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「birth」 ★★ 太宰治賞 |
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主人公の市ノ瀬ひかるは、幼い頃に母に棄てられ施設育ち。 今は新聞社の社会貢献活動の一環である地域振興課の臨時職員。 そのひかるが生きるよすがとしているのは、母子手帳。そこには母親と自分との関わりが確かな記録として遺されているから。 ある日、ひかるは公園のベンチで母子手帳を拾う。その手帳には自分とまるで同じ名前(松島ひかる)、同じ生年月日である母親の名前が記されていた。 それによりひかるはその母親に親近感を抱き、自分がその子の母親であるような想像を巡らします。そして、その母親に会いたいと思うのですが・・・。 ごく日常の、数日を描いたストーリィです。 それを、主人公の内心を、とても丁寧に描いていく、その語り口に極めて好感。 そして、孤独と思われたひかるですが、彼女のことを親身に気遣ってくれる人がいるということが分かります。ただの読者といえども、そのことが本当に嬉しい。 「彼女がなるべく遠くへ行けるように」は、第34回太宰治賞最終候補作の加筆修正。 「birth」と同様、丁寧な語り口なのですが、「birth」に比べると重たい、いろいろ詰め込み過ぎ、という印象を受け、惜しまれます。 birth/彼女がなるべく遠くへ行けるように |