シリン・ネザマフィ
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Shirin Nezammafi 1979年イラン・テヘラン生、神戸大学工学部情報知能工学科卒、同大学院自然科学研究科修了。現在システムエンジニアとしてパナソニック勤務。2006年「サラム」にて留学生文学賞、09年「白い紙」にて 第108回文学界新人賞を受賞。

 


   

●「白い紙/サラム」● ★★☆      文学界新人賞・留学生文学賞

 
白い紙/サラム画像
 
2009年08月
文芸春秋刊

(1238円+税)

 

2009/09/01

 

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文学界新人賞受賞の「白い紙」は、イラン・イラク戦争の最中、イランの田舎町での少女と少年の淡い恋を描いた作品。

年代は高校生くらい。男女ということで口を利くことも戒められているイスラム教社会での規律には窮屈さを感じざるを得ませんが、それでも通じ合うものは何がどうあろうと通じ合うものだということに、救いを感じます。
その一方、学業優秀で大学に進学することを勧められ、本人もまた医師になりたいという希望を強く持ちながら、同級生の殆どが戦地に赴くという中、自分一人が逃げ出すという負い目を感じて苦悩する少年の姿は痛ましい。
表題の「白い紙」とは、学校教師が生徒たちに向かって、君たちの今は真っ白、これからいろいろな色を塗っていろいろな絵を描いていくことができるという意味で使った比喩。
周囲の圧力の中、少年が手中にした希望をあえて捨てざるを得ないのは、どんなに大きな悲劇だろうと思います。
戦争のもたらす悲劇のヒトコマを感じさせられる一篇。

留学生新人賞受賞の「サラム」は、日本に留学中のペルシア人女学生を主人公に、拘留されたアフガニスタン人の少女と、彼女のため難民認定を勝ち取ろうと奮闘する弁護士という3人の姿を描いた作品。
熱心であっても弁護士はやはり日本人の立場、日本と故郷アフガニスタンとの間で翻弄される少女、留学生の主人公と、3者の視点が鮮やか。
多くの難民が生まれているアフガニスタンと、豊かで平和な日本との差は信じ難い程大きい。我々日本人は多くの難民のため何ができるのだろう、と問いかけずにはいられません。
なお、題名の「サラム」とは、元々「降伏、救い、平和」という意味ももつ単語だったそうですが、今は単なる挨拶言葉になっているのだという。

2篇ともごく短い作品ですが、きちんと考えてみようと思うと、深く、様々な問題が次々と浮かび上がります。
そこをあっさりと、登場人物たちが各々抱える切ない思いを主にして素直に描き出した処に、好感が持てます。
2篇とも、良い小説です。

白い紙/サラム

        


   

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