谷津矢車
(やつ・やぐるま)作品のページ


1986年東京都生、駒澤大学文学部歴史学科考古学専攻卒。2012年「蒲生の記」にて第18回歴史群像大賞優秀賞を受賞。13年「洛中洛外画狂伝狩野永徳」にて作家デビュー。18年「おもちゃ絵芳藤」にて第7回歴史時代作家クラブ賞作品賞を受賞。


1.おもちゃ絵芳藤

2.絵ことば又兵衛

  


       

1.

「おもちゃ絵芳藤 ★☆     歴史時代作家クラブ賞作品賞


おもちゃ絵芳藤

2017年04月
文芸春秋

(1650円+税)

2020年10月
文春文庫



2017/05/15



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実在の浮世絵師、“玩具絵の芳藤”として知られる歌川芳藤を主人公に、幕末から明治にかけての浮世絵師たちの変転する姿を描いた歴史長編。

“武者絵の国芳”と呼ばれ、数多くの弟子を持った
歌川国芳の死去から本ストーリィは始まります。
国芳の画塾を守って若頭のような位置にあると言われる一方で、画才に関して言えば絵は丁寧だが華がないと手厳しい言い方をされてしまう芳藤。自分自身でその評価を納得してしまう処は、不器用なうえに人が好い所為か。
弟弟子である
月岡芳年落合芳幾らの浮世絵師、元は歌川一門だったが狩野派の絵師となった河鍋狂斎らが、芳藤を囲むように登場して本ストーリィを彩ります。

江戸の世がひっくり返って浮世絵が売れなくなったご時世、芳年や芳幾等が足掻くようにして生活の糧を得ようとしているのと対照的に、不器用故に、元々絵がそれほど売れていなかった故に、こつこつと生涯にわたって絵を描き続けた芳藤。
本作は、明治維新という大きな歴史の一方で、浮世絵師という人間たちのドラマを描いた長編。極めて人間臭い絵師たちの姿が、リアルに息づいているという印象です。

華はなくても、不器用でも、財をなせずとも、こつこつと絵を描き続けて人生を全うするのもまた、ひとつの幸せな生き方と言うべきなのだろうと、凡々人としては共感する思いです。

       

2.

「絵ことば又兵衛 ★★☆


絵ことば又兵衛

2020年09月
文芸春秋

(1750円+税)



2020/10/29



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織豊徳時代を生きた実在の絵師=岩佐又兵衛の波乱に満ちた人生を描く時代長編。

又兵衛の人生、幼児の頃からして既に波乱尽くし。
物心つく頃には、母親と2人だけの、何やら隠れ潜むような貧しい暮らし。そのうえに酷い吃音。
それでも絵の才能を見出され、早くから絵を学び始めますが、ある日、母親の
お葉は何者かに毒殺されてしまう。
その後又兵衛が知らされた真実は、自分が織田信長に謀叛を起こした
荒木村重の子であり、母親と信じていたお葉は乳母であったということ。

絵師としての才能は確かでも吃音故に思うようにいかない。
その点でも波乱万丈。
しかし、本作で描かれる又兵衛の苦闘は、絵師としてというよりも、むしろ人として生きる上でのもの、と感じます。
絵師としての苦しみは、吃音故にそれ以外に生きる道がなかったというだけのこと。
人として生きる、その基本的な過程でもがき苦しみ続ける又兵衛の姿に、圧倒されずにはいられません。

本作のもう一つの魅力は、又兵衛が出会う様々な人々との関わりにあります。
お葉、お徳、笹屋という架空であろう登場人物もそれなりに魅力あるのですが、又兵衛が関わる実在の人物が凄い。
絵師では
土佐光吉、狩野内膳、長谷川等伯、後の長谷川等哲、大名では織田信雄、結城秀康、松平忠直
それぞれに生きる上での苦闘があり、それらが又兵衛自身の苦闘と絡み合ってすこぶる面白い。
特に、出会った時から又兵衛を理解し同輩扱いしてくれた内膳が抱えていた秘密には、呆然とせざるを得ない程。

人として単純に幸せな暮らしを求めることがこんなにも難しく、苦しいことだったのか、そうした時代であったのか、と考えさせられる力作。 お薦めです。


1.子雀/2.老楓/3.明王/4.軛/5.春告鳥

    


  

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