矢野 隆作品のページ


1976年福岡県生。2008年「蛇衆」にて第21回小説すばる新人賞を受賞し、作家デビュー。


1.
蛇衆

2.
凛と咲きて


3.鬼神

  


 

1.

「蛇 衆(じゃしゅう)        小説すばる新人賞


邪衆

2009年01月
集英社刊
(1500円+税)


2009/02/23


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室町時代末期、信じ難い強さを発揮する傭兵集団がいた。
それは“蛇衆”と名乗る男女6人。
しかし、その蛇衆が九州中央を領地として戦にあけくれる鷲尾家に雇われた時から、彼らは否応なく呪いをかけられた鷲尾家中の争いに巻き込まれることになる。
しかしてその結果は・・・? そんな時代活劇小説。

ストーリィの発端部分は「オディプス」に着想を得たものでしょうし、蛇衆のキャラクター設定は隆慶一郎の“山の民”を思い起こさせ、最後の締めはシェイクスピア「マクベス」に通じる、というべき作品。
いろいろな名作のエッセンスを土台にし、繋ぎ合わせたようなストーリィですが、それでも面白く読めるのは、蛇衆6人による極め付けにスピーディなアクション、さらに最後の怒りに端を発した怒涛のような突進力に魅せられるからです。
しかし読み終わってみると、ストーリィとしては割り切れない思いが残り、今一つ満足できない。
その理由は、ストーリィは暗いだけで明るさに乏しく、膨らみもない、そして結局そのまま終わってしまう所為でしょう。

蛇衆7名のキャラクターと、そのスピーディな戦闘アクションシーンには魅せられますが、惜しいかな魅力はそれだけに留まる、という気がします。

           

2.
「凛と咲きて ★☆


凛と咲きて

2016年01月
新潮社刊
(1500円+税)

2018年02月
新潮文庫化



2016/02/12



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剣戟アクション場面が見ものの時代小説。
第一の主人公は表題にあるとおり、芸妓の
といって良いでしょう。
凛、実は盗賊の頭領の娘。そうとは知らなかった凛が12歳の時に父親一味は一斉に捕縛されてしまうのですが、凛自身は偶々外出して難を逃れます。その後は父親の配下で既に引退し長屋の大家となっていた
藤兵衛の庇護の下に育ち、今は一人前の芸妓という次第。
ただし、芸妓といっても唯の芸妓ではありません。凛の持つ三味線には剣が仕込まれ、三味線の撥と二刀流で敵に立ち向かうという具合。
その凛が関わることになった浪人者の
十三郎、こちらも何か訳有りらしい。

父親の遺した隠し金を狙う盗賊一味、十三郎を狙う武士たちが互いに交錯し、凛や藤兵衛、十三郎に危機が迫ります。
本作品の見せ場は壮絶な剣戟シーン。凛が揮う人の身の丈程の長さのある
<斬馬刀>が、その場面に迫力を添えます。
ただ、凛は自分についてどう考えていたのか、どう生きようとしていたのか。その辺りが全く触れられていない所為か、ストーリィ自体が何か薄っぺらく感じられてしまいます。そこが残念なところ。

各篇での主人公は、凛、十三郎、藤兵衛、十三郎を狙う陰湿で惨忍な
本間進之助と変遷し、それぞれが抱える事情と胸の内を描き出していくという立体的な構造。
最終話は凛と十三郎が去った後、凛に取り残された観のある料理屋の小僧=
伝助が主人公。この篇のみ成長ストーリィ要素が感じられますが、何か付け足しのようでやはり物足りず。

1.凛と咲けり/2.義理と愛情/3.老人と罪/4.飢餓と夢/5.出会いと別れ/6.凛と十三郎/最終話.昨日と明日

  

3.

「鬼 神 ★☆


鬼神

2017年03月
中央公論新社

(1700円+税)



2017/04/16



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酒呑童子、金太郎こと坂田金時という名前は聞き覚えはあるものの、さて具体的にどんな話だったのかというと殆ど知らず。
という訳で、酒呑童子伝説に題材をとった本作、これ幸いと読んでみようと思った次第。

冒頭、足柄山に
源頼光が訪れ、坂田金時を近習に加えたい旨母親に申し入れ、金時が山を下りて都に上るところからストーリィは始まります。
そこで後に“
頼光四天王”と呼ばれることになる渡辺綱、碓井貞光、卜部季武に金時を加えた4人が揃い、さらに今はまだ権力者の地位にはない藤原道長、陰陽頭の安倍晴明が登場。

さて、題名にある“鬼”とは何か。
安倍晴明は金時に対し、<国の埒外にある者>と説きます。
一方、大江山に仲間たちと暮らす
朱天は、山で獲られる食材で気儘に暮らす、まさに晴明説く処の“鬼”という存在。
自分たちに都合の悪い人間は鬼と呼んで、彼ら踏みにじることに何の呵責も感じないのが道長と晴明。
一方、道長に仕える源頼光は、鬼と呼ぼうが人は人、板挟みの苦しさを抱えながら共に歩める道を模索する人物。
そして金時は、元は鬼、今は都人という立場に思い悩む。

本作では誰が主人公なのか、金時か頼光か、はたまた朱天か、誰か一人に決めつけることはできませんが、自分の気持ちに揺らぐことのなかった朱天(道長によって酒呑童子と呼ばれる)が一番魅力的に感じられます。

いずれにせよ、日本の近代史以前の物語。
「この国にまだ神と鬼がいた頃の物語」という巻末の一文がすんなり胸の内に収まります。

1.人の都/2.鬼の山/3.酒呑みし童/人と鬼の戦/5.慙愧(ざんき)の鉞(まさかり)

   


  

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