島田荘司作品のページ


1948年広島県生、武蔵野美術大学卒。1981年「占星術殺人事件」にて作家デビュー。


1.
透明人間の納屋

2.犬坊里美の冒険

3.追憶のカシュガル

  


    

1.

●「透明人間の納屋」● 

透明人間の納屋画像

2003年07月
講談社刊

(2000円+税)

2009年02月
講談社ノベルス

2012年08月
講談社文庫化


2003/10/18


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“かつて子どもだったあなたと少年少女のための−ミステリーランド”シリーズ(講談社)の第1回配本作品。

主人公・ヨウが9歳、F市で暮らした頃の思い出というストーリィ。離婚して母子2人暮しとなり、遊び相手もなく孤独だった主人公にとって、隣の印刷会社、真鍋さんとの交流だけがすべてだった。真鍋さんは主人公に、広大な宇宙のこと、宇宙人のこと、透明人間のことを語り、皆平等という理想的な国で暮らす希望を主人公に語ってくれます。
しかし、F市で真鍋さんの知り合いだった女性が殺害され、その後主人公の思い込みで仲違いしたことから、真鍋さんは主人公の前から去っていく。
その殺人事件の真相、宇宙人および透明人間の謎が解き明かされるのは、その後何年も経ってから届いた真鍋さんの手紙によるものだった。
赤と黒の強烈な表紙、恐ろしげな挿画、いくら主人公が少年とはいえ、陰鬱な雰囲気さえ感じる本書を果たして子供たちが読みたがるものなのか、というのが最初に感じたこと。
本作品は、冒険ミステリ風でありながら、本質的にかなり重たい現実問題を含んでいます。
もう少し明るく、楽しさのあるミステリを期待したのに、というのが正直な思いです。

  

2.

●「犬坊里美の冒険」● 


犬坊里美の冒険画像


2006年10月
光文社刊
カッパノベルス
(1048円+税)

2009年08月
光文社文庫化

   

2006/12/25

 

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司法修習生、27歳の犬坊里美が活躍する司法ミステリ。

堂々と司法試験に受かった実力の持ち主だというのに、司法修習のため岡山にやって来た犬坊里美は自信無げでまるで弱々しい。
修習を引受けた弁護士から注意される里美のミニスカート姿も、容姿に自信があるからというのではなく、単に膝丈のスカートを着るとO脚であること強調されるのでという、消極的な理由。
そんな里美がのっけから担当することになったのは、衆人環視の総社神道宮で腐乱死体が発見され、しかもその直後に死体が消えたという摩訶不思議な事件。
犯人として起訴されたのは、性犯罪で逮捕歴があるホームレス。しかもその被疑者、里美たちに弁護士に倣岸、黙止の態度をとり続けるという難物。

この犬坊里美、自信がないと言っては泣き、先輩弁護士や被疑者に怒鳴られては泣き、窮地にはまればまた泣きべそをかくといった、呆れるくらいの泣き虫。
ミニスカート姿の若い女の子故の可愛さといっても、27歳になってこれではなァ・・・。いくら何でも度が過ぎると思うところ。
それでも司法にかける正義感はしっかり持っていて、自信なさに揺れながら粘り粘って最後に真相を明らかにするという展開が、本ストーリィの見処です。

正直言って事件の謎は、大したことはありません。ストーリィの真ん中くらいのところで真相は見えてしまいますから。
それでも途中で名言に出会えるのは、ベテラン作者の味というべきでしょう。
いくら何でも、と感じる犬坊里美のキャラクターですけれど、シリーズものになればまた里美に会いたくなって次作にも手を伸ばしてしまう、そんな気がしています。

        

3.

●「進々堂世界一周 追憶のカシュガル」● ★★


追憶のカシュガル画像

2011年04月
新潮社刊

(1500円+税)

  

2011/05/22

  

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世界放浪の旅から戻ったばかりの京大医学生・御手洗潔が、京大を目指して浪人中のサトルを相手に、放浪中の体験談を語る、という趣向の連作短篇集。
なお「
進々堂」とは、京大の傍にある、2人が知り会った珈琲店の名前。

いずれの篇も、旅情と哀切感に満ちていて、印象的です。
「進々堂ブレンド 1974」は、高校時代のサトルが、あるスナックの女性に恋した思い出を御手洗に語る篇。
「シェフィールドの奇跡」は、英国のシェフィールドという街で御手洗が出会った、知能障害児の青年とその父親が偏見と闘った、その涙ぐましい物語を語った篇。
「戻り橋と悲願花」は、御手洗がロスで出会った韓国人男性チャン氏による、戦時中の日本下で彼の姉と本人が味わった過酷な運命の物語を語った篇。
「追憶のカシュガル」は、ウィグルのカシュガルで、ホームレスの老人から御手洗が聞いた、戦時中の数奇な物語。

特に後半2篇にはサスペンスティックな要素もありますが、その物語に入る前に、曼珠沙華や桜の花について京都の街を散策しながら語り合うといった、導入部分に味わいがあって、何ともいえない余韻の残る連作短篇集に仕上がっています。

※島田荘司さんのミステリ作品は読んだことがないので知りませんでしたが、御手洗潔とは、デビュー作以来の島田作品における名探偵とのこと。本書に登場するのは、若き日の御手洗潔という設定だそうです。

進々堂ブレンド 1974/シェフィールドの奇跡/戻り橋と悲願花/追憶のカシュガル

     


  

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