八束
(やつか)澄子作品のページ


1950年広島県因島生、平安女学院短期大学卒。94年「青春航路ふぇにっくす丸」にて第34回日本児童文学者協会賞、2006年「わたしの、好きな人」にて第44回野間児童文芸賞を受賞。岡山県倉敷市在住。


1.
明日につづくリズム

2.
空へのぼる

3.
オレたちの明日に向かって


4.いのちのパレード

5.明日のひこうき雲

6.ぼくらの山の学校

 


    

1.
「明日につづくリズム」 ★☆


明日につづくリズム

2009年08月
ポプラ社刊
(1300円+税)

2011年11月
ポプラ文庫化



2015/04/18



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瀬戸内海にある因島に暮す女子中学生を主人公にした成長ストーリィ。
本書は、因島出身のロック・バンド=
ポルノグラフティが故郷で行った凱旋コンサートの様子を、偶然にもやはり因島出身の八束さんがテレビで観たことをきっかけに生まれた作品だそうです。

塙千波と親友である河田恵は、身長差25cmもあるでこぼこコンビながら共にポルノグラフティの大ファン。いつかポルノのライブを観たいというのが2人の念願。
島の中学生である2人は、いかにも伸び伸びとしている、という風です。
しかし、2人には悩みもあります。島は2人を守ってくれる存在であると同時に2人の進む道を拘束する存在でもあります。
造船業が隆盛だった頃は賑やかだったという因島も、今は小さな造船所が一つ残るだけと寂れた風であることは否めない。
そんな閉塞感を打ち破って島の外へ出たいという気持ち。まずは高校進学問題、島でただ一つの高校に通うか、それとも本土の高校へ通うか。それは家の経済状況にも関わります。

外へ飛び出していきたいという気持ち、一方で故郷や家族を愛する気持ち。成長過程において当然にぶつかる問題のように感じます。
また、親友との関係、両親が里子として引き受けた大地という弟との関係を描いた部分も味わい深い。
選択の時期を迎えた女子中学生2人の姿を瑞々しく描いた好篇。

1.ポルノに会いたい/2.そう 遠くから近くから君のことを見ている/3.いろんなコトをさあ一緒にはじめよう/4.ポルノがジャンプ台/5.「そうだ ぼくはくまだった よかったな」/6.希望と勇気/7.夏盛り 折古の浜/8.愛が呼ぶほうへ

     

2.

「空へのぼる」 ★★


空へのぼる画像

2012年07月
講談社刊
(1300円+税)



2012/09/15



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両親に捨てられた15歳違いの姉妹、桐子乙葉が懸命に生きてきた姿を描く、愛しい物語。
乙葉、桐子を交互に主人公として、2人の胸の内を素直に語っていくストーリィです。

11年前、中学生の桐子が帰宅すると両親はおらず、生後7ヵ月の乙葉が畳の上に転がって泣き続けていた。卓の上には一万円札が2枚置かれていたのみ。別々に施設に入れられ離れ離れにされてしまうことを恐れた桐子はずっと家に閉じこもった。そんな2人が今こうして一緒に暮していられるのは、子供のいない大叔母(亡祖母の妹)が2人を引き取ってくれたから。
現在乙葉は小学生、桐子は
女庭師として働いている。2人が問題を抱えていない訳ではありません。大叔母にまだらボケの症状が出てきましたし、女子仲間では誕生日パーティに呼び合うのが恒例と知って以来乙葉は女の子仲間から距離を置いたために、陰口を叩かれている。
そんな折、思いがけなくも桐子の妊娠が判り・・・。

自分たちは両親にとって余計な存在だったのか、愛されていなかったのか。家族を持つというのは、余計な荷物を抱えることなのか、それとも幸せなことなのか。この11年間姉妹はどんな気持ちで生きてきたのか。
桐子、乙葉の2人だけでなく、おばあちゃん、桐子の恋人である“
空師”の軍二、そして乙葉の同級生たちの幼い心がこの一冊の中に溢れ返っているようです。
そして、子も親を選んで生まれてくるのだ、というひと言が、オセロゲームのように本物語を一気に肯定的なものに塗り替えています。
児童書ですが、大人が読んでも胸熱くなる、瑞々しい作品であることに変わりは有りません。お薦め。

※空師とは、高い木の上で枝降ろし等の作業をする人のこと。

            

3.

「オレたちの明日に向かって Life is Beautiful ★☆


オレたちの明日に向かって画像

2012年10月
ポプラ社刊
(1400円+税)


2012/11/04


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中学生の課外授業=ジョブトレーニングを通じて、保険の役割および功罪、さえない中学生がちょっぴり成長する姿を描いた児童向け小説。

バスケ部でいつも監督から厳しく叱られてばかりの中2生=
花岡勇気が、ジョブトレーニングの対象として選んだのは保険代理店。指導してくれるのは、、始終母親が自動車をあちこちぶつけては世話になっている今井さん
折しも保育士をしている姉が、車で接触した自転車少年とのことでひき逃げ疑惑を負わされてショック。
3日間のジョブトレーニングを通じて、勇気が僅かながら大人社会の様々問題を体験すると同時に、勇気ならびに読者も保険について知ることができる、というストーリィです。
保険の功罪といえば、保険によって救われる人もいれば、悪計を巡らし保険金を騙し取ろうとする人間も出てくる、ということ。

判り易く、歯切れの良い児童向け小説になっていて、それなりに楽しく読むことができます。
また、保険の起源が古くはローマ共和政時代に遡る等々、保険の薀蓄も楽しめることと思います。

       

4.
「いのちのパレード ★★


いのちのパレード

2015年04月
講談社刊
(1300円+税)



2015/05/31



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バレー部でエースアタッカーのセナとセッターというコンビを組んでいた中学3年生の万里は、そのセナから突然妊娠したと告げられ動揺します。しかも、万里に何も告げないまま引越、転校して行ってしまう。
一方、万里と同級生の
勇馬は、姉の麻子が妊娠したことにより、妊娠〜出産という今まで関心もなかった出来事を身近で見聞きすることになります。

命の誕生という奇跡的であると同時に、命への責任とセックスを好奇心だけで扱ってはいけないということを、中学生向けにリアルに描いた作品。
中学生には未だ早いという向きがあるかもしれませんが、中学生年代での妊娠がもはや現実的な問題である以上、きちんと向き合って考えようとすることは、むしろ望ましいことだと思います。

現に万里、セナ、勇馬という中学生たちは切実な問題としてセナの妊娠、姉の妊娠という事実に向き合って、深く考えることになります。
妊娠、出産という問題は彼らより上の年代、万里の母親で看護師である
和美、勇馬の姉で初めて妊娠した麻子にとっても、出産〜子育てという問題がそんな簡単なことではないことが判りやすく描かれています。
上記のとおり本ストーリィでは少なくはない人物が主人公的に登場しますが、それとは別に本ストーリィのける隠れたる主人公は赤ちゃんたち(生を全うできなかった赤ちゃんたちも含め)である、と言って良いのではないでしょうか。
「いのちのパレード」は、そんな姿を私たちに告げています。

                       

5.

「明日のひこうき雲 ★★


明日のひこうき雲

2017年04月
ポプラ社刊

(1400円+税)



2017/04/29



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父親は単身赴任中、パート仕事に頑張り過ぎた母親がうつ病。おまけに住宅ローンの返済負担で家計はカツカツというのが、主人公である14歳の中学生=溝口遊の家庭状況。
母の状況が悪ければ小一の弟=
ダイとともに朝食、夕食共抜き、給食だけが唯一の食事ということも度々。
学校でも唯一親しくしているのは
金子満里だけですが、その満里の存在でどんなに勇気づけられていることか。

まだ子供なのに何でこんな辛い目に合わなくてはいけないのと怒りだしたいような暗い日々が突然に変わったのは、遊がサッカー部の
金城哲(キンちゃん)に心ときめかせてから。
キンちゃんに近づきたい余りに、やはりサッカー部の
福山君に夢中の五十嵐あさみと、強引に満里まで巻き込み3人でサッカー部に押しかけマネージャー。
そこから、満里と2人だけの閉塞的な関わりだったのが、あさみという朋友を得、さらにキンちゃんやサッカー部の男子たちとの交流が広がっていく中で、遊の世界が広がっていきます。

遊の泣きたくなるような状況はよくわかりますし、朝食も抜き、女子なのに制服も汚れたままとなれば、人との関りも減らしたくなるのは無理ない処。
それがキンちゃんに初恋した途端、積極的な行動に出ていくのですから、遊のワクワクする気持ちがとても愛おしい。
何より大きいことは、積極的な行動により人と人との繋がりが広がっていったことでしょう。
その結果、辛い経験をしたのは自分だけじゃないと気づき、他人を理解しようという気持ちも育っていく。
遊だけでなく、弟のダイや満里、キンちゃん、1年生の
コタちゃん等々、前に向かって一途に進んでいく皆が愛おしい。

心洗われるような、瑞々しい青春ストーリィ。私好みです。

1.おにぎりパーティ/2.マネージャー/3.おばあちゃん/4.部室/5.救急外来/6.マラソン大会/7.キンちゃんのおにぎり/8.冬の雷/9.すれ違う心/10.食堂つねちゃん/11.冬季リーグ/12.タコ公園

         

6.
「ぼくらの山の学校 ★★


ぼくらの山の学校

2018年01月
PHP研究所刊

(1400円+税)



2018/02/18



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友だちとコンパスでふざけていたら、神経質な新米女性教諭がなんて危険なことを!と騒ぎ立て、校長先生も同調。おまけにその言葉を母親まで疑うことなく信じこんだことにショック。
そのうえ次第にクラスで居場所を失くした
壮太、TVで観た<山村留学>の様子に、「ぼくの居場所って、ここじゃないのか?」と山村留学を親に願い出ます。
そんな壮太の、小学4年の一年間にわたる山村留学記。

舞台は四国の山の中、
空高町立山村留学センター
そのセンターで暮らす山村留学生は、2年生から6年生までの計13人(男子7人、女子6人)。
その空高町のセンターで、最初こそ家を思って泣いたものの、毎日楽しいことが見つかる山村集落の暮らし、様々な年代の子供たちとの共同生活、自分たちを見守り温かく声を掛けてくれる大人たちの存在と、生き生きした山村留学暮らしが描かれます。

いわば山村留学を実体験するようなストーリィ。
いやー、これがとても楽しいです。

核家族化した都会暮らしでは得られない、人と人との関わりが濃密で、自然との距離が近い生活。
貴重な体験と羨ましくなると同時に、余りに近い人間関係は鬱陶しいと感じるところもあります。
ともあれ、こうした経験、一度はしてみると良いのではないか、と感じる次第。


1.山村留学センター/2.こどもの日まつり/3.アゲハ/4.夏、来る/5.うじゃうじゃ/6.夏休み/7.キャンプ/8.秋祭り/9.サクラホテル/10.冬将軍/11.ピーターパン

    


   

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