内田幹樹
(うちだもとき)作品のページ


東京都生、1965年全日本空輸(株)入社。YS-11、ボーイング737、同767、同747等の機長として国内線、国際線に乗務。また、操縦教官の仕事にも従事。その後2000年に開業したフェアリンク社に移籍。97年処女長篇小説「パイロット・イン・コマンド」(原書房)にてサントリー・ミステリ大賞優秀作品賞を受賞。

 
1.
機長からアナウンス

2.機長からアナウンス 第2便

3.査察機長

  


 

1.

●「機長からアナウンス」● ★★




2001年03月
原書房刊

2004年09月
新潮文庫
(400円+税)

 

2005/10/12

航空会社元パイロットによるエッセイ本。
飛行機好き、飛行機旅行の好きな人間にとっては、興味津々な一冊です。かく言う私もその一人。
そもそも、航空会社パイロットの仕事の実態は、あまり知ることがないのです。
スチュワーデス(性的差別用語らしいので以下「CA」)についてなら、深田祐介さんの小説やエッセイで度々読みましたし、TVドラマ「アテンション・プリーズ」「スチュワーデス物語」(古過ぎて申し訳ない)である程度知られているのですが、パイロットについてはまずない。(・・・と書いたところで、昔桜木健一さん主演のパイロット訓練生を描いたTVドラマがあったことを思い出しました。でも前2作のような話題にはならなかった筈)
CAなら絵になるけれどパイロットじゃ絵にならない、ということなのでしょう。ただ操縦しているだけだから。

・・・と一言で済ませてしまえばそれで終わりなのですが、実際にパイロットであった内田さんの語る話は、どれも面白い。
自動操縦で着陸はできるけれど離陸はできない、という話には、なぁるほど! 
機長の性格次第らしいのですが、機長とCAが対立してしまうようなこともあるらしい。そんな便に乗ったら、怖いなぁ〜。
内田さんが、飛行機搭乗と新幹線・ジェットコースターを対比しているところも面白い。パイロットともなると、ジェットコースターなどまるで怖くないのだそうです。
巡航飛行中、コックピットで機長が足を投げ出してくつろいでいる様子も目に浮かびますし、食事をめぐるCAとの言い争いには笑ってしまいます。
なお、最後には内田さんが搭乗した機種毎の感想も付け加えられていて、かつて今回はどの機種に乗ったと喜んでいた私にとっては嬉しい部分。しかし、名機と聞かされていたYS−11が、そんなにもパイロットに評判の悪い機とは思いませんでした。

軽いエッセイ本ですが、飛行機好きには興味尽きない一冊。次に登場する際には、是非携えていったら如何でしょうか。

スチュワーデスとパイロットの気になる関係/パイロットが誕生するまで/飛行場のクセと離着陸の難しさ/事故とさまざまな謎について/コクピットのなかでは・・・・/いろいろなお客さん/なぜかグローバルな内輪話/パイロットは本当に破格の待遇か?/パイロットを取り巻く環境/安ければいい?それとも安全は別?/僕の飛行機列伝/新しい航空会社の可能性

   

2.

●「機長からアナウンス 第2便」● 




2002年02月
原書房刊

2005年09月
新潮文庫

(400円+税)

2006/11/18

元パイロット作家による航空エッセイ、第2弾。

前著の新鮮さが薄れてしまうのは、2冊目である故に仕方ないこと。それでもそれなりに楽しめるのは、基本的に航空機好きだからでしょうか。
どんな仕事にも笑い話はつき物ですが、パイロットの仕事となればそこはそれ、危険と紙一重なのかもしれません。だからこそ笑い話だけではすまないのが、本エッセイです。
冒頭の「キャプテン、この便はどこ行きでしたっけ」からまず笑ってしまいます。いかにもありそうです。

キャプテン、この便はどこ行きでしたっけ/とにかく無事に着陸させる/空の世界のグレーゾーン/万全のセキュリティのために/ハイジャックは絶対に防げないのか/こんなサービスもございます/グレートキャプテンたち/ひやりとしたことありますか?/滑走路に始まり滑走路に終わる/メンテナンスは苦労が絶えない/節約にもコツがある/空港はこれからどう変わるべきか/JAL・JAS合併、業界再編、業界タイヘン/文庫版書き下ろし−ミスはどうして起きるのか

 

3.

●「査察機長」● ★★




2005年07月
新潮社刊
(1500円+税)

2008年02月
新潮文庫化

  

2005/08/07

 

amazon.co.jp

国際線パイロットというと今なお花形の職業と言えますが、本書はその国際線機長を主人公にした小説。
機長としての能力を問われる査察飛行、本書は成田から米国JFK空港まで、その査察飛行の一部始終を描いたストーリィです。

主人公となるのは、今回初めて査察を受ける村井知洋。機長に昇格してまだ2年という新人機長です。
初めての査察で緊張しきっているというのに、査察機長として乗り込んでくるのは、冷徹という評判が高く、村井の同期生を機長昇格試験で不合格にしたという氏原政信
そのうえ村井の相方となるのは、教官経験もあるベテラン機長の大隈利夫
元々神経質なところのある村井の性格もあって、冒頭からピリピリした雰囲気が伝わってきます。
でも、村井機長のその心情、サラリーマンなら判るなぁ。
本書はサスペンスでもエンターテイメントでもなく、本質的には極めて地味な作品です。成田空港からJFK空港まで、コックピットに陣取った3人の機長の様子を刻々と描いていくだけなのですから。
B747の運航中コックピットの中で機長たちはどのように過ごしているのかという興味、そして読み手自身が査察を受けているような緊迫感、それが本書の魅力です。

国際線での機内食、私などはそれを楽しみのひとつに感じていますが、この航空会社は健康食と称して食事量を半分にしてしまったというのですから、幾ら何でもと呆れます。
本書では米国のスポーツ選手一団が搭乗していたことから食事量が少ないと騒ぎ出し、その煽りでCA(キャビンアテンダント)も機長3人も食事がカップラーメンになってしまった、というのですから、同情する一方で笑わせられます。食い物の恨みは怖いゾ、というのは私も同感。(笑)
最後、吹雪に見舞われたJFK空港への着陸を村井機長が果敢に決断・実行する場面はとてもスリリング。大丈夫な筈と思っていても思わず手に汗握ります。
無事着陸を果たした時には、ほぉーっと溜め息。まるで自分がフライトを終えた気分です。
緊迫感と臨場感溢れるサラリーマン小説、読み応えあります。

※なお、「機長は後ろ(客室)を見て飛べ」というのが、本書のメッセージ。

  


  

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