新野剛志
(しんのたけし)作品のページ


1965年東京都生、立教大学社会学部卒。旅行会社で6年間勤務した後失踪、ホームレス生活に入る。3年間の放浪生活を経て99年「八月のマルクス」にて第45回江戸川乱歩賞を受賞、作家デビュー。


1.
あぽやん

2.恋する空港−あぽやん2−

3.あぽわずらい−あぽやん3−(文庫改題:迷える空港−あぽやん3−)

4.戦うハニー

  


 

1.

●「あぽやん APO-YAN 」● ★★


あぽやん画像

2008年04月
文芸春秋刊
(1800円+税)

2010年10月
文春文庫化

   

2008/05/13

 

amazon.co.jp

「あぽやん」とは、旅行会社の社員で空港所=APOに配属された人のこと。
お客様を海外に送り出す大切な役目だが、当初はいざ知らず、現在では他に行き場所がない社員が異動させられる部署、というのイメージがつきまとう。
主人公の遠藤慶太はまだ29歳、こんな若さで何故成田空港所に異動させられたのか? おまけに6年間付き合った彼女から突然別れを告げられたばかりとあって、腐ることしきり。
そんな遠藤慶太が、先輩APOたちの仕事振りを見て心機一転、やり甲斐を見い出して奮闘する、というお仕事小説。

よく利用している割りに知ることのないその職場の実情を知る、という興味。
それプラス、あぽやんに左遷されたとがっくりしている若手社員=遠藤慶太が、その職場でどうやり甲斐を見い出し(現実にも多い話だろうと思う)成長していくか、という成長小説の面白さを兼ね備えたストーリィ。
お仕事小説では、定例パターンと言ってよい面白さですが、本書でその面白さをさらに引き立てているのは、主人公が頑固で融通利かず、一本気な性格であるところ。そんな性格であるが故に、事をことさら大きくしてしまうのです。
でもそんな不器用な性格だからこそ、主人公に親近感も覚えますし、とにかくも健康的で気持ち良いお仕事小説になっているところが楽しい。

この職場、若い女性がとても多いのが特徴のひとつ。羨ましいと思われる方がいるかもしれませんが、私はさぞ大変だと思いますよ。私だったら遠慮しておきます。
そうした面がプライベート面、仕事面で各々現れるのが、「オンタイム」「ねずみと探偵」の章。
なお、「ファミリー・ビジネス」「ねずみと探偵」の章、裏事情を予め説明しようとしなかった先輩あぽやんの方が悪いですよ。そこまで慶太に察しろ、という方が酷というものです。
ドタバタ続きですが、兎にも角にも、楽しく読めるお仕事小説であることに間違いなし。

笑って、笑って/ファミリー・ビジネス/オンタイム/ねずみと探偵/金の豚/不完全旅行

  

2.

●「恋する空港−あぽやん2−」● ★☆


恋する空港画像

2010年06月
文芸春秋刊

(1600円+税)

2012年12月
文春文庫化

 

2010/06/28

 

amazon.co.jp

成田国際空港を舞台にしたお仕事小説、「あぽやん」続編。

前作が面白かったので、続編の本書も読むのが楽しみでしたが、残念ながら面白さは前作に及ばず。
最大の理由は、前作のような物珍しさがもはやない、というに尽きます。
前作でやんちゃ坊主的だった主人公=遠藤慶太は、もはや一人前のスーパーバイザー。本書では新人社員、枝元久男をOJT(指導教育)する立場です。
枝元久男、元々グアム支店で採用された現地スタッフ。希望して国内に転勤となった、いわゆる“アイランダー”。つまり、南のアイランドリゾート駐在ですっかり島ぼけしてしまい、戻ってきても中々日本のペースについていけない社員を指す言葉だそうです。
その手のかかる枝元久男のOJT役を務めることが、すなわち遠藤の成長具合の試金石になっている、という設定。

あい変わらず客絡みのトラブルはあり、それに最初から最後まで振り回されるという長篇要素もあるほか、ふとした失言でセンダーたちからそっぽを向かれる「ランチ戦争」、台風によるてんやわんやを描いた「台風ゲーム」、前作からの良きサポート役=森尾が警官からストーカーされる「恋する空港(アポ)」、遠藤たちのオフィスが廃止?という危機を描く「マイ・スイート・ホームあぽ」まで。
残念ながら前作のような面白さは味わえなかったというのは前述したとおり。
盛りあがって良い筈の、遠藤の恋模様も今一歩。
その相手となる森尾晴子の存在感、魅力がやはり前作程ではない、と言わざるを得ません。

テロリストとアイランダー/空港ベイビー/ランチ戦争/台風ゲーム/恋する空港(アポ)/マイ・スイート・ホームあぼ

       

3.

「あぽわずらい−あぽやん3− ★☆
 (文庫改題:迷える空港−あぽやん3−)


あぽわずらい画像

2014年05月
文芸春秋刊
(1700円+税)

2017年05月
文春文庫化

  

2014/06/07

  

amazon.co.jp

成田空港の受付カウンター業務を描いたお仕事小説“あぽやん”第3弾。
主人公=遠藤慶太が所属する大航ツーリストから、グランドホステス業務が同じ系列会社の大航エアポートサービスに移管されることとなり、現在のメンバーのうち12名が移籍することとなります。その一方、同社から主婦の契約社員3名がその要員として研修に送り込まれてくるところから、本巻はスタートします。
しかし途中、親会社である大日本航空の会社更生法申請というショッキングなニュースが飛び込んで来ます。
そしてまた、顧客サービスを何とか維持したいと心を砕いてきた遠藤は、人員削減という命題との間でついに心を病み、休職してしまいます。
これまでの2巻と比べると、まさに動乱&危機の巻。

これまでにも増してドラマティックな展開ですが、収益確保と顧客サービスの両立はどんな業界でも在り得ることで、決してあぽやんの専業特許ではない筈。その故に本書ストーリィも従来の“お仕事小説”を逸脱するものではないと思います。

遠藤の復帰はなるのか、そして大航エアポートサービスのカスタマー事業部長=星名は何を企んでいるのか、そして遠藤と森尾の恋の行方は・・・。
これまで1巻・2巻を読んでこられた読者には、ひと通りの決着を見ることのできる巻としてお薦め。


空港こわい/妹ざかり/天然営業/かりそめハードボイルド/あぽがらみ/やまいはちから

    

4.
「戦うハニー HONEY FIGHT  ★★


戦うハニー

2016年03月
角川書店刊
(1600円+税)

 


2016/04/25

 


amazon.co.jp

有名大学を卒業して大手生命保険会社に就職したものの、仕事に意義を見い出せず退職して短大で2年学び、晴れて男性保育士となった星野親(ちかし)、28歳が本書の主人公。
ただし、志望は公立の保育園。市の採用試験に落ちたため、とりあえず契約社員として私立の保育園
“みつばち園”で働くことになった、という次第。
女性ばかりの保育園という職場で、初めての男性保育士であると同時に新人保育士という星野、その顛末は如何に?

ストーリィ内容から
あぽやん同様、てっきりユーモア滲む“お仕事小説”と思ったのですが、そう簡単なものではなかった、というのが正直な感想です。
保育園に子供を預ける親には様々な事情、状況があり、モンスターペアレンツもいれば困ったちゃんもいると様々。
本作品ではそのうえ、主人公である星野がやたら自分は常に正しい、親たちに対していつも上から目線といった鼻持ちならぬ処があります。いくら何でもそれでうまく行く訳がないと呆れもし、いい加減にしろ、と言いたくなる位。
それでも、星野に冷たい目を向ける同い年の
酒井景子、始終からかいの言葉をかける年下の辻あかりという同年代保育士に、鷹揚で頼りがいのある井鳩園長等々というチームワークが、主人公の行き過ぎをカバーする展開は気持良い。

しかし、親たちの暴走で一番辛い思いをするのは、いたいけな子供たち。そんな子供たちを何とか救いたいと願う園長や保育士たちの姿を見ていると、本書が単なるお仕事小説ではなく、同時に社会小説という側面も合わせ持っていることに気付かされます。

※題名の
「ハニー」とは主人公のことと当初は思っていたのですが、読了後の今は“みつばち園”の職員全員のことを指すのだろうなァと今では判ります。

1.戦うハニー/2.お迎えボム/3.ごっつんパーク/4.辛口ハニー/5.愛がジグザグ/6.まだまだファイト

  


  

to Top Page     to 国内作家 Index