雫井脩介
(しずくいしゅうすけ)作品のページ


1968年愛知県生、専修大学文学部卒。2000年「栄光一途」にて第4回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞し、作家デビュー。05年「犯人に告ぐ」にて第7回大藪春彦賞を受賞。


1.
クローズド・ノート

2.犯罪小説家

3.つばさものがたり

4.検察側の罪人

5.犯人に告ぐ2

  


   

1.

●「クローズド・ノート」● ★★


クローズド・ノート画像

2006年01月
角川書店刊
(1500円+税)

2008年06月
角川文庫化



2006/02/26



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大学生の香恵は、部屋のクローゼットの奥に前の住人が忘れたに違いない一冊のキャンパスノートを見つけます。
「伊吹s'note」と書かれたそのノートは、初めて4年2組の担任を受け持った若い女性教諭の日記の如きものだった。
いつしかそのノートを読み出した香恵は、その女性・真野伊吹の前向きな生き方に魅せられ、教え子のひとりになったような親しみを深めていく。そしてそのノートに綴られた彼女の恋の経過は、香恵自身の恋の導き役ともなる、というストーリィ。

ストーリィは、まず香恵がバイトする文房具店、そこでの万年筆の薀蓄から始まります。そのプロローグ部分がとても楽しい。
そして周囲から“天然”と言われる主人公・香恵のボケぶり、その楽しさ、雰囲気の良さが、読者をして最後まで本書を楽しく読ませてくれます。
帯には「切なく暖かい恋愛小説」とありますが、私はむしろ奇しくも同じ教育大の先輩・後輩にあたる2人の若い女性の物語だと思うのです。
伊吹という若い女性が教育の場で経験したこと、恋愛に苦しんだ心が一冊のノートを経て香恵に伝えられ、香恵の相談役・成長の導き手ともなるというのが、本ストーリィの骨子なのですから。
伊吹、香恵、文房具店の看板娘・可奈子たちに比べ、総じて登場する男性たちの影が薄いのも、その理由のひとつです。

率直に言って、細部にはつじつまの合わないところ、幾らなんでもと感じるところが幾つかあります。
それでも、総じて本書が良い雰囲気で楽しく読める作品であることに間違いはありませんし、最後は心が洗われるように溢れてくる涙を抑え切れなかった作品です。
何といっても、ひとりの若い女性が残したノートを、大学生の主人公が読み解いていくという設定が新鮮。
気持ち良く楽しみたい方には是非お薦めしたい一冊です。

  

2.

●「犯罪小説家」● 


犯罪小説家画像

2008年10月
双葉社刊

(1500円+税)

2011年05月
双葉文庫化



2008/11/14



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以前話題になった「犯人に告ぐ」は私に合いそうもないなぁと見送った経緯があり、本書も読もうかどうか迷っていました。
偶々読めるところに本書があったので、今話題となっているサスペンス小説だからと読んでみた、という次第。
ところがもう、冒頭から放り出したくなりました。作品として良いかどうかとは別に、こうした薄気味悪くて粘着質な雰囲気、私にはとても合いません。

「凍て鶴」という作品でサスペンス系の文学賞を受賞した新進作家の待居涼司。彼の元にはさっそく映画化の話が持ち込まれ、脚本・監督・主演をホラー系作品で最近人気のある脚本家=小野川充に任せたいとのこと。 
その小野川、何故か「凍て鶴」の物語を、話題となった自殺系サイト「落花の会」とそのオーナーだった木ノ瀬蓮美の自殺に強引に結び付けようとするばかりか、実際においても待居を同事件の謎究明に巻き込もうとする。さらに、女性フリーライター=今泉知里もまた小野川の口舌に乗せられて同事件に深く事件に入り込んでいく・・・・。
待居をぬき足ならぬ状況へと意図的に巻き込もうとするかのように、不気味なイメージを増していく小野川の思惑はいったい何処にあるのか、というサスペンス。
執拗で無遠慮な小野川が不快である筈なのに、待居は何故映画化の話を蹴っ飛ばさないのか、それもまた鬱屈を感じてしまう理由のひとつ。実はそこに本ストーリィの鍵があるのですが。

本ストーリィの特徴として次のことがあげられます。
主要登場人物3人(待居・小野川・今泉)の誰にも感情移入できないこと、そして3人の誰にも救いがないこと。
さらに私の主観からすると、3人共、意外にも私が思っていたより愚かな人物であった、ということも気持ちを滅入らせることとなった理由のひとつ。
“犯罪小説家”とは、小野川が待居を評して言った言葉。不気味かつ不透明な印象をもたらす呼び名ですが、それはそのまま本作品の有り様を示していると思えます。

   

3.

●「つばさものがたり」● ★★


つばさものがたり画像

2010年08月
小学館刊
(1500円+税)

2013年01月
角川文庫化


2010/09/04


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26歳の君川小麦、父親から引き継いだケーキ店を開くという夢を叶えるため、都内の有名パティスリーで修業中。
しかし、その小麦に、店を辞めざるを得ない事情が・・・。
店を辞めて故郷の北伊豆に帰った小麦、母親の助けを借りながら自分の店を開くために奮闘を開始。
その小麦に、幼い甥の叶夢(かなむ)が囁きます、この店は流行らないよ、と。

素敵なケーキ店を開きたいと頑張る小麦と、その小麦を応援する母と兄一家という“家族物語”+叶夢とエンジェルの子供レイとの“ファンタジーな友情物語”。

才能と夢、でも悲運と挫折。誰の人生においても一方だけということはなく、常に背中合わせのものかもしれません。
叶夢とレイのファンタジーな友情物語が、素敵なケーキ店を作りたいという小麦の苦闘話に絡むことがなければ、小麦の物語はかなりシリアスなものになっていたに違いありません。
でも本作品は、優しさに満ちた爽快なストーリィに仕上がっています。
読後には、何と爽やかで気持ち良いストーリィだったことかと、誰しもきっと思う筈。

優しさと可愛らしさに満ちたストーリィがお好きな方に、是非お薦めの佳作。

          

4.

「検察側の罪人」 ★☆


検察側の罪人画像

2013年09月
文芸春秋刊
(1800円+税)



2013/10/02



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蒲田で起きた老夫婦刺殺事件。その容疑者の中に、ある時効事件の有力容疑者がいることに東京地検のベテラン検事=最上は気付きます。
それは、最上が学生時代に住んでいた北豊寮の管理人夫婦の娘、最上も可愛がっていた当時中学生の
由季が絞殺された根津事件。結局犯人は謙虚されず時効が成立していたものの、最上ら寮仲間が決して忘れることのない事件だった。
その有力容疑者だった
松倉が、再び蒲田事件の容疑者として検事の前に姿を現し、今度こそと最上は意気込みます。しかし、松倉は果たして蒲田事件の真犯人なのかどうか。
松倉を前にするベテラン検事の最上と、その配下である若手検事の
沖野。松倉に対する2人の心証はついに割れ、その後の2人の道を大きく隔てるものとなります。そしてその結果は・・・。

時効事件の真犯人、しかし新たな事件では犯人ではないかもしれない。そうした事実を前にした時、正義を貫こうと検事になった人間はどう道を選ぶのか。その葛藤は読者もまた共有するものです。
本作品は一応サスペンスに分類されるのでしょうけれど、事件もの=サスペンスという単純図式で取り扱うことはできないと思います。本作品がサスペンスであるなら、それは検事という一人の人間の中に潜む正義感、法意識、その葛藤の上にあるドラマだからでしょう。
ただ本ストーリィは、最上の個人的な執念に基づくものであるが故に、普遍的なドラマには成り得ていないと感じます。
主筋ではないものの、周辺ストーリィでは都合良過ぎる展開がないではありません。
主筋を追う余り、ストーリィ全体像のバランスをやや欠いた面が無きにしも非ず。普遍的な物語に成り得なかったところと合わせ、やや残念に思うところです。

                  

5.
「犯人に告ぐ2−闇の蜃気楼− ★☆


犯人に告ぐ2

2015年09月
双葉社刊
(1700円+税)

2018年05月
双葉文庫化
(上下)


2015/12/30


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話題作であったらしい「犯人に告ぐ」の第2弾。
読む予定はなかったのですが、たまたま借りられる機会があったので読んでみました。

前作を読んでいないのでこのシリーズ全体については何とも言えないのですが、本書だけに限って言えば、それ程ではなかったなぁという印象。

振込詐欺グループ、警察に事務所へ踏み込まれ、店長等々が逮捕されますが、
知樹・健春の砂山兄弟は危ういところで脱出に成功します。その2人に、詐欺の指南役?だった淡野が今度は誘拐ビジネスをやろうと誘ってきます。
淡野が綿密な計画を立て3人で誘拐計画を実行・・・。
その誘拐事件に立ち向かうのが、神奈川県警で
刑事特別捜査隊の統括指揮を執る巻島史彦警視という次第。

犯罪小説という訳でもなく、警察ものサスペンスとも言い切れず、犯罪グループ対警察捜査陣の対決ストーリィというのが適切でしょう。
少々物足りなさを感じてしまったのは、最終結末に偶然要素が影響していることと、犯人側の主犯格である淡野の人物像が今一つ不明瞭のまま終始したこと。

※巻島と淡野との対決は次作に引き継がれるようです。
その次作を読もうという気になるかどうかは、今の処どちらとも言えず。

  


  

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