谷口桂子作品のページ


1961年三重県四日市市生、東京外国語大学外国語学部イタリア語学科卒。小説、エッセイ、人物ルポ、俳句を雑誌に発表。

 
1.ケンカこでまり

2.一寸先は光

 


   

1.

●「ケンカこでまり」● ★☆

 
ケンカこでまり画像
 
2007年09月
集英社刊

(1900円+税)

 

2007/09/30

 

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一匹狼の俳人でインタビュー記事やルポをこなす石井こでまり、37歳。誰にでも構わず噛み付くところから、付いた仇名が“ケンカこでまり”
そのこでまりに、長い歴史をもつ山谷の句会への潜入ルポという仕事が持ちかけられます。そこため実際に山谷で暮らし始めたこでまりは、外部では想像もつかない山谷の暮らし、山谷の人々の姿があるのを知る。
そして、山谷から消えた幻の“プリンセス俳人“のこと。彼女と自分の間に似たものがあること、そして亡き恋人・祥一郎と何か関わりがあることを感じ、こでまりはプリンセスの過去、行方を追い求め始めます。

本書中に披露される俳句の数々、それとストーリィのどちらが先に来るものなのか。
過去を捨て山谷の町に流れ来て、身元不明のまま死んでいきたいという、そこで暮らす人々の究極の願い。
そうした山谷という特殊な町の姿、そこに暮らす人々の哀しみを描くという要素をまず別にして、本作品は俳句がまずあってのストーリィ、と考えていいのではないかと思います。そう考える方が本作品の個性をよく味わえる気がする。

こでまりがプリンセスを追っていく過程で、2人が共通して抱える罪悪感、大事な人を失うという悔い、空洞感、そして今なお癒えない憤怒のくすぶりが浮かび上がっていきます。
2人の女性の哀しみは読み応えあるものの、その原因となった男性の行動に現実感が乏しいため、全体を通してもうひとつ納得感が持てない。
なお、ひとつひとつの細部、幾つかの俳句は、胸に残ります。

山谷のプリンセス俳人/蛇の女/逢魔が祭/サウダーデ

     

2.

●「一寸先は光」● ★☆

 
一寸先は光画像
 
2011年08月
講談社刊

(1700円+税)

  
2011/10/03

  
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現代社会における孤独死を題材にした小説。
 
浜野ミサキ39歳、長く務めた旅行会社から突然派遣切りに遭い、頼ろうとした10年来の恋人に振られ、家賃滞納して部屋も追い出されて居場所を失ったところを、友人の西村喜久江に拾ってもらう。
そして2ヵ月、離婚した後に遺品整理会社を立ち上げた喜久江の会社で、今は見習い中の身。
そんなミサキが整理の仕事で行き当たったのは、かつては女性起業家として話題になったものの、たった一人49歳で孤独死した
矢沢麻利子
母が死んで実兄ともすっかり疎遠になったミサキ、矢沢麻利子の孤独死は他人事でなく、自分の将来の姿かもしれない。そんな思いから、麻利子の死を悼む人はいないかと探し始めます。

本作品は、自分にすっかり自信を失ったミサキが、矢沢麻利子の人生を追う中で、再び希望を取り戻す過程を描いたストーリィです。
ミサキと矢沢麻利子に違いはあるのか、違いがあるとしたらそれは何なのか、それが本ストーリィのミソです。

        


   

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