玉岡かおる作品のページ


1956年兵庫県生、神戸女学院大学文学部卒。87年「夢食い魚のブルー・グッドバイ」にて神戸文学賞を受賞し作家デビュー。2009年「お家さん」にて織田作之助賞、22年「帆神」にて第41回新田次郎文学賞を受賞。


1.天平の女帝 孝謙称徳

2.帆神

 


           

1.
「天平の女帝 孝謙称徳 ★★


天平の女帝

2015年11月
新潮社
(1800円+税)

2018年06月
新潮文庫



2015/12/22



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玉岡かおる作品、機会をみて読んでみようとずっと思っていたところで、奈良京・天平時代を描く歴史小説の新刊。
当時の帝の状況なども殆ど知らずということで、飛びつくような気持で本書に手が出ました。
孝謙天皇、称徳天皇として2度に亘り帝位に就いた女帝の死後、近侍した女官の和気広虫(わけのひろむし)の視点から、見定めるようにして、一人の女性、或いは一人の人間としての女帝の姿を描き出そうとした意欲作。

冒頭のプロローグ、死の床にある女帝が残り僅かとなった己の命を振り絞るようにして何かをし残そうとする場面から、本ストーリィは幕を開けます。
時代は後継帝である
光仁帝の御世。女帝である故に成す術のなかった藤原一族の男どもが、早速権力を手中にすべく、自らの娘たちを親王に嫁がせようと暗躍を始めます。
そんな情勢の一方で、一時女帝の怒りを買って流刑に処されたものの女帝が厚く信頼していた広虫、その後任を務めた
吉備由利という2人の女官が、女帝の内に秘めていた本心を紐解いていく、という謎解き風のストーリィ。

帝が頂点にあった時代におけるその存在ぶりを描いた歴史小説だろうとてっきり思っていたのですが、本書はそうした歴史の全貌を描くのではなく、女性でありながら帝という重荷を担った孝謙称徳帝の孤独、苦悩、願望を通して描いた、一人の女性物語。その意味で歴史小説としては、偏りのある作品と言わざるを得ません。
一方、俯瞰して見ると、女性陣と男性陣の対立構図を描いたストーリイとも言えます。
即ち、片や女帝と女帝に仕えた女官2人、片や男である新帝とそれを囲んで政略をめぐらす
百川を始めとする藤原一族の男ども。男たちにとって自分たちが思うように力を振るえない女帝の時代は、そもそも許し難いものであったのか、という思いを強くします。

翻って現在の日本の皇室、女帝問題が一時クローズアップされたものの、また沈静化してしまったようです。しかし、それはもう避けて通れない問題と考えるべきでしょう。
本作品は、女性皇族による皇位継承への布石という意味も含んだ一冊と感じる次第です。


1.女帝、崩御/2.流人、召還/3.姉弟、再会/4.男権、復活/5.斎王、立后/6.隼人、舞う/7.御幸の途上/8.藤原の女たち/9.帝王の恋/10.星降る家/11.祟る石、語る塔/12.遣唐使、航る/13.重臣、客死/14.不浄の門/15.皇后、謀叛/16.雷神、捕獲

              

2.
「帆 神−北前船を馳せた男 工楽松右衛門− ★★    新田次郎文学賞


帆神

2021年08月
新潮社

(2000円+税)

2023年12月
新潮文庫



2021/09/20



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播州高砂の漁師の息子、しかしその胆力と創意工夫力で頭角を現し、日本の海運業に画期的な「松右衛門帆」をもたらした実在の人物、工楽松右衛門の生涯を描いた長編ストーリィ。

玉岡かおる作品、これまでも気持ちは惹かれるものの中々読むに至っていなかったのですが、江戸期の海運業が舞台ということですっと手が出た次第です。

各章、松右衛門が成長し活躍の舞台を広げていく、その舞台となる場所を副題にしており、それがストーリィ展開の上で解かりやすい。
そしてもうひとつ、各篇の冒頭で、松右衛門と関わりを持つことになる女性の視点から、松右衛門との出会いまでが描かれている処が面白い。

前半は水主、船頭と出世していくビルドゥングス・ロマン、海洋冒険小説という趣きあり。そして後半になると、創意工夫をもって日本の海運業に寄与していく海運ビジネス小説という趣きです。
もちろん、松右衛門の成功は、その周囲にいる仲間たちの協力があってのことですが、それに負けず劣らず、
千鳥、津祢、八知といった女性たちの活躍も見逃せません。

また、広くこの時代を眺めると、進取の精神を備えた海商たちに比較して、武士たちの硬直性が対照的に浮かび上がります。
その処は、日本の政治、とくに自民党の硬直性への批判ともい感じられます。

何はともあれ、松右衛門という懐の大きな人物を描いたストーリィとして充分面白いうえに、いろいろな見所のある作品です。


1.金毘羅船−播州高砂浦の巻/2.唐船−兵庫津の巻/3.千石船−浪華の巻/4.北前船−越後出雲崎の巻/5.異国船−恵土呂府の巻/6.蒸気船−鞆の浦の巻

          


   

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