津村記久子作品のページ No.1


1978年大阪府大阪市生、大谷大学文学部国際文化学科卒。2005年「マンイーター」(単行本時「君は永遠にそいつらより若い」へ改題)にて第21回太宰治賞を受賞し作家デビュー。08年「ミュージック・ブレス・ユー!!」にて第30回野間文芸新人賞、09年「ポトスライムの舟」にて 第140回芥川賞、11年「ワーカーズ・ダイジェスト」にて織田作之助賞、13年「給水塔と亀」にて第39回川端康成文学賞、16年「この世にたやすい仕事はない」にて芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。2012年06月長年勤務していた土木関係のコンサルティング会社を退職し、作家専業。


1.君は永遠にそいつらより若い

2.カソウスキの行方

3.ミュージック・ブレス・ユー!!

4.婚礼、葬礼、その他

5.アレグリアとは仕事はできない

6.ポトスライムの舟

7.八番筋カウンシル

8.ワーカーズ・ダイジェスト

9.まともな家の子供はいない

10.とにかくうちに帰ります


やりたいことは二度寝だけ、ウエストウイング、ダメをみがく、これからお祈りにいきます、ポースケ、エヴリシング・フロウズ、二度寝とは遠くにありて想うもの、この世にたやすい仕事はない、くよくよマネジメント、浮遊霊ブラジル

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まぬけなこよみ、ディス・イズ・ザ・デイ

 → 津村記久子作品のページ No.3

 


   

1.

●「君は永遠にそいつらより若い」● ★★       太宰治賞


君は永遠にそいつらより若い画像

2005年11月
筑摩書房刊
(1400円+税)



2008/11/30



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主人公のホリガイは、就職が決まったところの大学生。
まもなくバイトも辞め、大学生活もそれなりに終焉になるという落ちついたようで、どこか中途半端な時期。
唯一の心残りであるのかどうか、22歳だというのに未だ処女。本人は「処女」と言わず、「女の童貞」と呼んで欲しい、という。

そんなホリガイの、大学での友人であるオカノ、カバキ(河北)、カバキの恋人=アスミちゃん、吉崎君、死んだ穂峰君、イノギさん、バイト先の同僚である八木さん、ヤスオカ等との関わりが、だらだらと書き綴られていくストーリィ。
主人公は大学生活を送ってきた中で、彼らとの間にどんな関係、繋がりを築いてきたのか、あるいはこなかったのか。
結局表面的に付き合ってきただけで、彼女はどの相手とも踏み込んだ関係を築いてこなかったのではないか。
未だ処女というのは、恋愛経験有無ではなく、誰とも踏み込んだ関係を築いてこなかったこと、誰かと真剣に向かい合うということがなかったことの象徴のように感じます。

大学であろうと、その外であろうと、人と人がいれば何らかの関係がそこに生まれ、喜びもあれば悩むこともあるというのが当然のことと思ってきましたが、本作品の主人公ホリガイは、その当たり前の能力を欠いた人間ではなかったか。
だからこそなのか、彼女は友人らの心の痛みを感じ取ることができず、人としての成長も遂げていないのではないか。
もしかすると、こうした若者が少しずつ増えているのかもしれない、そのことに大きな懸念を抱きます。
最後、おそらく彼女は初めて人に対して真剣に対峙しようとしているのでしょう。
そのことにホッとしますが、もしそうならなかったらという不安感をそこに残しているところが、本作品の忘れ難い読後感。

   

2.

●「カソウスキの行方」● ★★☆


カソウスキの行方画像

2008年02月
講談社刊
(1400円+税)

2012年01月
講談社文庫化



2008/09/12



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「カソウスキ」って何? 
題名を見て、花か何かだろうか?とまず首を傾げることと思うのですが、「仮想+好き」のこと。
主人公は後輩女子社員にしてやられ、郊外の倉庫管理部門に左遷された28歳の独身OL=イリエ
いずれ閉鎖されることが決まっている倉庫で、社員はイリエ含め3人だけ、あとはパートの女性ばかりという職場。おまけに付近には何もなく、車で15分くらい走ったところに巨大なショッピングセンターがあるだけという、侘しい地域。
何の楽しみ、展望もなく、ふと思いついたことが同僚の独身男=森川「好きになったと仮想してみること」という次第。

侘しくも可笑しくもある、という主人公の微妙な心境を楽しませてくれるところが絶妙の味わい。
普通のOLがそんな部署へ左遷になったらきっと辞めているだろうと思うのですが、それなのに残った主人公の心境は如何。
そこにまた会社側の本気とも巧妙な騙しとでもいえる言葉があるのですが、それは本書を読んでのお楽しみ。
平凡なOL生活の中に、先行きへの展望の薄さ、侘しさ、可笑しさを交えて独特の味わいを醸し出している、そこが津村さんの持ち味と言えます。
小説作品としては短いものですが、味わいは濃いのです。

他2篇のうち、「Everyday I Write A Book」も、極めて平凡なOLが主人公。それでも幸せを望めば幸せになれるんだ、というメッセージが伝わってくるようで、温かい気持ちになれる一篇。

「花婿のハムラビ法典」 これも題名からしてどんなストーリィかまるで見当つかない、という一篇ですが、そうかぁ、そういうことか。僅か23頁の小品ですが、落語のような面白さあり。

カソウスキの行方/Everyday I Write A Book/花婿のハムラビ法典

     

3.

●「ミュージック・ブレス・ユー!!」● ★★☆     野間文芸新人賞


ミュージック・ブレス・ユー画像

2008年06月
角川書店刊
(1500円+税)

2011年06月
角川文庫化



2008/12/03



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デビュー作君は永遠にそいつらより若いと同系列の作品のようです。
変わると言えば、大学生と高校生の違いぐらいでしょうか。主人公のアザミもその友人たちも、同じように皆カタカナで呼ばれますし、そのアザミもまた長身の女の子。そして、何となく周りで起きている様々な出来事に押し流されて最後の高校生活を送っているようであり、それも「君は永遠に」と共通するところ。
私は基本的に、明るくてメリハリの効いたストーリィが好きなので、こうした小説を続けて読むのはシンドイなぁ、と思いつつ読み進んだ次第。

ところが、読み進むに連れてなんとなく面白くなってくるから不思議。
主人公のアザミは、バンド音楽が好きで自身もベース弾きだったが、冒頭でバンドが解散。
高校3年生ともなれば受験勉強に励まねばならない時期なのですが、ぐだぐだと毎日を過ごしている。
そして友人たち、親友のチユキ、歯列矯正器仲間のモチヅキ、同じように音楽狂いのトノムラ、いい人なんだなぁとアザミが思うナツメさん、等々。
一見、彼らははっきりとした目的も楽しみも持たないまま、ただ漫然と最後の高校一年を過ごしてるように感じられます。
でも、彼らは決して「君は永遠に」のホリガイとは違う。それなりに繋がり合い、とくにチユキとアザミは、礼儀知らずのことを平気でする人間への怒りをちゃんと持っている。
自分ではなく他人が受けたことについてこそ怒り、またその表し方が突拍子もないところに、彼女たちの面白さがあるのですが。

友人たちが巣立って行く中、アザミは一人今の場所に留まったという風。でもそれは、アザミが何をしたいか、好きな音楽とどこまで付き合うのか、まだ心が定まっていないというだけのこと。
アザミも友人たちもグダグダしているように見えて、実は羽ばたく時を待っていただけのことと判ります。
だからこそ、そんなぐだぐだしていた時期が愛おしい。
アザミら今の高校生たち、なかなか捨てたものではない、と思えるところが嬉しい。
彼らの立ち去った後が輝いてみえる、本書はそんな新風を感じる青春小説。

     

4.

●「婚礼、葬礼、その他」● ★★☆


婚礼、儀礼、その他画像

2008年07月
文芸春秋刊
(1200円+税)

2013年02月
文春文庫化



2008/08/24



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表題作の「婚礼、葬礼、その他」は、誰でも一生の間幾度かは必然的に関わり合うであろう、冠婚葬祭を題材にした作品。

主人公=ヨシノは屋久島旅行を楽しみにしていたのに、友人の結婚式の案内が舞い込み、しかも祝辞と二次会の幹事を頼まれたために、なくなく旅行をキャンセル。
ところが披露宴の始まる直前、会社から上司の父親が死んで今日通夜だと連絡が入る。ヨシノは泣く泣く披露宴出席を諦め、しかも腹を空かせたまま葬儀の手伝いに向かう。
祝うべき友人の結婚式と、所詮仕事上の義理でしかない通夜が同じ日に重なるというハプニング。他人事ではないですよねぇ、ヨシノの苦衷、よく判ります。
 「葬式>姑の体調不良>結婚披露宴」というヨシノの諦観、つい共感してしまいます。
婚礼と葬儀、一見正反対のことのようですが、読んでいくと、結婚式も葬儀も所詮義理上のこと、どちらも大して変わるものではないと思えてくるところが面白い。
それでも友人の結婚には祝う気持ちを籠めることができるし、一方会ったこともない人の冥福を義理から祈る葬儀からは滑稽さが浮かび上がってくる。
その中で、ひょんなことから遺族の一人である女子高校生と気持ちを通じ合ってしまう場面が秀逸。
葬儀の手伝いをしようとしつつ背にしてきた披露宴・二次会の様子を心配して板ばさみ、そんなヨシノの揺れる心の内を巧みに描き出しているところが実に上手い。この辺りの津村さんの筆さばき、惚れ惚れする程です。

「冷たい十字路」は、高校生の自転車通学や、小学生の通学、買い物客らが混みあう交差点での、高校生同士の衝突事故を契機に語り上げたストーリィ。
OL、小学校の女性教諭、スーパーのパート女性、小学生の女の子、女子高校生と、いろいろな人の目から事故について語らせると同時に、彼女たちが抱えている様々な思いをくっきりと描き出しているところが秀逸。

冠婚葬祭、混雑する交差点と、ありふれた題材からこれだけのストーリィを紡ぎ出し、しかも味わいたっぷりという筆さばき、お手並みは見事という他ありません。お薦めしたい一冊です。

婚礼、葬礼、その他/冷たい十字路

     

5.

●「アレグリアとは仕事はできない」● ★★☆


アレグリアとは仕事はできない画像

2008年12月
筑摩書房刊
(1400円+税)

2013年06月
ちくま文庫化



2009/01/03



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ほんの些細な日常の出来事から、誰もが共感を抱くに違いない思いを拾い出してストーリィに組み上げる。この技、本当に津村記久子さんは上手いと思う。

本書もまた、上手い!、上手過ぎる!と声を上げずにはいられない作品。
「アレグリアとは仕事はできない」は、きちんと動かない新型複合機(コピー+プリンター+スキャナー)に、苛立ちを募らせるOLを主人公とする中篇小説。
OL=ミノベ対複合機=アレグリア。まさに人間と機械の対決ストーリィですが、そこはそれ、アレグリアが不調なのは人為的原因によるものであり、SFストーリィには決してならない。
今や、オフィスには当然の如く鎮座することとなった複合機。機能が高度化かつ複雑化するに連れ、使う人間が頭を悩ますことも多くなった。その弊害を集中的に受けることになったのが、オフィスで末端にいる女子社員、というのは一般的な姿だろうと思います。
本ストーリィは誇張ですが、出来て当然と思われ、でも使うに難しくて頭を悩ませているOL心理を、ユーモラスであると同時に深刻に描いている手腕はやはり只者ではありません。
津村さん、今年も目を離せない、注目に値する作家です。

「地下鉄の叙事詩」は、満員電車に揺られる乗客のストレスを、4人の視点から描いた連作風中篇。
各章で主人公とされるのは、大学生のイチカワ、会社員のニノミヤ、OLのミカミ、女子高生のシノハラ
地味でごくありきたりな満員電車風景を描いたストーリィなのですが、これまた噛めば噛む程味が滲み出てくる作品。
通勤電車の中、窮屈で窒息するような気分を味わっていると、他の乗客のマナー違反に腹立ち、ついつい妄想を繰り広げてしまうのは私だけではないと思います。
そんな胸の内を絶妙な手練で描き出して見せるところ、津村さんは実に上手い。
私はいつも電車内で読書に励んでいる所為か、周りを意識すること少ない方だと思いますが、何もしていないと腹立つこと多いんだろうなぁ。

アレグリアとは仕事はできない/地下鉄の叙事詩

    

6.

●「ポトスライムの舟」● ★★☆       芥川賞


ポトスライムの舟画像

2009年02月
講談社刊
(1300円+税)

2011年04月
講談社文庫化



2009/02/28



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3回続けて芥川賞候補となり、ようやく芥川賞受賞となったのが「ポトスライムの舟」
私などに言わせればもっと早くに受賞して当然だと思っていたのですが、受賞作である本作品はというと、これまでの津村作品とはちょっと違うな、という印象。

OLを主人公に、様々な角度からみた会社勤めというものを不条理にもユーモラスにも描いたところに津村作品の魅力があったのですが、本書では描かれる世界はやや幅広い。
主人公のナガセは29歳、独身で工場勤めの契約社員、古い一軒屋に母親と2人で暮らしている。そのナガセと学生時代からの友人3人の生活の様子が描かれます。
薄給のナガセは元より、一人を除いて友人2人、そして母親の生活はとても慎ましい。でも不満など洩らすことなく、ささやかな夢を持って地道に生きている。彼女たちの姿は、専業主婦になって不自由ない暮らしをしているのに愚痴ばかりこぼしている友人=そよ乃とは対照的。
自分の足許をしっかり見つめて自分の背丈にあった生活を堅実に歩んでいる彼女たちの姿は、とかく金銭的尺度で全てを考える傾向のある現代社会に照らしてとても好ましく感じられます。その点が本作品の魅力であり、芥川賞のお眼鏡に適った良さであろうと思います。

一方「十二月の窓辺」は、一連の津村作品らしい、OLを主人公とした作品。
古株の女性係長にことごとく面罵され、仕事面に留まらず自分という人間の存在に自信を失っていく新人OL=ツガワの姿が描かれます。
ある意味、上記「ポトスライムの舟」より余っ程はまり込んでしまうストーリィ。
実際に以前、勤務先で私の上司が追い込まれた状況と似ているところがあります。面罵する方は鍛えているというつもりかもしれませんが、相手の心理状況を思いやらないと悪戯に追い詰めるだけ、と思います。

ポトスライムの舟/十二月の窓辺

  

7.

●「八番筋カウンシル」● ★★


八番筋カウンシル画像

2009年02月
朝日新聞出版
(1400円+税)

2014年04月
朝日文庫化



2009/03/13



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短くて通りの狭い、古ぼけた商店街。空から見るとY字形をしているからと、縁起を担いで名付けられた名前が「八番筋」
さらにその評議会を気取って曰く、「カウンシル」
本作品はその古ぼけた商店街を舞台に、そこで育った3人の同級生の、中学時代と現在を語った長篇小説。

偉そうにカウンシルと名乗っても、鮮魚屋を除けばいずこも商売熱心とはいえず、ただ暇に任せて群れているだけ、というのが彼ら商店主たちの実態。
当時から母子家庭という共通点で繋がっていた、タケヤス、ホカリ、ヨシズミという同級生3人の現在と中学時代、そして箸にも棒にもかからない風の商店主たちという3つの姿が、対照的に語られていくストーリィ。
今はろくでもない商店主ばかり大きな顔をしてのさばっていますが、彼ら3人が子供だった頃は、商店街の人たちによって温かく見守られていたという面もあったのです。
社会に出て一旦躓いた思いを抱えた彼らが、30歳前後になって同じようにこの商店街に戻ってきたというところが象徴的。
この商店街を踏み台に高校〜社会へと出て行ったように、再出発しようとする現在もまたこの商店街が踏み台となるのでしょう。

書き下ろし長篇という点に加え、登場人物も多く、そのうえ主人公が男性であるのも初めてとあって、少し戸惑うところもありましたが、地道に自分らしく生きていこうとする3人の姿は、これまでの津村作品と共通するものです。
「八番筋」には良いところも悪いところもありますが、それを抜きにして彼らの現在もない。
育った町に足で砂かけることなく、地道に自分らしい生き方を探していこうとする彼ら3人は、これまでの津村作品の主人公から一歩前に足を踏み出した姿と感じられます。
これまでの作品のような印象度の強さはありませんが、主人公が複数になっている分、味わいは広い。好きだなぁ。

              

8.

●「ワーカーズ・ダイジェスト WOKERS DIGEST」● ★★    織田作之助賞


ワーカーズ・ダイジェスト画像

2011年03月
集英社刊
(1200円+税)

2014年06月
集英社文庫化



2011/04/25



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仕事小説が多いというイメージある津村さん、本書題名はそのものズバリという感じですが、その内容までそのものズバリとは、思いもしませんでした。
今も土木関連のコンサルティング会社に勤務しているという、津村さんならではの作品かもしれません。

同じ“佐藤”という姓、同い年の32歳、そのうえ誕生日まで同じという男女を、各々の職場を背景に並行して描いた小説。
お仕事小説という言葉は最近よく聞きますが、本作品の場合はむしろ“会社員小説”というべきでしょう。
 
それなりに仕事をこなし、職場ではそれなりの位置にあるものの、先行きにはっきり希望がある訳でなし、恋人がいる訳でなし、どちらかというと厄介なことを押し付けられる方が多い、というのが2人に共通した状況。
おまけに、手掛けていた仕事で、各々クレーマーに巻き込まれてしまった、という具合。
片や、肌のくすみと疲れが抜けなくなったことが気になり、片やハゲとEDが気になる、という状況。
特にこれといったドラマがある訳ではありませんが、32歳という中途半端な状況、仕事・日常生活と何となく進んでいるものの、これでいいのかと思うこと度々。同じ会社員経験者としては、判るなぁ。
2人に共感し、ふと心を通わせるところができる辺りに、本書の面白さ、魅力があります。

「オノウエさんの不在」も同じく会社員小説。会社とは、理不尽なところ、が題材になっています。こちらも同感して余りあり。
 
ワーカーズ・ダイジェスト/オノウエさんの不在

                    

9.

●「まともな家の子供はいない」● ★★


まともな家の子供はいない画像

2011年08月
筑摩書房刊
(1500円+税)

2016年03月
ちくま文庫化



2011/09/04



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本書は、津村さんには珍しい家族小説。
親がろくでもないと、子供はどんなにいたたまれない思いをするか、居場所をなくしてしまうか、を描いた2篇。

「まともな家の子供はいない」の主人公は、中3女子のセキコ
父親は祖父が興した建築事務所を潰し、就職しては失職するパターンを繰り返している。失職中だというのに平然とゲームに興じている父親と同じ家にいたくないと、塾、図書館、友人の家と、外を渡り歩いている。
そのセキコの友人や同級生の親たちも似たり寄ったり、というところが凄い。そのうえ、成績優秀でちゃんとした家の子という印象で近寄りがたかった
室田いつみさえも、家にいたくなくて図書館に入り浸っていると知れるのですから。

親が飲んだくれ、生活破綻者故に家族が貧乏で苦労する、というパターンであれば今に始まった話ではないのですが、本書で描かれているのはそれとはちょっと違う。生活に四苦八苦しているというのではないのですから。
また、子供たちがちとませた批評家精神を備えているところもいかにも現代的な特徴です。
一方、良いか悪いかは別にして、子供たちが各々やった塾の宿題を提供し合い、ついに全科目の宿題が揃うという、子供たちが互助精神を発揮する部分、頼もしいと思えます。
いずれにせよ、子供たちの方がまともで、親たちの性懲りないところを嘆く時代になったか、という点が一抹ショック。

「サバイブ」は、上記に登場した室田いつみと、その母親の不倫相手の娘である大学生=片山沙和子を、代わる代わる主人公にして語らせたストーリィ。
子供はいろいろ経験して大人になるものですけれど、性懲りもない親というのは子供にさえ劣る、そんな親の子供である故に暗澹たる気持ちになる、という一篇です。
大人は、親なら特に、シャン!としないと。


まともな家の子供はいない/サバイブ

         

10.

●「とにかくうちに帰ります」● ★★☆


とにかくうちに帰ります画像

2012年02月
新潮社刊
(1300円+税)

2015年10月
新潮文庫化



2012/03/14



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とにかく面白い、抜群の面白さ!と言っていい。
会社を題材にした作品の多い津村さんですが、その中でも本書は身近な面白さという点で絶品です。
昨今“お仕事小説”が増えていますが、津村記久子作品については
“職場小説”というのが相応しい。その中でも本書はアレグリアとは仕事はできないと並んで逸品!

「職場の作法」の4篇と「バリローチェのファン・カルロス・モリーナ」は、ごく普通の女性社員=
鳥飼早智子が主人公。
いやはや職場とはいろいろな人、中にはヘンな癖のある人、性懲りもない人等がいるものです。傍から見ているだけなら楽しめますが、巻き込まれてしまったらさぁ大変。
「職場の作法」4篇はそんな癖持つ社員たちを描いた短篇。会社勤めをしている人ならきっと、ワォッ!いるいる、こんな人、と思わず喜んでしまうこと請け合いです。
「バリローチェのファン・カルロス・モリーナ」は、上記の場外篇とも言うべき、笑えない、笑い話。

「とにかくうちに帰ります」は大雨の夜、会社を出たもののバスは運行乱れたうえに満員、歩道は封鎖、迂回したところ大雨でずぶ濡れ。そんな状況下で「とにかくうちに帰りたい」と歩き続ける会社員3人+αの奮闘を描いた中篇。
判るんだなぁ、何としてもうちに帰りたいというその気持ち。
1年前3.11の会社から徒歩での帰宅経験がまだ忘れられないだけに、とてもリアル。

どの篇をとっても、すぐそこにあるような身近な出来事、いつ自分の身に起こっても何ら不思議ない出来事ばかりです。だからこそ、面白い。
老若男女問わず、サラリーマン経験ある方にはお薦めの逸品!

職場の作法(ブラックボックス/ハラスメント、ネグレクト/ブラックホール/小規模なパンデミック)/バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ/とにかくうちに帰ります

       

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