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1969年愛知県名古屋市生、国学院大学文学部哲学科卒。「アサッテの人」にて第50回群像新人文学賞、 第137回芥川賞を受賞。

  


 

●「アサッテの人」●        群像新人文学賞・芥川賞




2007年07月
講談社刊
(1500円+税)

 

2007/08/22

 

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芥川賞受賞作品ということで、私にしては珍しくも手に取った作品。
しかし、前半は本ストーリィにどんな意味があるのかトンと判らず、途方に暮れたまま読み進んだというのが正直なところです。
それが後半になってようやく作者の意図が見えてきます。

本作品は、失踪した叔父が残した小説草稿、日記等を積み重ねていく形式にてストーリィが進められていきます。
その叔父とは、「ポンパッ」とか「チリパッパ」のような何の意味もない奇妙な言葉を突然に叫んだりする人物。
元々子供時代から吃音だったらしい。吃音によって発せられる言葉は本来「この世界の中で発生されるべきでにない言葉」。つまり、叔父は吃音で語ることにより、世界の外=“アサッテ”の世界を垣常に間見ていたのである。
アサッテの世界と現実の社会との調和を保っていられたのは、叔父に愛妻・朋子さんがいたおかげ。しかし、彼女が事故死してしまうと叔父はバランスを失い、ついには失踪してしまう。

何の意味もないことをやってみたい、しがらみに充ちた現実社会からこぼれ落ちてみたいと思ったことは誰しも一度や二度、あるのではないでしょうか。
しかし、アサッテの人=叔父は、バランス感覚を持っていなかった故に居場所を確保することができなくなった、そんな風に感じます。
しかし、たまにアサッテの世界に跳ぶ程度のことだったら、どんなに息を抜けることか、とも思います。
本書の価値は、そんな「アサッテ」の人および境地のことを言葉で端的に言い表したところ、それを語るに独特なスタイルで描き出したところにあるのではないでしょうか。

 


  

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