下川 博
(しもかわひろし)作品のページ


1948年生。早稲田大学卒業後、脚本家として活躍。主たるTV脚本に「武蔵坊弁慶」「中学生日記」「はやぶさ新八御用帳」等あり。

  


   

●「弩(ど)」● ★★


弩画像

2009年05月
小学館刊
(1700円+税)

2012年07月
講談社文庫化

    

2009/07/11

 

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時代は、鎌倉幕府が滅び、南北朝動乱の頃。
強奪を繰り返す武士の一団から村を守るため、武士を雇って村の総力を挙げて闘い、相手を打ち倒した村があった、という時代長篇。
そうした一文だけ読むと、映画「七人の侍」「荒野の七人」を連想しますが、主役が武士やガンマンという側でなく、村民たちであるという点が、ちと違う。

ストーリィは2部構成。
第一部は、因幡の国・智土師郷吾輔の活躍で、村が繁栄するまでのストーリィ。
胡人の血を引く義平太小萩の兄妹らと偶然知り合った吾輔は、小萩を後妻とし、義平太から紹介された瀬戸内の因島との交易を成功させたことによって、智土師郷を大きく栄えさせる。
第二部はその10年後。繁栄した智土師郷に強奪を繰り返す武士の一団が目をつけ、襲おうとしている様子。10年ぶりに姿を見せた義平太らの指導の下、胡から伝わる“弩”という弓を武器とし、吾輔を筆頭に村を上げて迎え撃つというストーリィ。

「荒野の七人」のような時代ものエンターテイメントを予想したのですが、さに非ず。
元々、横浜市金沢区にある称名寺という古刹。その寺が残す多くの史料の中に、悪党の跳梁に手を焼いた百姓たちが侍を雇った記録があるのだそうです。
本作品はその史料を元に描いた、新しい物語なのだとか。

したがって本ストーリィは、農業+交易を積極的に営んで独力で繁栄を築きあげ、さらに武士の統率を受けたとはいえ自分たちの総力を挙げて武士の一団を撃退したという、稀に見る農民たちの力強い歴史ドラマを読むところに面白さがあります。
また、吾輔と小萩の夫婦のほか、学問に才を発揮した吾輔の娘=、高僧の代理として智土師郷に至りここに桃源郷を作りたいと理想を掲げた若い僧侶=光信ら、数々のキャラクターも、本ストーリィの魅力です。

 


  

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