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1.君は永遠にそいつらより若い 2.カソウスキの行方 6.ポトスライムの舟 7.八番筋カウンシル 10.とにかくうちに帰ります |
やりたいことは二度寝だけ、ウエストウイング、ダメをみがく、これからお祈りにいきます、ポースケ、エヴリシング・フロウズ、二度寝とは遠くにありて想うもの、この世にたやすい仕事はない、くよくよマネジメント、浮遊霊ブラジル |
まぬけなこよみ、ディス・イズ・ザ・デイ、サキの忘れ物、つまらない住宅地のすべての家、現代生活独習ノート、水車小屋のネネ、うどん陣営の受難、うそコンシェルジュ |
●「君は永遠にそいつらより若い」● ★★ 太宰治賞 |
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主人公のホリガイは、就職が決まったところの大学生。 まもなくバイトも辞め、大学生活もそれなりに終焉になるという落ちついたようで、どこか中途半端な時期。 唯一の心残りであるのかどうか、22歳だというのに未だ処女。本人は「処女」と言わず、「女の童貞」と呼んで欲しい、という。 そんなホリガイの、大学での友人であるオカノ、カバキ(河北)、カバキの恋人=アスミちゃん、吉崎君、死んだ穂峰君、イノギさん、バイト先の同僚である八木さん、ヤスオカ等との関わりが、だらだらと書き綴られていくストーリィ。 大学であろうと、その外であろうと、人と人がいれば何らかの関係がそこに生まれ、喜びもあれば悩むこともあるというのが当然のことと思ってきましたが、本作品の主人公ホリガイは、その当たり前の能力を欠いた人間ではなかったか。 |
●「カソウスキの行方」● ★★☆ |
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2012年01月
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「カソウスキ」って何? 題名を見て、花か何かだろうか?とまず首を傾げることと思うのですが、「仮想+好き」のこと。 主人公は後輩女子社員にしてやられ、郊外の倉庫管理部門に左遷された28歳の独身OL=イリエ。 いずれ閉鎖されることが決まっている倉庫で、社員はイリエ含め3人だけ、あとはパートの女性ばかりという職場。おまけに付近には何もなく、車で15分くらい走ったところに巨大なショッピングセンターがあるだけという、侘しい地域。 何の楽しみ、展望もなく、ふと思いついたことが同僚の独身男=森川を「好きになったと仮想してみること」という次第。
侘しくも可笑しくもある、という主人公の微妙な心境を楽しませてくれるところが絶妙の味わい。 他2篇のうち、「Everyday I Write A Book」も、極めて平凡なOLが主人公。それでも幸せを望めば幸せになれるんだ、というメッセージが伝わってくるようで、温かい気持ちになれる一篇。 「花婿のハムラビ法典」 これも題名からしてどんなストーリィかまるで見当つかない、という一篇ですが、そうかぁ、そういうことか。僅か23頁の小品ですが、落語のような面白さあり。 カソウスキの行方/Everyday I Write A Book/花婿のハムラビ法典 |
●「ミュージック・ブレス・ユー!!」● ★★☆ 野間文芸新人賞 |
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2011年06月
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デビュー作「君は永遠にそいつらより若い」と同系列の作品のようです。 変わると言えば、大学生と高校生の違いぐらいでしょうか。主人公のアザミもその友人たちも、同じように皆カタカナで呼ばれますし、そのアザミもまた長身の女の子。そして、何となく周りで起きている様々な出来事に押し流されて最後の高校生活を送っているようであり、それも「君は永遠に」と共通するところ。 私は基本的に、明るくてメリハリの効いたストーリィが好きなので、こうした小説を続けて読むのはシンドイなぁ、と思いつつ読み進んだ次第。 ところが、読み進むに連れてなんとなく面白くなってくるから不思議。 友人たちが巣立って行く中、アザミは一人今の場所に留まったという風。でもそれは、アザミが何をしたいか、好きな音楽とどこまで付き合うのか、まだ心が定まっていないというだけのこと。 |
●「婚礼、葬礼、その他」● ★★☆ |
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2013年02月
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表題作の「婚礼、葬礼、その他」は、誰でも一生の間幾度かは必然的に関わり合うであろう、冠婚葬祭を題材にした作品。
主人公=ヨシノは屋久島旅行を楽しみにしていたのに、友人の結婚式の案内が舞い込み、しかも祝辞と二次会の幹事を頼まれたために、なくなく旅行をキャンセル。 「冷たい十字路」は、高校生の自転車通学や、小学生の通学、買い物客らが混みあう交差点での、高校生同士の衝突事故を契機に語り上げたストーリィ。 冠婚葬祭、混雑する交差点と、ありふれた題材からこれだけのストーリィを紡ぎ出し、しかも味わいたっぷりという筆さばき、お手並みは見事という他ありません。お薦めしたい一冊です。 婚礼、葬礼、その他/冷たい十字路 |
●「アレグリアとは仕事はできない」● ★★☆ 酒飲み書店員大賞 |
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2013年06月
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ほんの些細な日常の出来事から、誰もが共感を抱くに違いない思いを拾い出してストーリィに組み上げる。この技、本当に津村記久子さんは上手いと思う。
本書もまた、上手い!、上手過ぎる!と声を上げずにはいられない作品。 「地下鉄の叙事詩」は、満員電車に揺られる乗客のストレスを、4人の視点から描いた連作風中篇。 アレグリアとは仕事はできない/地下鉄の叙事詩 |
●「ポトスライムの舟」● ★★☆ 芥川賞 |
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2011年04月
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3回続けて芥川賞候補となり、ようやく芥川賞受賞となったのが「ポトスライムの舟」。 私などに言わせればもっと早くに受賞して当然だと思っていたのですが、受賞作である本作品はというと、これまでの津村作品とはちょっと違うな、という印象。
OLを主人公に、様々な角度からみた会社勤めというものを不条理にもユーモラスにも描いたところに津村作品の魅力があったのですが、本書では描かれる世界はやや幅広い。 一方「十二月の窓辺」は、一連の津村作品らしい、OLを主人公とした作品。 ポトスライムの舟/十二月の窓辺 |
●「八番筋カウンシル」● ★★ |
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2014年04月
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短くて通りの狭い、古ぼけた商店街。空から見るとY字形をしているからと、縁起を担いで名付けられた名前が「八番筋」。 さらにその評議会を気取って曰く、「カウンシル」。 本作品はその古ぼけた商店街を舞台に、そこで育った3人の同級生の、中学時代と現在を語った長篇小説。 偉そうにカウンシルと名乗っても、鮮魚屋を除けばいずこも商売熱心とはいえず、ただ暇に任せて群れているだけ、というのが彼ら商店主たちの実態。 書き下ろし長篇という点に加え、登場人物も多く、そのうえ主人公が男性であるのも初めてとあって、少し戸惑うところもありましたが、地道に自分らしく生きていこうとする3人の姿は、これまでの津村作品と共通するものです。 |
●「ワーカーズ・ダイジェスト WOKERS DIGEST」● ★★ 織田作之助賞 | |
2014年06月
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仕事小説が多いというイメージある津村さん、本書題名はそのものズバリという感じですが、その内容までそのものズバリとは、思いもしませんでした。 今も土木関連のコンサルティング会社に勤務しているという、津村さんならではの作品かもしれません。 同じ“佐藤”という姓、同い年の32歳、そのうえ誕生日まで同じという男女を、各々の職場を背景に並行して描いた小説。 お仕事小説という言葉は最近よく聞きますが、本作品の場合はむしろ“会社員小説”というべきでしょう。 それなりに仕事をこなし、職場ではそれなりの位置にあるものの、先行きにはっきり希望がある訳でなし、恋人がいる訳でなし、どちらかというと厄介なことを押し付けられる方が多い、というのが2人に共通した状況。 おまけに、手掛けていた仕事で、各々クレーマーに巻き込まれてしまった、という具合。 片や、肌のくすみと疲れが抜けなくなったことが気になり、片やハゲとEDが気になる、という状況。 特にこれといったドラマがある訳ではありませんが、32歳という中途半端な状況、仕事・日常生活と何となく進んでいるものの、これでいいのかと思うこと度々。同じ会社員経験者としては、判るなぁ。 2人に共感し、ふと心を通わせるところができる辺りに、本書の面白さ、魅力があります。 「オノウエさんの不在」も同じく会社員小説。会社とは、理不尽なところ、が題材になっています。こちらも同感して余りあり。 ワーカーズ・ダイジェスト/オノウエさんの不在 |
●「まともな家の子供はいない」● ★★ | |
2016年03月
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本書は、津村さんには珍しい家族小説。 親がろくでもないと、子供はどんなにいたたまれない思いをするか、居場所をなくしてしまうか、を描いた2篇。 「まともな家の子供はいない」の主人公は、中3女子のセキコ。 父親は祖父が興した建築事務所を潰し、就職しては失職するパターンを繰り返している。失職中だというのに平然とゲームに興じている父親と同じ家にいたくないと、塾、図書館、友人の家と、外を渡り歩いている。 そのセキコの友人や同級生の親たちも似たり寄ったり、というところが凄い。そのうえ、成績優秀でちゃんとした家の子という印象で近寄りがたかった室田いつみさえも、家にいたくなくて図書館に入り浸っていると知れるのですから。 親が飲んだくれ、生活破綻者故に家族が貧乏で苦労する、というパターンであれば今に始まった話ではないのですが、本書で描かれているのはそれとはちょっと違う。生活に四苦八苦しているというのではないのですから。 また、子供たちがちとませた批評家精神を備えているところもいかにも現代的な特徴です。 一方、良いか悪いかは別にして、子供たちが各々やった塾の宿題を提供し合い、ついに全科目の宿題が揃うという、子供たちが互助精神を発揮する部分、頼もしいと思えます。 いずれにせよ、子供たちの方がまともで、親たちの性懲りないところを嘆く時代になったか、という点が一抹ショック。 「サバイブ」は、上記に登場した室田いつみと、その母親の不倫相手の娘である大学生=片山沙和子を、代わる代わる主人公にして語らせたストーリィ。 子供はいろいろ経験して大人になるものですけれど、性懲りもない親というのは子供にさえ劣る、そんな親の子供である故に暗澹たる気持ちになる、という一篇です。 大人は、親なら特に、シャン!としないと。 まともな家の子供はいない/サバイブ |
●「とにかくうちに帰ります」● ★★☆ | |
2015年10月
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とにかく面白い、抜群の面白さ!と言っていい。 会社を題材にした作品の多い津村さんですが、その中でも本書は身近な面白さという点で絶品です。 昨今“お仕事小説”が増えていますが、津村記久子作品については“職場小説”というのが相応しい。その中でも本書は「アレグリアとは仕事はできない」と並んで逸品! 「職場の作法」の4篇と「バリローチェのファン・カルロス・モリーナ」は、ごく普通の女性社員=鳥飼早智子が主人公。 いやはや職場とはいろいろな人、中にはヘンな癖のある人、性懲りもない人等がいるものです。傍から見ているだけなら楽しめますが、巻き込まれてしまったらさぁ大変。 「職場の作法」4篇はそんな癖持つ社員たちを描いた短篇。会社勤めをしている人ならきっと、ワォッ!いるいる、こんな人、と思わず喜んでしまうこと請け合いです。 「バリローチェのファン・カルロス・モリーナ」は、上記の場外篇とも言うべき、笑えない、笑い話。 「とにかくうちに帰ります」は大雨の夜、会社を出たもののバスは運行乱れたうえに満員、歩道は封鎖、迂回したところ大雨でずぶ濡れ。そんな状況下で「とにかくうちに帰りたい」と歩き続ける会社員3人+αの奮闘を描いた中篇。 判るんだなぁ、何としてもうちに帰りたいというその気持ち。 1年前3.11の会社から徒歩での帰宅経験がまだ忘れられないだけに、とてもリアル。 どの篇をとっても、すぐそこにあるような身近な出来事、いつ自分の身に起こっても何ら不思議ない出来事ばかりです。だからこそ、面白い。 老若男女問わず、サラリーマン経験ある方にはお薦めの逸品! 職場の作法(ブラックボックス/ハラスメント、ネグレクト/ブラックホール/小規模なパンデミック)/バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ/とにかくうちに帰ります |
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