白河三兎
(みと)作品のページ No.2



11.十五歳の課外授業

12.計画結婚

13.他に好きな人がいるから

14.無事に返してほしければ

15.冬の朝、そっと担任を突き落とす 

16.ひとすじの光を辿れ 

【作家歴】、プールの底に眠る、角のないケシゴムは嘘を消せない、私を知らないで、君のために今は回る、もしもし還る。、神様は勝たせない、総理大臣暗殺クラブ、ふたえ、小人の巣、田嶋春にはなりたくない

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11.
「十五歳の課外授業 ★★☆


十五歳の課外授業

2016年04月
集英社文庫刊

(640円+税)



2016/05/18



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白河三兎作品は本当に油断がならない。平凡なストーリィと思っていたら突如として牙を剥くような展開が待ち受けていたりするのですから。中学生版青春&成長ストーリィである本書も、まさにそんな一冊。

中学3年の
東山卓郎は、学級委員・バスケ部主将を務めているものの、成績も運動能力もいたって凡庸。そんな卓郎なのに、何故か美少女で成績優秀かつ人気者の峰岸結果(ユーカ)から告白されて付き合い中。
そんな卓郎の前に現れた教育実習生=陰気で地味な辻薫子が、幼い頃に家業である東山歯科クリニックに通院していて、姉と卓郎とも遊んでくれた
「かおるお姉ちゃん」だったとは。

卓郎は薫子のドジぶりを心配し、何とか力になってやろうとするのですが、そんな卓郎の予想もしなかった事実が・・・。
後半、ストーリィは一気に怒涛のように展開します。突如襲ってきた激流に卓郎は呑み込まれ、翻弄され尽くすような様になるのですが、それは卓郎のみならず読み手も同じこと。
「課外授業」という題名から、おそらく薫子と卓郎が深く関わるストーリィだろうとは予想していましたが、薫子が抱えていた秘密が明らかになるだけでなく、卓郎自身が認識していなかった卓郎自身の真の姿まで露わにされるストーリィだったとは!

そんな怒涛の如きストーリィも最後は収束を迎えるのですが、そこに残ったものは本書の持つ強いメッセージ性。
要は、丸裸になれ、自分に目覚めろ、本気になれ、人と強く繋がれ、ということではないでしょうか。

本書では脇役に終わりましたが、卓郎の2歳上の姉=
絢菜は脇役にしておくには勿体ないくらいのキャラクター。
そして後半に登場する薫子のルームメイト、
川島朋美の存在がとても刺激的です。
白河三兎作品の魅力は真に麻薬的。一度魅せられたら虜にされ、もう逃れることはできません。本書もまた、そんな白河作品のひとつであることに間違いありません。

         

12.

「計画結婚 ★★☆


計画結婚

2017年02月
徳間書店刊

(1600円+税)

2019年06月
徳間文庫



2017/03/08



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白河三兎さんの魅力は、余人の思いもよらぬストーリィを生み出すところにあるのですが、本作もまさにそんな一冊。
「これはもうとんでもないストーリィ」と以前に感じた作品に
柚木麻子「わたしにふさわしいホテルがありますが、最終章で本作はそれを軽々と飛び越えている感あり。
面白さ極まり、痛快さこの上なし、という読後感です。

久曽神静香、子供の頃から図抜けた美人でスタイルも抜群。男性は皆々静香に惹きつけられますが、静香はまるで相手にせず。そのうえ性格に難があり、女友達は一人いるのみ。
そんな静香と
塚本直樹の、ヘリポート付客船を借り切っての船上ウェディングに、高3からの親友である佐古怜美ほか招待客が順次乗り込んできます。
そしていよいよ結婚披露宴が始まるのですが、どうも最初から胡散臭い。新郎側の友人3人はアルバイトでの代理出席客ですし、そのうちの一人は妹を騙した結婚詐欺師として新郎を狙っている警察官。いったいどうなるのやら・・・。

構成は連作ストーリィ風。
友人の怜美、2人が高校生の頃に関わった美容師の
桜田祐介、実は警察官の西島洋平、結婚相談所で静香の担当者だった富永仁、代理出席者の野村智哉といった面々が各章での語り手となり、新婦である静香との関わり、この宴に出席するまでの経緯を語り、回想するというスタイルでストーリィが展開していきます。
一つ一つの章だけでも読み応えのあるドラマなのですが、それらを一気になぎ倒すような、新婦=久曽神静香ならではの勢いが炸裂する最終章での展開はまさに「とんでもない!」の一言。

理屈は抜き、この驚天動地のストーリィをまずはお試しあれと、お薦めします。

※静香と怜美の2人、良いコンビだなぁと思います。この後の2人の幸せを祈りたい気持ちです。

1.メランコリック・ダブルデート/2.ハッピー・メイストームデー/3.マリッジ・トランプ/4.エンディング・リング/5.ピンチヒッター・ウェディング

                

13.

「他に好きな人がいるから ★★


他に好きな人がいるから

2017年10月
祥伝社刊

(1500円+税)

2020年05月
祥伝社文庫



2017/11/08



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主人公の坂井修二は会社員。会社の後輩女性からデートしてくださいと申し込まれますが、「他に好きな人がいるから」と断る。実は修二には、9年間想い続けている高校の同級生がいた。

白河三兎作品を読む楽しさは、今度はどんな謎が仕掛けられているのだろうかという興味、そしてその仕掛けの清新さにあり。
今回もその期待は裏切られません。

9年前、高い所に登るのが好きな修二は、違法に入り込んだマンションの屋上で、同じ高校のセーラー服姿に巧妙な兎のマスクを被った
“兎人間”と出会う。
ネット上で
「バケタカ」と呼ばれて注目されているその兎人間の正体は誰なのか。興味はその点に引き付けられます。

その一方、学校恒例の演劇祭を控え、演目を決めその準備を続けるクラスの同級生たちと修二が関わり合う様子が描かれます。
とくに辛辣かつ率直な物言いをする同級生=
峰美菜津の存在感と屈折ぶりが愉しい。
その辺りはまさしく学園もの青春ストーリィです。

それだけなら少し風変わりな青春ストーリィというに留まりますが、兎人間の正体が明らかになった時、そこには更なる仕掛け。“兎人間”だけではなく、修二、そして同級生にも巧妙に謎が仕掛けられている、まさに仕掛けが連鎖していくといった展開に、快感といっても良い面白さあり。

そしてエピローグ。片想いは片想いに留めるからこそ、清新な余韻となって残るでしょうか。読了後のこの余韻は素敵です。

匂い立つ青春ミステリのひとつ。

プロローグ/1.兎角/2.兎の逆立ち/3.年劫の兎/4.兎兵法/5.兎の耳/6.兎に祭文/7.兎の糞/8.兎の昼寝/9.脱兎/10.兎死すれば狐これを悲しむ/11.兎の登り坂/12.寒の兎か白鷺か/13.獅子博兎/14.二兎を追う者は一兎も得ず/15.兎のひり放し/16.兎の字/17.兎は好きだば苦木も噛む/18.兎の罠に狐がかかる/19.兎追いが狐に化かされたよう/20.兎の七日なぶれば噛みつく/エピローグ

            

14.
「無事に返してほしければ ★★


無事に返してほしければ

2018年10月
小学館刊

(1400円+税)



2018/11/19



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誘拐事件を題材にした連作ミステリ。
冒頭、2年半前に川の事故で死んだはずの長男を誘拐した、身代金を用意しろという脅迫電話が掛かって来たところからストーリィは始まります。
まさかと思う一方、しかし、長男の遺体は発見されないまま。絶対にありえないとはいえない・・・・。
そこにおいて読み手は、主人公である父親と同様の心理状態に置かれます。
脅迫電話を信じるべきなのか、それとも・・・。

4章からなる連作ミステリ。しかし、事件は2つ。
それぞれ前半・後半に分けられ、2事件x2章=計4章という構成。
2つの事件で被害者もその家族も異なりますが、共通して登場するのは2人の刑事。一人は
「クマさん」と呼ばれる中年ベテラン刑事、そしてもう一人は1年目という若い女性刑事の「ヒナ」

事件の真相は、決してこれまで描かれることがなかったとは言いませんが、次にどう展開していくのか、全く予測不能。
その展開と構成には、ただただ驚かされるだけ、と言う他ありません。何より、読み手がまるで主人公同然にストーリィの中に取り込まれてしまう、そこが凄い!
これぞまさに白河三兎作品の魅力、といって過言でなし。

読了してからも本作の衝撃から逃れられないのは、最終頁の後に繰り広げられるストーリィこそが正念場、と気になって仕方ないからです。

そんじょそこらでは味わえないミステリ、お薦めです。


1.熊と雛/2.月と鼈(すっぽん)/3.卵と子/4.陽と月

                

15.
「冬の朝、そっと担任を突き落とす ★★
  One winter morning, we killed our teacher (the Seven Deadly Sins of the classroom)


冬の朝、そっと担任を突き落とす

2020年01月
新潮文庫

nex
(670円+税)



2021/01/29



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またしてもやってくれたなぁ・・・。今回もまた、見事にしてヤラレました。
チリチリする刺激と、ピリピリする対立に満ちた、高校の理系クラスを舞台にした学園ストーリィ。

担任教師の穴井が女子生徒に手を出したと批判され、耐えられずに校舎から飛び降り自殺したのが、一ヶ月程前。
副担任の
大槻が穴井に代わって担任となったそのクラスに、新たにやってきたのが転校生の中西美紀
姿を見せた早々、死んだ穴井の母親のために穴井の遺書を探すと明言して、クラス中からドン引きされます。
しかし、自分が孤立したことに構わず、早速中西は行動を始めます。そして・・・。

クラスの生徒、5人を章の題名に設定し、それぞれ一人称で語られるという構成。
理系クラス故に元々女子生徒は6名だけ。一見落ちついた雰囲気に見えたそのクラスに、実は強い階層意識、とくに女子生徒たちの間に複雑な状況があることが次第に明らかにされていきます。
そして、その結果明らかになっていくのは、驚くべき事情。

ちょっと不穏なだけと思われた高校ストーリィが、思わぬミステリの蓋を開けてしまうのですから、もう驚愕する他ありません。
その探偵役として行動するのが、まずは転校生の中西美紀。そして思わぬことで中西が退場すると、それを引き継ぐのは何とあの
タージこと田嶋春なのです!

大人は強いように見えて、実は弱い。それは、社会は学校よりもっと厳しい処だから。大人ぶっていても、所詮まだ子供。彼らには真実が全くわかっていなかった、という白河さんの仕掛けがピシピシと胸を打つようです。

なお、本作は思わぬミステリであると同時に、如何にしてあの田嶋春は出来上がったのか=生い立ちから高校時の覚醒までを描くストーリィになっているのですから、二重の楽しみが味わえるというもの。ですからファンの方には是非お薦めです。


プロローグ.穴井直人の罪/1.菅沼勇太の怠慢/2.渋野晋吾の暴食/3.中西美紀の傲慢/4.小野田すずの憤怒/5.今平智恵の強欲/エピローグ.大槻明子の罰

                

16.
「ひとすじの光を辿れ Following the Beam of Light  ★★☆
            A Gateball Journey to Youthfull Glory 




2023年06月
新潮文庫

nex
(710円+税)



2023/07/30



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ゲートボール、高校生女子2人+αによる青春ストーリィ。

ゲートボールという素材が珍しいだけで、それ以外はよくある高校青春ストーリィのひとつ、と思ってしまうところですが、作者が白河三兎さんとなれば、そんな単純なものではありません。

立ち上げたばかりのゲートボール部、その募集ポスターに写っているのは共に美形ながら、黒髪で清楚、金髪ショートという対照的な2人。
ゲートボール(門球)に熱いあまり
「モン美」と仇名された保嶋沙都美、安全ピンのピアスから「ピン子」と仇名された桂璃子
昨年のポスター剥がしをしていた女子生徒に、「僕」が上記2人について語りだす、という処から本ストーリィは始まります。

」とは、荷物運びを手伝ったことがきっかけで2人から迫られ、3人目のゲートボール部員となった男子高校生。
何の取柄もなく、ただ両親から言われるままに受験勉強をしているという平凡な生徒。
その僕に与えられた仇名は、タナボタ狙いかと揶揄され
「タナボー」

ゲートボールというと老人向け競技というイメージが強いのですが、実際はかなりの頭脳プレーが必要とされる高度なゲームであると、解説されていく辺りは、意外や意外という面白さあり。
そのうえで、すこぶる個性的なモン美とピン子という2人が引っ張る本ストーリィは実に面白い。
ゲートボール創設を応援する
校長、ゲートボール名人であるモン美の祖父といった周辺人物も魅力いっぱいです。

3人制ゲートボール大会への出場を決めた3人、ところが肝心の段階になってから突然に3人のチームワークが乱れていく、波乱もありという、その辺りの展開も実に妙あり。

しかし、終盤、ピン子、モン美と隠されていた秘密が次々と暴露されていくという仕掛けは、ミステリ小説の最終局面かというような謎解きを見るスリル、驚愕に満ちています。

ゲートボールはあくまで道具、それによって3人の高校生の間に生まれた強い繋がりにこそ読み応えあり、まさに王道の青春小説といって過言ではありません。 お見事!
なお、最後の最後まで添えられた白河さんの仕掛け、それが嬉しい。本青春物語、これで終わった訳ではないのですから。


プロローグ/1.ただいま部員募集中/2.初めてでも丁寧に教えます/3.基本のルールを覚えよう/4.頭脳九割、体力一割/5.雨降って地固まる/6.辞めるの考えなおして/7.部内恋愛のすすめ/8.一緒にゲートボールがしたい/9.夏と言えば/10.全国大会を観戦しに行こう/11.眠れない夜には/12.裸の付き合いをしませんか/13.秋と言えば/14.寄ってらっしゃい、見てらっしゃい/15.陰のヒーロー/16.いよいよ本番が近づいてきました/17.大会前夜/18.始まりと終わりの朝を迎えて/19.この日のために/20.今を生きてみたかった/エピローグ

      

白河三兎作品のページ No.1

    


   

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