日本語を学ぶ中国人にとってカタカナが難物、まるで暗号のようなもの、というところから、日本語を学ぶ中国人を読者に想定して書かれた小説、というのが冒頭の記述。
主人公となるのは日中混血で日本国籍を持つ青年カケル。幼い頃は日本で暮らしていたものの今は母親と上海暮らし。科技学院に入学して蘇州で一人暮らしを始めた処、ビザ更新のため一人で日本に行くように言われ、不安ながら初めての日本一人旅。
そして投宿したのが秋葉原近くのホテルだったため、早速にゲーム、フィギュア、そしてメイド喫茶という洗礼を受けることになります。
冒頭からとにかく面白い。何となく奇妙だなと感じて気付いてみれば、おぉ文章にカタカナが全く無いではありませんか(但し漢字ルビを除く)。その一方、中国的な漢字表記が盛んに並び連ねられ、いちいちルビ付き。
まるで漢字ゲーム、表記ゲームさながらで、文字を追うだけですこぶる楽しい哉。
そして前半での蘇州における中国世界と、後半での秋葉原における日本世界の対比、慣れない旅行者が秋葉原で戸惑う観ありと、日中混血のタケルだからこその微妙な違和感を読み手も体験できる訳で、これまた何とも微妙な面白さなのです。
「吾輩ハ猫」からついつい漱石を連想する余り、明治期に東京から松山に移った漱石が抱いた違和感もこんな感じだったのでは、という想像を書き立てられたのも愉快。
だからどう、というストーリィでもなく、本作品をただ読むだけで面白い、楽しい、といった作品。
さて本ストーリィにおける「猫」の関わりは?・・・それも読んでのお楽しみです。
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