清水義範作品のページ


1947年愛知県名古屋市生、愛知県教育大学卒。88年「国語入試問題必勝法」にて吉川英治文学新人賞を受賞。


12皿の特別料理

八つの顔を持つ男

3.冬至祭

 


 

1.

「12皿の特別料理」● ★☆

 

1997年01月
角川書店刊

1999年12月
角川文庫化

 

1997/03/30

 

amazon.co.jp

食いしん坊の私としては、とにかく面白く読んだ、という作品です。
12の短編小説集なのですが、いずれも料理に関わるストーリイ。それも、各ストーリイ毎に、料理方法が細かく紹介されていて、食欲をそそられる、いや、読書欲をそそられる、というべきか。
それぞれのストーリイは、料理がうまくいくこともあれば、失敗することもある。また、登場人物たちの喜怒哀楽もさまざまで、清水さんならではの味わいです 。
それにしても料理方法の紹介は念が入っていて、うーん、ナンナンダと唖然。
中でも面白かったのは
「ぶり大根」
また、
「きんぴら」では、新妻=東京人である真理と夫=名古屋人である隆夫との料理に対する味覚の違いが、ストーリイの中心となります。東京生まれの東京育ちである私としては当然真理の味方。

1.おにぎり/2.ぶり大根/3.ドーナツ/4.鱈のプロバンス風/5.きんぴら/6.鯛素麺/7.チキンの魔女/8.カレー/9.パエーリヤ/10.そば/11.八宝菜/12.ぬか漬け

 

2.

「八つの顔を持つ男」● 


八つの顔を持つ男画像

2000年10月
朝日新聞社刊
(1500円+税)

2004年09月
光文社文庫

  
2000/11/11

  
amazon.co.jp

「松本正幸、静岡県出身の五十歳。旭教育図書出版の電子メディア部長で、妻と一男一女の平凡な家庭を営む−。様々な“顔”を持つ松本をめぐる、企業小説でラブストーリーでサスペンスで、はたまたホームドラマでもある奇妙な連作長篇」というのが宣伝文句。

どんな仕掛けがあるのやら、八つの顔をもつ男となればどんな隠されたドラマがあるのかと、興味をもって読み始めたのですが、そこにあるのはいたって平凡なサラリーマンの姿でした。
しかし、こうして人生半ばまでくると、既にいろいろな顔をもっているというのは事実。本書を読んで、初めてそのことをはっきり意識した次第です。
サラリーマンとしての顔、息子としての顔、学生時代からの仲間としての顔、マンション住民のひとりとしての顔。そして、娘の父親、息子の父親、会社の上司、夫としての顔。
当然好意的に評価される場合もあれば、批判的に見られる場合もあります。それはもう、一人の人間としては、仕方のないことでしょう。
自分が外からどんな風に見られているかについて意識させられ、そのことにちょっと面白みを感じた一冊です。

新戦略/郷里/旧友/隣人/別離/秘密/日常/放火犯

  

3.

「冬至祭」● ★★


冬至祭画像

2006年11月
筑摩書房刊

(1900円+税)

 

2007/04/07

 

amazon.co.jp

中学生になるひとり息子がいつの間にか不登校。次いで睡眠リズム障害、リストカットと次第に心が壊れていく様子を目の当たりにする。その時、父親たる自分はどうするだろうか。

おそらく、まず自分は仕事が忙しいといい、専業主婦である妻に任せるからと恰好をつけて、実際にはその現実から逃れようとするのではないだろうか。
本書の主人公であるTV会社の報道局プロデューサー、
戸田直人がまず取ったのも、そうした行動です。
自分は仕事に全力投球してきた、息子のことは全て妻に任せてきた、息子がおかしくなったのは母親の過大期待の所為、頼むから俺の仕事を邪魔するようなことをしないでくれ、というのが主人公の正直な感情です。
主人公が仕事を言い訳に目を背けている間に息子の様子は悪化していき、それと共に妻の心までが壊れていく様子が明らかになっていきます。
自分が全て悪いんだと息子は自分自身を責め、無意識に自虐的行動を取る。母親は、自分の愛した息子はどこへ行ってしまったのだろうと呆然となる。
そうなったとき、父親であり夫である自分は、どんな行動が取れるのでしょう? 
不登校児
を受け入れる全寮制の学校に息子を入れるということは、息子を見捨てるのと同じこと。報道番組で深夜の渋谷にたむろする女子中学生たちを追った主人公は、そのことに気づきます。
そして彼の取った行動は、TV局を退社してプロデューサーという花形の仕事を自ら閉ざし、息子を連れて故郷の秋田県横手に戻り、引退したばかりの実兄に代わって納豆製造業の仕事を始めること。作業所の隅に住み込み、朝から晩まで息子と一緒に過ごし、息子とともに納豆作りに励む日々。
そんな生活を続けていく中で次第に息子は精気を取り戻し、納豆作りに楽しみを見出すとともに生活に手応えを感じるようになる。

いくら息子のためとはいえ、実際に仕事を辞めるということまではなかなかできないことだと思います。主人公の場合、地方に実家があり、その実家がやっていた稼業を継ぐという転身の道があったという点も有利だったと正直思わざるを得ない。
親としてみれば、子供の今の現状から少しでも一歩上に向かって欲しいというのは当然のことでしょう。
でもその今が崩れたら、全てをリセットする他ない、それが子に対する親の愛情である責務である。本書はそんなメッセージを伝える作品であると思います。
子供の親である立場としては、複雑な思いで読まざるを得ない一冊。

 


 

to Top Page     to 国内作家 Index