鈴木涼美(すずみ)作品のページ


1983年東京都生、慶應義塾大学環境情報学部在学中にAVデビュー。その後キャバクラ等に勤務しながら東京大学大学院社会情報学修士課程修了。修士論文は後に「AV女優の社会学」として書籍化。2009年日本経済新聞社入社。都庁記者クラブ、総務省記者クラブ等に配属されて地方行政の取材を担当、14年秋退社。22年「ギフテッド」にて作家デビュー。同作および2作目「グレイスレス」にて 第167回・第168回と連続して芥川賞候補。
※父は舞踏評論家・翻訳家の鈴木晶、母は児童文学者の灰島かり。


1.グレイスレス 

2.浮き身 

 


                   

1.
「グレイスレス ★★


グレイスレス

2023年01月
文芸春秋

(1600円+税)


2023/02/02


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主人公の聖月(みづき)は、母親が英国に滞在しているため、祖母と二人で、森に囲まれた洋館暮で暮らす。
その聖月の仕事はというと、アダルトビデオ業界でAV女優にメイクを施す化粧師。

静かな祖母の暮らしとAV業界での仕事が、とても対照的。
日常生活では聖月ら、個々の存在がはっきりしている。
一方、AV撮影の現場では個々の名前は語られず、身体の特徴で語られ、まるで身体の部品にしか過ぎないよう。

しかし、両方はそんなに掛け離れた世界なのでしょうか。また、両世界の住人は相容れない存在なのでしょうか。
どうもそうは思えません。
違いは、それぞれが設けたルールに従っているからに過ぎないのでは、と感じます。

最後にそのルールが破られた時、聖月がそこに留まる理由は失くなったのでしょうか。

2つの世界が余りに対照的なので、それぞれの姿が、その違いがくっきりと浮かび上がってくるような気がします。

                 

2.
「浮き身 ★★


浮き身

2023年06月
新潮社

(1500円+税)


2023/09/20


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読み始める前、本作題名の「浮き身」とはどういった意味なのか?と思いましたが、読み終えた今、これ以上ないくらい良く出来た題名だと思います。

主人公は、ろくに通学していないものの一応女子大生、でも実態はキャバ嬢だという19歳。
ふとしたことから、まだ開店前、無店舗型風俗を準備中のマンション一室に入り込みます。
主人公曰く、住まいでも仕事場でも遊び場でもないこの部屋が、居心地良かったのだ、と。

それを象徴するように、その部屋にいる女たちは源氏名等の仮名で呼ばれ、男たちは顔の特徴で呼ばれる。
先は全く見えないけれど、何にも束縛されていない居心地良さ、という気分は判る気がします。
でもそれは、一方で虚無、とも言えます。

その部屋にいることの代金は、セックスだけ。
無個性の人間たちとのセックスなど、何ほどのものでもない、という主人公の言葉が、虚無さを引き立てます。

全く思いもよらない世界が、この小さな部屋に広がっていた、そんな凄みを感じる作品。読後感は深いものがあります。

          


   

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