宇佐美游
(ゆう)作品のページ


1962年青森県生。米国留学後、モデル、商社OL、ネイルアーティスト等を経て、フリーライターとして女性誌等で活躍。2000年「調子のいい女」にて第6回小説新潮長篇新人賞を受賞し、作家デビュー。

 


   

●「水着のヴィーナス」● ★★




2009年12月
文春文庫刊
(562円+税)

 

2009/12/27

 

amazon.co.jp

ずいぶん尖がった短篇集だなぁ・・・というのが、冒頭3篇を読んでの印象。でもコレ、決して否定的な意味の感想ではありません。それだけ鋭角的に鮮烈だった、ということ。

本短篇集では様々な境遇の女たちの姿が描かれます。
30代の既婚かつ子持ちのキャリアウーマン、ホステス、夫のおかげで富裕な暮らしを満喫している有閑マダム、不遇の生い立ちから始まり現在は冴えない家庭生活を送っているらしい主婦、不倫恋愛中のOL。その一方で、地方出身、貧乏生活に耐えながら都会で頑張っている20代の女の子も。
夫とのセックスを嫌がりながら上司の誘惑には応じる主人公を描いた「愛される女」から始まり、男性には窺い知りようもない、闇の奥に潜む女の底意をつきつけられたようで、のけぞる思いを味わわされる短篇集。

ことに強烈だったのは、表題作の「水着のヴィーナス」。一流スミングクラブに日々屯する有閑マダムたちの間で蠢くかけひきをサスペンスチックに描いた一篇。
主人公を非難する手紙を支配人宛てに出した犯人を探すという展開の中に、主人公の浮気心を満足させる周到な作戦があったと思ったら、それを更に上回る悪意が他の女たちの間に蠢いていたというストーリィ。
真に女の悪意には底知れないものがあると、思わず恐れおののいてしまいます。
草食系男子としては、不用意に手を出したら火傷してしまうに違いない、どうぞ一部の女性だけに留まるものであってくれますようにと祈る気持ちになりますが、肉食系男子ならむしろ野性味があって面白い、と思うのでしょうか。

その一方、ホロッとさせられるのが「娘の部屋」。都会で一人暮らしする次女の元を室蘭から父親が訪ねるというストーリィ。
この一篇だけ他の篇とは趣向が違うように感じますが、語り手が父親という男性であるためで、女性の生きる姿を描いているという点では、他の篇と異なるものではありません。
それでもこの一篇が加わっているために、本短篇集全体の印象が変わって見えますから、その存在感は大きい。

女性の様々に生きている姿、その性根、底にある逞しさ、そして、しぶとさ。一時は苦境に立たされようとも、きっとそこを突き破って生き抜いてくるに違いない。
本書はそんな女性の力強さを感じさせる、圧倒感ある短篇集。

愛される女/東京タワー/水着のヴィーナス/男娼/娘の部屋/雪の夜のビターココア

  


   

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