谷崎由依
(ゆい)作品のページ


1978年福井県福井市生、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。2007年「舞い落ちる村」にて 第104回文学界新人賞、19年「鏡のなかのアジア」にて第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。


1.舞い落ちる村

2.鏡のなかのアジア

3.遠の眠りの

 


   

1.

「舞い落ちる村」 ★☆       文学界新人賞


舞い落ちる村

2009年02月
文芸春秋刊

(1333円+税)



2009/03/02
2009/03/14



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「舞い落ちる村」は、家族関係と村の住民関係がダブリ、姉妹の順序や関係もはっきりせず、まして夫婦となっても集団婚に近いような不思議な村の出身である女性が、大学に進んで町の生活と村の生活を行き来し、対比するというストーリィ。
率直に言って、何を伝えようとしているのか、判らず。
地理的距離よりも、時間的、風習的距離の方が遥かに大きい、という村と都会の距離感が面白いと言えば面白いのですが。
出版社サイトの紹介文では、比喩や文章のリズムが高く評価されているようなのですが、私には感じ取れず。
もしかして、読み急いでしまったことがまずかったのか。

「冬待ち」は、さらに言葉の洗練を推し進めた作品とのこと。
大学院生の糸乃と、大学図書館で司書として働いている慧子という女性とのやり取りが中心。
シチュエーションとしては「舞い落ちる村」よりやや畳み掛ける文章である等々、判り易いのですが、余韻という点では「舞い落ちる村」に及ばないように感じます。

舞い落ちる村/冬待ち

(09.03.14)
我ながら納得いかなかったので、再読。
今度はだいたいのストーリィが判っていましたので、言葉が必要でない村と、意味の有無を問わずに言葉を振り撒く都会という存在の対比が面白く感じられました。
主人公の“いち子”は大学へ進学することによってその間で戸惑うこととなり、親友となった朔との関係は、そのまま村と都会の違いを象徴するかのようです。
ストーリィを描くというより、ぶっきらぼうな調子でリズムカルに語っていく、それもまた本書の妙味。

               

2.
「鏡のなかのアジア ★★     芸術選奨文部科学大臣新人賞


鏡のなかのアジア

2018年07月
集英社刊

(1600円+税)



2018/07/30



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アジア各地を舞台にして描く、幻想的かつ蠱惑的な短篇集。

本短篇集が纏うエキゾティズム、まさにアジア、という雰囲気です。
でも、それが現実のアジアかというと、それは違うという気配があります。
幻想的というより、何とも言えない浮揚感、非現実であるのにあたかも現実であるかのような肌触りに魅入らせられてしまう感じがあります。

「・・・そしてまた文学を記していると-チベット」:岩山に立つチベットの僧院が舞台。経典を写し続ける少年僧の前に現れたのは・・・。
「Jiufenの村は九つぶん-台湾、九份」:ある集落にある9つの家、その様々な生態と言ったらよいか・・・。
「国際友誼-日本、京都」:舞台は日本。日本の学生、海外留学生たちの視点を交錯するように描いています。
「船は来ない-インド、コーラン」:掌篇。
「天蓋歩行-マレーシア、クアラルンプールほか」:かつては巨大な樹木、今は屋敷の下男となっている男の、時空を超えた不思議な遍歴譚。

・・・・・そしてまた文学を記していると-チベット/Jiufenの村は九つぶん-台湾、九份/国際友誼-日本、京都/船は来ない-インド、コーラン/天蓋歩行-マレーシア、クアラルンプールほか

                

3.
「遠の眠りの ★★


遠の眠りの

2019年12月
集英社

(1800円+税)



2020/01/09



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大正末期から昭和初頭の時代、貧しい農家の次女として生まれた西野絵子は、本を読みたい余りに父親へ口ごたえしたことから家を追い出され、人造絹糸製造工場の住み込み女工に、そして新しく開業したえびす屋百貨店に設けられる少女歌劇団の<お話係>として雇われます。

貧しい実家では嫡男である弟ばかりが大事にされ、娘は「嫁入り」という形で追い出され、婚家で新たな労働力にされるだけ。
それは女工となって金銭を稼ぐようになっても同じこと。工場経営者から結局は労働力を搾取されているだけ。
ようやくえびす屋百貨店で夢に少し近づけたものの、戦争の勃発により統制が強化され、女性の自立など結局は望むべくもない。

女工時代に知り合った
吉田朝子のように、思想として女性の権利を主張し、労働争議にまで引き起こすようなところまで絵子が行くことはありませんが、こんな世の中はオカシイのではないか、女性は虐げられているだけなのではないかという感覚を研ぎ澄ませていきます。

「遠の眠りの」という題名は、女性たちの意識がずっと永く目覚めずにいること、でもいつかきっと目覚めるときが来るであろうことを暗示するものではないかと思います。
主人公の絵子、幼友達の
杉浦まい子、女工仲間だった朝子らは、早く目覚めた女性像なのでしょう。

短い間の夢のひと時だったのかもしれませんが、少年ながらキヨという少女名前で少女歌劇団に加わり人気を博していた清次郎と絵子との邂逅が、互いに孤独な2つの魂の出会いのようで、印象に残ります。

    


   

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