徳永 圭作
作品のページ


1982年愛知県生、京都大学総合人間学部卒。メーカー等勤務を経て、2011年初めて書いた長篇小説「をとめ模様、スパイ日和」にて第12回ボイルドエッグズ新人賞を受賞し作家デビュー。


1.
片桐酒店の副業

2.
その名もエスペランサ

   


     

1.

「片桐酒店の副業」● ★★


片桐酒店の副業画像

2012年06月
新潮社刊

(1600円+税)

  

2012/07/15

  

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「法に触れない限り、何でもお届けします」という配達業が、鄙びた酒店の副業。通常の宅配便に依頼しない荷物故、そこは訳有りの荷物ばかりという次第。
人気絶頂の女性アイドルタレントへのファンからの差入れ、幼い男の子からビヨウインにいるママへの届け物、会社で邪魔者扱いされている中年女性社員から上司への“悪意”、思い出の壺を沖縄の海へ、そしてもうひとつ・・・・。
従業員はというと、会社を辞職して稼業を継いだもののスーツを手放せず、配達もスーツ姿で回る気難しい表情の店主=
片桐章。店番のおばさん=フサエ、そして大学生バイトの丸川拓也

そう聞くと、てっきり連作ものと思うのですが、各々の篇はまとまりを欠き、解決も特にないまま。どこに本作品の狙いがあるのかと考え続けたところ、漸く共通点が見いだせました。
それは、“リセット”。
振り返れば後悔すること、沢山あり。リセットしたいという思いも生じます。しかし、それは不可能なこと。だからこそ、次をどう選択するかが大事。そう気が付くと、本作品が連作短篇ではなくあくまで長篇小説であるという、その姿が見えてきます。
主人公の片桐章もまた、リセットしたいという思いを解決できずそのまま立ちすくんでしまっている人間であると。彼がスーツを脱げない理由もそこに見えてきます。
そして、7年後の私に手紙を届けてと片桐に頼んだ女子中学生。彼女もまた片桐とシンクロする存在です。だからこそ彼女のため、片桐は一生懸命にならざるを得ない。
エピローグ、ようやく片桐は次の段階に向かって一歩を踏み出します。
本作品が描き出しているのは、判り難いながら、誰もに共通するテーマなのです。

プロローグ/1.短期バイトの憂鬱/2.電車のような宇宙船のような何か/3.悪意/4.海と傷跡/5.朝の訪問者/エピローグ

      

2.

「その名もエスペランサ PROJECT:ESPERANZA ★★


その名もエスペランサ画像

2014年03月
新潮社刊

(1700円+税)

  

2014/04/22

  

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最近増えている、お仕事小説。ただし、これまでは正社員というケースが殆どだったと思いますが、本書主人公は“派遣のプロ”を目指す派遣社員=本郷苑子(えんこ)、29歳。

前の職場で四面楚歌にされ、心身を損なって休養中の苑子に、派遣会社から是非にと依頼がかかります。仕事の内容は英文事務ということでしたが、派遣先の自動車部品製造会社に出勤したところ、のっけから作業服を渡され工場の現場へ。
話が違うと蹴っ飛ばしてもいい処ですが、そこは不器用で意地っ張りなところのある苑子、命じられるままに奮闘を始めます。
そんな苑子を指導するのは、金髪で腰落としズボンのチャラ男=
作田
さて“派遣のプロ”を目指す苑子、この鈴並工業の中でどう身を処していくのか?というストーリィ。

派遣社員という立場まで掘り下げ、改めて仕事とは?を考えようとしたところが新鮮。
究極には、正社員とか派遣社員とかいった区別に関係なく、どこまで仕事に責任と情熱をもって取り組むか、ただ正論を唱えているだけではダメ、という姿勢が凛としてあるところが爽快。
結構耳の痛いところもありますが。(苦笑)

     


  

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