とくに関心を引かれることはなかったのですが、書評家の小谷真理さんが余りに絶賛しているので、物は試しにと読んみた一冊。
ところが読んでみて驚きました、こりゃあ何て面白い!と。
日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作ですが、単なるファンタジーに留まらず、極め付けにスリリング! こんなファンタジー、こんなスリリングさ、そのどちらにしても、そんじょそこらに転がっているものではない、という面白さです。
ストーリィは、蟲が急激な変異をして文明化し、ヒト社会に進出した社会が舞台。そして数多い蟲の中でも特に飛び抜けた能力を発揮したのが膜翅目、つまりハチやアリ。
この双翅目、社会性生物としてはヒトに優り、高度成長社会を支えるのに欠かせない存在となった、という次第。
主人公の槙田修は、企業経営者として成功したクロオオアリの女王オオヌサからの依頼によるその歴史録を納品したばかりのところ。
その槙田の元に、ボロボロの体をした一匹のクロオオアリが現れます。そのアリに懇願されて同行した槙田は、その先でワーカーとなる働きアリを無理やり女王アリに産ませているおぞましい光景を見い出します。そこは“アリ工場”。現場をビデオ撮影した槙田は相手に気付かれ、追われることになります。その工場の実質経営者は長年にわたり市長として満生市を牛耳ってきた秋津正三郎。クロオオアリ専門の派遣会社と結びついて私腹を肥やしてきた人物である。
そこから、槙田を追う冷酷な秋津一味と、誰からの依頼なのか槙田を守ろうとするキイロスズメバチたちの攻防がスリリングに描かれていきます。さらにオオスズメバチ、数種のアリたちも加わり、スリリングさはこの上なく高まっていく一方という展開。
スズメバチの強力ハンターぶりは百田尚樹「風の中のマリア」で味わい済ですが、本書では人間との攻防において発揮されるのですから、そのスリリングさは否応なしに優って感じられます。
またアリといいスズメバチといい、槙田の目において妖艶に捉えられているところがまた魅力。
スリリングさといい、ファンタジー性といい、どちらも一級品の魅力あり。バイオレンスが苦手な方にもお薦めです!
※なお、本書の“アリ工場”、帚木蓬生「臓器農場」を思い出させられました。 |