庄野潤三作品のページ


1921年大阪府東成郡住吉村(現大阪市住吉区)生、九州帝国大学法文学部卒。海軍に入隊後少尉、戦後学校教諭、放送会社勤務を経て、作家業。55年「プールサイド小景」にて芥川賞を受賞。2009年死去。

  


     

●「逸見(へみ)小学校」● ★★


逸見小学校画像

2011年07月
新潮社刊

(1300円+税)

   

2011/08/17

  

amazon.co.jp

文壇デビュー以前に書かれた未発表作品。
戦時中の自らの体験を元にした、戦争小説です。

戦争、そして「逸見小学校」という題名から、戦時中に小学生だった庄野さんと、年代も考えずに思ってしまいがちですが、もちろんそうではなく、海軍少尉だった庄野さんが率いる海軍庄野隊が、昭和20年 3月一時的に横須賀にある逸見国民学校に一ヶ月余り駐屯した時の体験を元に描かれたらしい作品。

冒頭、館山砲術学校から横須賀へ部隊の異動を命じられたにもかかわらず二日酔の所為で同行できず、別途単独で横須賀へ向かったり、逸見小学校内で部隊対抗のサッカーに興じたり、同じ将校仲間と「小公女」について語ったりと、敗戦間近の軍隊とは思えないような光景が繰り広げられます。
館山の砲術学校と違ってうるさい上官がいないこと、主人公の千野少尉も含め5人の将官が同じ年代、同じ状況で気安く振る舞えた、ということがあったのでしょう。
それでも若者たちに相応しい、明るく、伸び伸びした姿は、とても戦争小説とは思えない雰囲気を醸し出しています。
とくに、妹の花嫁候補の紹介を頼み、候補として挙げられたその友人である
江原みちこを突然東京の自宅へ、さらに疎開先の西那須野まで訪ねていくところ、その振る舞いの自然な様子はとても戦争末期とは思えず、むしろユーモラスに感じられます。

あいにく庄野作品については連載エッセイを多少読んだことがある程度で、作品をきちんと読んだことはないのですが、デビュー前作品とは思えない程完成度の高い作品です。
本書を読むと、若者の明るい未来、希望を奪うことなど決して行ってはならない、という思いを強くします。

 


  

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