害者「エミリー・ドゥ」ことシェネル・ミラー自身による回想録。 改めて性暴力事件の被害者となった女性が、事件およびその後にどれだけ苦しみ続けさせられるのかを感じさせられます。 その中で著者が指摘し気づかされた衝撃的な事実の一つは、加害者は裁判の中で人間として語られ、配慮もされるというのに、それに反して被害者はいつの間にか「モノ」として扱われ、人間としての痛み・苦しみ、どれだけ人生が狂わされたかについては考慮されないのだ、ということ。 「私の名前を知って」という本書題名には、被害者である自分も実在の人間であること知って欲しい、という懸命な叫びが篭められています。 巻末に収録された、裁判の審理が終わり裁判官が判決を下す前に読み上げられた著者の「陳述書」が素晴らしい。名著と言って良いような品格を備えています。 そこに篭められた著者の声は、性暴力とはどれだけ非道な犯罪であり、断じて許してはならないものであることを、広く社会に訴える力を持っています。 ただ、その重みを真に感じられたのも、それまでの 470頁にもわたる回想録を読んでいたからこそ、と思う次第です。 こうした事件で闘い続けることは、被害者の女性にとってどれほど過酷なものであるかは、本書を読めばわかります。 でも闘うことによって、世界を変えることもできるのだ、と私たちは知るべきでしょう。 性暴力だけでなく、セクハラ、パワハラ、差別等々、人間の尊厳を損ない、人の心を傷つけていく行為もまた、許してはいけないことであると、強く感じます。 人々に訴える力をもった回想録、お薦めしたい一冊です。 まえがき/私の名前を知って/謝辞/被害者が受けた影響に関する陳述書−エミリー・ドゥ/あとがき/訳者あとがき |