航空自衛隊を主にしたサスペンス。
帯には“冒険ロマン”とありますが、最新のジェット戦闘機F15(イーグル)を駆って大空を飛翔する、パイロットたちの高揚感がかなり謳われていますから、その点誤りではありません。
ストーリィは、硫黄島の近海、日本の排他的経済水域で起きた、中国海軍の潜水艦事故から始まります。
前半は、硫黄島、那覇と結ぶストーリィの中で、航空自衛隊を中心に様々な場で任務を遂行する自衛隊員たちの姿が描かれます。それは自衛隊の実情紹介、というに近い。自衛隊を主舞台にしたストーリィともなれば、最低限の舞台説明が必要ということなのでしょう。ただし、その面では、杉山隆男「兵士を見よ」の方が、はるかに迫真性を備えています。
中国による潜水艦引き揚げ作業の一方で、それを監視する自衛隊の艦艇に次々と起こる事故。いったい、海底では何が起きているのか。その謎が具体的に明らかになり、一気に緊迫した展開となるのは、全体の2/3を過ぎてから。
自衛隊が舞台となっているサスペンスというと、福井晴敏「亡国のイージス」が思い出されますが、本書は決してハードな軍事サスペンスではありません。
むしろ、母国を守るという使命感に燃えながら、持つ力の行使を制約された、パイロットたちの切ない思いを背景にしたサスペンスと言えるでしょう。(硫黄島を舞台とした点が秀逸)
女性パイロット・麻木未鳥二尉と、彼女の元教官であり、現在恋人でもある倉石直人三佐との関係が、ロマンの彩りを一層深くしています。
“切ない冒険ロマン”として、注目してよい作品だと思います。
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